揺らぐ狩の答え
今戦っているあの人達は
兄のため、会えた人のため、家族のため……失いたくない誰かのために立ち上がっている
……なら、私は?
館の柱が悲鳴を上げ天井の破片がぱらぱらと落ちる。
フォドルの腕が、ゆっくりと振り下ろされようとした――その瞬間。
ガンッ!!と凄まじい衝突音。黒い圧力が横から弾き飛ばされた。
フォドル「……?」
視線が僅かにズレる。いつの間にかその腕を金髪の青年が両腕で押さえ込んでいた。
來菟「……っと、あっぶねぇな!」
片膝を床につきながらそれでも微動だにしない。フォドルの放つ圧が來菟だけを避けるみたいに弱まっている。
來菟の能力は視認した対象を自分より弱くする。
この怪物でさえ來菟の前では“格下”に落ちる。フォドルの眉が來菟を前にし不快そうに動いた。
フォドル「……またお前か」
來菟「そーそー。ズル能力で悪かったな」
ニッと笑うが決して油断せずに本気で押さえてる。
來菟「つーかさァ……」
歯を食いしばりながら叫ぶ。
來菟「俺ら活躍の場一切ねぇし!!?このくらい阻止させろ!!」
場違いなくらいの文句なのにその声が妙に心強い。
その直後。
ヒュッ、と風を裂く音。フォドルの死角から影が滑り込む。
綯緒が無駄のない足運びと冷静な目で歩いてくる。
綯緒「……させるか。バカ」
短い吐き捨て。
最小限の動きで、能力の代償がいらないくらいの最小限の力で正確無比にフォドルの急所や重心へ打撃。
なのにフォドルの体勢が確実に崩れる。
フォドル「……ちっ」
フォドルの黒い光が一瞬乱れ脈動が止まる。館の軋みが止まり、重力が消えて空気が戻る。
アマネ「…止まった、?」
ソラ「うそ…」
來菟が叫ぶ。
來菟「今だ!回復組ちゃん動け!俺ずっとは抑えらんねぇ!!」
綯緒「長期戦だ。手早く立て直せ」
あまりにも普通な声。戦場なのにまるで日常みたいだ
でもその背中は、確実に味方だった。フォドルはゆっくり二人を見る。
感情の薄い瞳の奥にはほんの僅かな興味。
フォドル「…雑兵にしては、面白い」
來菟「雑兵言うな傷つくわ!?」
綯緒「喋る余裕あるなら集中しろ」
來菟「はいはいわかってるよーだ!」
軽口を叩きながらでも一歩も退かない。正面から怪物を押さえつけている。
絶望しかなかった広場に、ほんの少しだけ「まだ戦える」という光が灯った。
崩れかけた広場に黒炎が走り、植物の蔓が床を裂いて瓦礫を絡め取り足場を作る。
砮裏の黒炎が弧を描きフォドルの進路を焼き切って、奈子の植物が瞬時に芽吹き壁となって仲間を守る。
砮裏「……下がれ!」
奈子「こちら、通させません……!」
二人ともまだ完全じゃない。身体は重いままで傷も残ってる。それでも立つことを、戦うことを選んだ。
その少し後ろの瓦礫の影でララメは膝を抱えて座り込んでいた。
小さく丸くなっているその姿にはいつもみたいな軽い笑顔はどこにもない。
ララメ「……」
ただ床を見つめているララメにメアリーがゆっくり近づき、そっと隣にしゃがむ。
メアリー「…ララメさん?」
返事がない。少し間があってやっと小さな声。
ララメ「……わかんない」
本当に迷子みたいな声。
ララメ「私……」
指先がぎゅっと自分の服を掴む。
ララメ「ヤグも霣羅も、メアリーちゃんも…正義に行って、蒼柄くんはいなくて」
メアリー「……」
ララメ「でも司令官も、トゥトゥちゃんも……まだ狩のままで……」
敵と味方が混ざってぐちゃぐちゃになっている。昔の仲間と今の仲間と家族みたいな人達とが全部バラバラ。
ララメ「私も狩のはずなのに……」
声が震える。
ララメ「こんなに揺らいで、どっちに行けばいいのか分からないの……」
ぎゅっと目を閉じる。
ララメ「司令官に敵扱いされるのも嫌で、でもこのまま霣羅達が負けちゃうのも嫌で……」
ララメ「……どうしたらいいの……」
戦場の爆音の中。そこだけやけに静かだった。
メアリーは少しだけ目を伏せ、それからいつも通りのゆるい声で
メアリー「ララメさん」
ララメ「……?」
メアリー「わたくし、正義とか悪とか…よく分からないのです」
ララメ「え」
メアリー「だって、わたくし幽霊ですし」
さらっと。いつもの調子。
メアリー「なので……」
ララメの手にそっと触れる。決して腐らない、冷たいけど優しい感触。
メアリー「わたくしは“好きな人の隣”に立つことにしました」
メアリー「それだけです」
ララメ「……」
メアリー「先輩が死ぬの嫌ですし、ララメさんが泣いてるのも嫌です」
ララメ「……」
メアリー「なので、そっちに行くだけなのです」
いつもの、ふにゃっとした笑顔。
メアリー「難しいこと考えるの、ララメさんらしくないですよ」
ララメ「…そうかも」
メアリー「ララメさん、バカっぽくてかわいいですし」
ララメ「は!? 最後いらなくない!?」
思わずツッコミが出た瞬間、少しだけ空気が戻る。
メアリー「考えるのは賢い人に任せましょう」
ララメ「あぁ、」
メアリー「わたくしたちは助けたい人を助けるだけでいいのです」
遠くで霣羅が砮裏を庇って黒炎を振るう。ヤグが歯を食いしばって立ち上がる。
ハウルが叫んでて、みんなボロボロなのに、それでも“誰かのため”に動いてる。
ララメの視界が滲む。
ララメ「……っ」
ぎゅっと拳を握る。
ララメ「……私さ」
ゆっくり立ち上がる。膝の震えが止まらない。でも立つ。
ララメ「昔から考えるよりびりびりしたほうが早いタイプだった!」
メアリー「知ってます」
ララメ「うるさ!」
ほっぺたを叩いて、いつものちょっと悪い笑み。
ララメ「司令官とか正義とか、もう知らない」
メアリー「えぇ!」
ララメ「ムカつくやつぶっ飛ばして、助けたいひと守る!それでいいや!」
メアリー「はい!」
ララメが拳を鳴らす。バチッと電撃が弾けた。
ララメ「行こ、メアリーちゃん!まだ終わってないっしょ?」
メアリー「もちろんです」
もう迷わないとやっと決めたララメは、メアリーと並んで戦場へ踏み出した。
さっきまで住民を攻撃して家族を捨てたと言っていた少女が初めて揺らぎましたね
14歳くらいなのに割と凄いこと決めてるなぁ、
あとメアリーちゃんはこういう時だけ妙にかっこいいです。
普段はだいぶアホです。




