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館護戦線  作者:
館護戦線
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まだ立とうとする者達へ

アマネ「……っ、もうちょっと……もうちょっとだけ……!」


小さな手がハウルの胸に重なる。淡い光と氷の粒みたいな輝きがじんわりと体内へ溶けていく。


裂けた皮膚、内出血、歪んだ呼吸。一つずつゆっくり、確実に整っていく。


アマネ「お願い……戻って……お願い……」


声が震える。治療は得意。でも「失うかもしれない人」を治すのがこんなに怖いなんて。


数秒、いや…体感は数分


ハウル「……ぅ……」


かすかな息。胸が上下する。


アマネ「……っ!」


もう一度強く光を流す。ハウルの苦しそうに歪んでいた眉がゆっくりほどけていく。食いしばっていた歯も緩む。


呼吸が静かに、穏やかに。


アマネ「……よかった……」


ぺたんとその場に座り込む。全身から力が抜ける。


アマネ「……助かった……助かったよぉ……」


涙がぽろぽろ落ちた。その隣でニアがきょろっと辺りを見渡す。


ニア「……ねぇ、アマネちゃん……」


アマネ「……?」


ニア「……上……」


上?とつられて視線を上げる。広場の二階に崩れかけた通路と柵。

その影に人影。


ニア「……あれ……」


柵にもたれかかる二つの体。角灯とシュア。二人ともぐったりしている。


首がだらんと落ちて、腕も力なく垂れて、まるで糸の切れた人形みたいにピクリとも動かない。


アマネ「……うそ……」


嫌な汗が背中を伝う。その奥、暗がりの中にひとつだけ。場違いな白い影…そして。


にぃっと三日月みたいに吊り上がった口。トゥトゥが柵に腰かけて足をぶらぶらさせながら笑っている。


ただ楽しそうに観劇でもしてるみたいに。


トゥトゥ「……あは」


小さな笑い声がやけに響く。


トゥトゥ「ほんと、みんな必死だねぇ」


軽い声。戦場の空気と全然合ってない。ニアがぎゅっとアマネの袖を掴む。


ニア「……あのこ……やだ……」


アマネも言葉が出ない。あれは強さとかじゃない。もっと別の、「関わっちゃいけない種類の何か」。


トゥトゥは顎に手を乗せ、下の惨状を眺めながら


トゥトゥ「壊れる音ってさぁ、やっぱ近くで聞く方が気持ちいいよね!」


にこにこと心底楽しそうに。


そして角灯の壊れたランタンを、つま先でコツッと蹴った。乾いた音が落ちる。


その音が妙に胸に刺さった。


アマネ「……た、助けなきゃ……」


小さく呟く。でも足が動かない。怖い。本能が拒否してる。


下では怪物上には狂気なんて逃げ場がない。

戦場はまだ底があった。


まだ悪夢が増える……そんな最悪の予感が静かに広場を包んでいた。


崩れた壁の瓦礫の中で粉塵がまだ薄く舞っている。焦げ臭い匂い、血の匂い、静まり返った戦場の隅で小さく石が転がる音がした。


……ぴくっとシロクラの指先が動く。


シロクラ「……っ……は……」


痛みなんて無いはずなのに肺が焼けるみたいに痛い。呼吸するだけで肋骨が軋む。


全身が鉛みたいに重い。爆発の反動で能力も体力もほぼ空。指一本動かすのも億劫。それでも無理やり瞼をこじ開ける。


ぼやけた視界、割れた天井、瓦礫

…そしてすぐ隣。


見慣れた最悪の顔、ヤグが同じように仰向けで転がっている。


血だらけで、泥だらけで、死体みたいに動かない。シロクラの口が歪んだ。


シロクラ「……生きてんのかよ、屑が」


掠れた声。咳混じり。返事はない。


数秒の沈黙。あ、死んだか?なんて思って、ほんの一瞬だけ胸の奥が妙に静かになった。

その時。


ヤグ「……こっちのセリフだ……爆破馬鹿……」


低く、苛立った声。


シロクラ「……っは」


笑いそうになって腹が痛んで顔をしかめる。ヤグも目を開けていた。片方は血で塞がっている。


ヤグ「……うるせぇな……寝かせろ……」


シロクラ「死ねば永眠だろ……」


ヤグ「テメェから先に死ね……」


二人とも起き上がれない。指先すらまともに動かない。


ただ同じ地面に転がって上を見上げながら、悪態だけを吐き合う。シロクラの視線がゆっくり戦場の中心へ向く。


フォドルが立ってて來菟と綯緒が抑えてる。倒れてる仲間たち、そして自分。

何もできない悔しさが喉を焼いた。


シロクラ「……テメェらが来なけりゃ……」


歯を食いしばる。拳を握ろうとして力が入らない


シロクラ「……平和だったんだよ、!」


本音だった。あいつらが来なければ、狩なんて来なければ、ハウルもソラも、みんなこんな目に遭わなかった。


……遭う必要なんて、なかったんだ


そう思ってしまう。

ヤグが吐き捨てるように笑った。


ヤグ「……知るか」


シロクラ「……あ?」


ヤグ「テメェらみてぇのがな……」


ゆっくり首だけ動かしてシロクラを見る。その目は怒りで濁っていた。


ヤグ「……一番腹立つんだよ」


ヤグ「被害者ヅラして、全部他人のせいにしやがって……」


ヤグ「さっさと死ねばいいんだ!」


空気がぴりっと張る。シロクラの額に青筋が浮いた。


シロクラ「……っ、んだとコラ……!」


起き上がろうとするが当然無理だ。そのまま顔面から地面に落ちる。


シロクラ「……っぐ……!」


ヤグ「ダッセ……」


シロクラ「うるせぇ……テメェも動けてねぇだろ……」


ヤグ「……チッ」


沈黙。荒い呼吸だけが重なる。しばらくして。シロクラが小さく呟く。


シロクラ「……次……立ったら……」


ヤグ「……あぁ」


シロクラ「……絶対殺す」


ヤグ「望むところだ、クソガキ」


どっちもまだ目は折れてない。動けないくせに、まだ戦う気だけは満々。最悪で最低で、でも確実に生きている二人だった。

まだ悪夢は終わりません

ヤグとシロクラの醜い言い争いは書いてて気分の良いものではないですねぇ…


つぎからです

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