あの日、帰らなかった人
淡々と様々なものが壊れていく戦場
次は___の番だ。
戦闘が勃発し、裏切り者が現れている戦場で、その少女だけは一向に変わらなかった
トゥトゥ「じゃーつぎ♡」
あまりにも軽いその声は遊びの延長みたいな調子
シュア「……っ、やめて、」
柵に体を預けほとんど立てない状態で腕を前に出して防御の構え。
震えているのは当たり前だが、それでも前に立つ。
"角灯"はもういないのに
…トゥトゥから、“誰かを守る”みたいに
トゥトゥ「やーぁーだ♡」
にっこりと子どもみたいな笑顔だった
次の瞬間
空気が爆ぜて拳が叩きつけられる
…それだけ。
トゥトゥからしたら、ただ少し体を動かしただけ。
技も能力もない純粋な暴力でシュアの防御ごと身体が弾き飛ぶ。
シュア「――ッ!!」
声にならない。
人形みたいに軽々と一直線に吹き飛ばされた軌道の先には、瓦礫に腰掛けていた二人。
ララメ「……あ」
メアリー「……え」
シュアの身体がメアリーの足元に転がり、砂埃が舞う。
…しばらく動かない。動けない。
メアリー「……シュア、さん……?」
返事はなく、代わりに輪郭が歪んだ。
ララメ「……は?」
メアリーの呼吸が止まる。
皮膚みたいだったものが溶ける。
影が剥がれて殻が割れる。
角灯の時と同じ
「偽物が外れる」感覚。
メアリー「……うそ……」
髪の色が変わり、背が少し伸びて服が崩れ落ちる
……そして現れたのは
シュアより少し大人びた女性。
見覚えのある、忘れるはずのない顔。
記憶の奥にずっと焼き付いていた人
メアリーの喉がひくりと鳴る。
メアリー「…………」
声が出ない。
ララメ「……誰?」
返事はない
メアリーの震える唇がゆっくり開く。
メアリー「……な、こ……さん……?」
掠れた声。指先が震えながら本当にゆっくりと近づく
……間違いない。
あの日
「先帰ってていいですよ〜」って笑ってそれきり帰ってこなかった人
ずっと「失踪」だと思ってた
ずっと「自分が疑われた原因」だった人
館で一緒に働いて
くだらない話して
お菓子つまみ食いして怒られて
笑ってたあの人。碧梧 奈子。
メアリー「……なんで……」
能力を制御し手が彼女の頬に触れる
…冷たい。でも確かに“奈子”。
化け物じゃない。偽物じゃない。
メアリー「…なんで…ここに、いるんですか……」
トゥトゥがくすくす笑う。
トゥトゥ「あ、知り合い?♡」
メアリーの肩がびくっと震える。
トゥトゥ「この子ねー"シュア"ねー!素材として結構優秀だったんだよ?だからちょっと改造して使ってたの♡」
軽い。
あまりにも軽い。
命の話をしてるのにトゥトゥからしたらおもちゃの話のようでしかない。
トゥトゥ「ま、壊れちゃったけど♡」
ララメの目が細くなる。
ララメ「……トゥトゥちゃんさぁ」
声の温度が下がる
その声は今までで一番低い。
ララメ「ほんと趣味悪い、」
でもメアリーは動かないまま奈子の体を抱き起こしてぎゅっと抱きしめる。
小さく、小さく震えている。
壊れ物のように、失わないように。
メアリー「……ごめんなさい……」
ぽつり。
メアリー「……わたくし、先に帰っちゃって……」
ぽつり、ぽつりと素の声。
メアリー「……迎えに行けばよかった……」
ずっと胸に残ってた後悔と罪悪感。
疑われたことより
処刑されたことより
……それが一番辛かった。
ララメ「……メアリーちゃん」
メアリーは顔を上げる。顔が赤くてぐしゃぐしゃ。
初めて見る光。
怒り、そして明確な殺意。
メアリー「……ララメさん」
静かに。震えない声で。
メアリー「ちょっと……本気、出してもいいですか」
遠くでトゥトゥが楽しそうに首を傾げる。
トゥトゥ「お?いいよいいよ!そういう顔、だーいすき♡」
空気が変わる
今度は、メアリーの番だった。
処刑されたことよりも疑われた事よりも、「あの日帰らなかった人」の存在が、何よりメアリーの心を蝕んでいたんですね
メアリーちゃん編です。短くなりました
霣羅あんな長かったのに…




