怪物には届かない
広場に重たい沈黙が落ちていた。瓦礫。焦げ跡。血の匂い。立っている者より倒れている者の方が多い。
その異様な光景へ廊下の奥から足音が響く。バタバタと焦った不揃いな足音。
ソラ「はぁ……っ、はぁ……っ……!」
先頭を走るのは刀をもったままのソラ。その後ろにアマネ、ニア。
アマネの能力のおかげでソラの傷は塞がっている。貫かれていたはずの身体ももう動く。
でも痛みの記憶だけは消えていない。胸を押さえながら広場へ飛び出す。そして視界に入った光景に足が止まった。
ソラ「……え……」
レイズが血まみれで膝をつき、ルガが倒れ、知らない男が無傷で立ち。
エイルが誰かを抱きしめて泣いていて。
ララメとメアリーがなぜかのんびり座っている。
意味が理解できない。
ソラ「……なに、これ……」
喉がひゅっと鳴る。戦場なんて言葉じゃ足りない。
“壊滅”
その二文字が似合う光景。
ニア「……っ」
ニアがソラの服をぎゅっと掴む。
ニア「……こわ……」
アマネも言葉を失っていた。
アマネ「……回復、追いつかないよ……これ……」
治せるが人数が多すぎる上被害も大きすぎる。そして広場の中心。黒いコートの男。
フォドルがゆっくり視線だけをこちらに向けた。その瞬間空気が凍る。
心臓を直接握られたみたいな圧。ソラの背中に冷たい汗が流れる。
ソラ(……この人が……全部やったの……?)
本能が叫ぶ。
「近づくな」
「逃げろ」
「勝てない」
でもエイルの腕の中に見覚えのある髪色が揺れた。
ソラ「……ハウルさん……?」
地面に横たわるその姿。動かない。血。拘束。ソラの瞳が大きく見開かれる。
ソラ「……うそ……」
一歩無意識に踏み出す。
ソラ「……ハウルさん……っ」
声が震える。さっきまで一緒にいた仲間が、いつも軽口叩いてた人がまるで物みたいに転がされている。
ソラの指先がかすかに震えた。恐怖か怒りか混乱か…全部ごちゃ混ぜ。ララメがひらひら手を振る。
ララメ「あ、新入り組きた〜」
メアリー「増えましたねぇ」
ララメ「どうする?混ざる?」
メアリー「めんどいのです」
この温度差にソラの頭が追いつかない。
ソラ「……なんで……そんな普通なの……?」
思わず零れた本音。その時フォドルがゆっくり口を開く。
フォドル「また増えたか。今日は随分と賑やかだな」
ただの感想みたいに。まるで虫が増えたくらいの声音にゾッとする。
生き物として格が違う。ソラは歯を食いしばる。怖くて足が震える。それでもソラは一歩前へ出た。
ソラ「アマネちゃん、ニアちゃん…頑張って隙を作れるだけ作るから、みんなの回復と防御…お願い……」
アマネの能力は氷系統と回復、ニアはバリア。2人の相性は良い。
守らなきゃ…今度こそ。もう誰も奪わせない。
震えながらでもソラはフォドルを睨んだ。小さな体で。巨大な怪物を真正面から。その姿を見てフォドルの目がわずかに細まる。
フォドル「……ほう、まだ折れない個体がいるか」
空気がさらに重く沈んだ。戦場が、また動き出そうとしていた。
アマネとニアの手を、ソラは強く引いた。
ソラ「ハウルさんのところへ! 二人とも、早く!」
アマネ「え、でもソラさんは……!」
ニア「いっしょに行く……!」
ソラ「私は大丈夫です」
即答だった。自分でも少し笑ってしまう。大丈夫なわけがないのに。
ソラ「回復、お願いします。みんなを……絶対助けて」
その一言に二人は言い返せなくなった。
アマネ「…絶対、すぐ治すから!」
ニア「…ニアもまもる……!」
二人はハウルの元へ駆け出す。その背中を見送って。ソラはゆっくりと振り返った。
広場の中心に黒いコートの男、フォドル。視線が合った瞬間喉が凍る。
心臓が嫌な打ち方をする。本能が理解している。
――勝てない、それでも。
ソラ(……時間、稼がなきゃ)
ぎゅっと拳を握る。胸の奥がまだ少し痛む。さっき刺された感覚が幻みたいに残っている。それでも脚に力を込めた。
ソラ「……こっち、です」
小さく呟き地面を蹴る。一直線にフォドルへ
フォドル「……自分から来るか」
呆れた声。次の瞬間。視界からフォドルが消えた。
ソラ「――っ」
来る。そう分かった時にはもう遅い。腹部に鉄塊みたいな衝撃。フォドルの拳。ただそれだけなのに。空気が爆発した。
ソラ「あ"っ……!!?」
呼吸が消し飛ぶ。胃が潰れて背骨が軋み、そのまま地面に叩きつけられ石畳を滑る。
止まった頃には指先すら動かない。視界が滲む。音が遠い。
フォドル「終わりか」
足音が近づき冷たい影が落ちる。立てない。身体が言うことを聞かない。
(……まだ……)
その時、遠くから淡い光が走る。
アマネ「ソラさん……!」
温かい力が体を包む。砕けた骨が戻る。裂けた内臓が繋がる。痛みも違和感もない回復、ソラは歯を食いしばった。
ソラ「……っ……は……!」
無理やり腕を動かして地面を掴む。そしてゆっくり立ち上がる。フォドルの目がわずかに細まる。
フォドル「……回復能力者か」
ソラ「はい…だから…」
膝が震えても倒れない。
ソラ「何回でも、立てます…!」
フォドル「馬鹿だな」
ソラ「…知ってます、」
涙が滲む。怖い、本当に怖い。でも。
ソラ「…みんなが治るまで…あなたの相手は、私です!」
もう一度踏み込む。拳を握って。盾みたいに。フォドルが今度は少しだけ本気の構えを取る。
空気が重くなる、それでもソラは止まらない。吹き飛ばされても。潰されても。治してもらってまた立つ。
ただそれだけ、それだけを何度でも繰り返す。小さな背中が。誰よりも前に立ち続けていた。
ソラは何度目か分からない衝撃で地面に叩きつけられた。石畳が砕け砂煙が舞う。起き上がろうとして…
でも
ソラ「……ぁ……」
指が動かない。脚も。呼吸も。限界だった。回復は受けている。でも治しては壊され治しては壊され。
もう身体が「立つ」ことを拒否している。
フォドル「……鬱陶しい」
心底面倒くさそうな声。それが逆に残酷だった。
フォドル「虫のように何度も湧き上がってくる」
ゆっくりと手を上げた次の瞬間。見えない衝撃波。ソラの身体が再び吹き飛び、壁に激突した。動かない。完全に沈黙。
アマネ「ソラさんっ!!」
ニア「……っ!!」
フォドルの視線が次へ移る。レイズとルガ。まだ回復されていない二人。フォドルは無言で踏み込んだ。
レイズ「……来いよ……」
立っているのがやっと。それでも睨みつける。
だが
フォドル「遅い」
拳。それだけでレイズの身体が折れ、地面に叩き伏せられる。
ルガ「兄さん!」
駆け寄った瞬間視界が白く弾ける。ルガも崩れ落ちた。たった数秒で全滅。皆瓦礫の中で動けない。
フォドル「……終わりだな」
広場に立っているのはフォドル一人だけ。その光景が何よりも「格差」を物語っていた。
人数が多い回って書くの大変ですね…(疲労困憊)
次はあの二人が登場します




