青年の"狩"が消えた時
広場に瓦礫の山、焦げ跡、血の匂い、呻き声すらもうほとんどない。立っている者の方が少なかった。
その中で小さく石が崩れる音。ソラの指が動いた。
来た時持っていた刀なんてとっくにどこかに落としてしまっている。
ソラ「……っ……ぁ……」
肺に空気を入れるだけで痛い。肋骨が軋む。脚が震える。アマネの回復で傷は塞がっている。でも治っただけだ。
痛みの記憶も恐怖も疲労も消えていない。それでもソラは、無理やり体を起こした。膝が笑い視界が揺れる。
それでも倒れないよう近くの瓦礫に手をつく。
ソラ(……まだ……動ける……)
來菟と綯緒がフォドルを抑えている。レイズとルガは倒れたまま。
シロクラとヤグは転がって罵り合ってる。角灯とシュアは動かない。
トゥトゥは笑ってる。ハウルのそばにはエイルとアマネとニア。守らなきゃ…また、また誰かが奪われる前に。
ソラ「……いかな、きゃ……」
足を一歩踏み出そうとしたその瞬間。ひやりと背中に影が落ちた。光が遮られる。
ソラ「……?」
違和感。振り返るより早く強い腕が背後から伸びる。口を塞がれた。
ソラ「んっ……!?」
声が出ない。背中が硬い胸に引き寄せられる。完全に拘束。呼吸が詰まる。
ソラ「んんっ、! んっ……!!」
必死に暴れる。でも力が違いすぎる。片腕だけで押さえ込まれている。首筋に吐息。そして耳元で低い声。
霣羅「……動くな」
ソラの心臓が凍る。
ソラ(……まさ、か…?)
視界の端に黒が映る。霣羅のもう片手にいつの間にか握られている刀。
その刃に纏わりつく黒炎。空気が歪む。触れただけで消し飛びそうな禍々しい熱。
ソラの喉がひゅっと鳴る。
ソラ「んっ……んんっ、!?」
逃げなきゃ。でも口を塞がれて叫べない、腕も動かない、足も浮いている、完全な無力。
霣羅は淡々と感情のない目で刀をゆっくり持ち上げる。まるで処刑みたいに。
霣羅「……操作のお返しだ」
ソラの瞳が見開かれる。あの時必死で霣羅を操って、壁に縫い付けて刀を奪って。アマネとニアと逃げた。あれは仕方なかった。
守るためだった。でも霣羅にとっては「支配された」事実。屈辱、侮辱……それだけ。黒炎がじりっと音を立てる。
熱いのに背筋が冷える。刃先がゆっくりソラの腹へ向かって降りてくる。
ソラ「……っ……!!」
声にならない悲鳴。涙が滲む。怖い。痛いのやだ。でもそれよりみんなのところに行かなきゃ。守らなきゃ。
その想いだけがぐちゃぐちゃに渦巻いて。ソラの指先がかすかに霣羅の腕を掴んだ。震えながら。抵抗にもならない力で。
ソラ(……ごめん……でも……)
目を閉じない。逸らさない。霣羅を真正面から睨む。黒炎が目前まで迫った。
次の瞬間——。
ド ン ッ !!!!
鼓膜を叩き潰すような轟音。床が跳ね、空気が爆ぜた。爆風が広場全体を薙ぎ払う。
ソラ「っ!?」
霣羅の動きが止まる。黒炎が揺らぐ。全員の視線が同時に上へ向いた。
二階。角灯とシュアがもたれかかっていた柵の奥。そこに黒煙の中笑う影。トゥトゥ。
そして——
トゥトゥ「はい、壊れた〜」
軽い声。次の瞬間。
バキィンッ!!
何かが砕ける硬質な音。淡く光る結晶体。
角灯の胸部に存在する“核”。
それが粉々に弾け飛んだ。
角灯「_____」
力が抜ける。糸が切れた人形みたいに。体がぐらりと傾いた。そのまま二階の柵を越えて落下。
ソラ「……角灯さん……!?」
落ちてくる。まっすぐ一階へ……
落ちながら角灯の体が歪んだ。
バチッ……バチバチッ……とノイズ。
光と共に装甲が剥がれる。金属が剥離し内側から“別の形”が現れる。
無機質な黒い肌、ランタンの形をした異形の頭、片翼も巨体も全部が崩れて現れたのは
……生身。
血の通った青年の身体。メガネをかけた黒髪長髪の青年。見覚えのないただの男。
ソラ(……え……誰……?)
角灯じゃない別人。ただの男性。そのまま地面に叩きつけられる——
はずだった。
その瞬間。ソラの口を塞いでいた腕が消えた。霣羅が動いていた。
考えるより先に、呼吸より速く。地面を蹴り、床が砕ける。一瞬で落下地点へ滑り込み、空中で青年の身体を抱き留めた。
ほとんど衝撃もなく着地。完璧な受け身、守る動き、完全に「助ける側」の動きだった。
霣羅「……っ……」
自分の腕の中、軽い体、温もり、鼓動、生きてる。目隠しの奥の霣羅の瞳が大きく揺れた。
霣羅はこの瞬間、確実に「狩」ではなくなっていた。
今回からですね。
トゥトゥちゃんがド戦犯なのはいうまでもなく
"角灯さん"の核は壊れましたが、他にも壊れたものがありそうです




