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館護戦線  作者:
館護戦線
25/76

怪物には届かない

広場に重たい沈黙が落ちていた。瓦礫。焦げ跡。血の匂い。立っている者より倒れている者の方が多い。


その異様な光景へ廊下の奥から足音が響く。バタバタと焦った不揃いな足音。


ソラ「はぁ……っ、はぁ……っ……!」


先頭を走るのは刀をもったままのソラ。その後ろにアマネ、ニア。


アマネの能力のおかげでソラの傷は塞がっている。貫かれていたはずの身体ももう動く。


でも痛みの記憶だけは消えていない。胸を押さえながら広場へ飛び出す。そして視界に入った光景に足が止まった。


ソラ「……え……」


レイズが血まみれで膝をつき、ルガが倒れ、知らない男が無傷で立ち。


エイルが誰かを抱きしめて泣いていて。


ララメとメアリーがなぜかのんびり座っている。


意味が理解できない。


ソラ「……なに、これ……」


喉がひゅっと鳴る。戦場なんて言葉じゃ足りない。


“壊滅”


その二文字が似合う光景。


ニア「……っ」


ニアがソラの服をぎゅっと掴む。


ニア「……こわ……」


アマネも言葉を失っていた。


アマネ「……回復、追いつかないよ……これ……」


治せるが人数が多すぎる上被害も大きすぎる。そして広場の中心。黒いコートの男。


フォドルがゆっくり視線だけをこちらに向けた。その瞬間空気が凍る。


心臓を直接握られたみたいな圧。ソラの背中に冷たい汗が流れる。


ソラ(……この人が……全部やったの……?)


本能が叫ぶ。


「近づくな」


「逃げろ」


「勝てない」


でもエイルの腕の中に見覚えのある髪色が揺れた。


ソラ「……ハウルさん……?」


地面に横たわるその姿。動かない。血。拘束。ソラの瞳が大きく見開かれる。


ソラ「……うそ……」


一歩無意識に踏み出す。


ソラ「……ハウルさん……っ」


声が震える。さっきまで一緒にいた仲間が、いつも軽口叩いてた人がまるで物みたいに転がされている。


ソラの指先がかすかに震えた。恐怖か怒りか混乱か…全部ごちゃ混ぜ。ララメがひらひら手を振る。


ララメ「あ、新入り組きた〜」


メアリー「増えましたねぇ」


ララメ「どうする?混ざる?」


メアリー「めんどいのです」


この温度差にソラの頭が追いつかない。


ソラ「……なんで……そんな普通なの……?」


思わず零れた本音。その時フォドルがゆっくり口を開く。


フォドル「また増えたか。今日は随分と賑やかだな」


ただの感想みたいに。まるで虫が増えたくらいの声音にゾッとする。


生き物として格が違う。ソラは歯を食いしばる。怖くて足が震える。それでもソラは一歩前へ出た。


ソラ「アマネちゃん、ニアちゃん…頑張って隙を作れるだけ作るから、みんなの回復と防御…お願い……」


アマネの能力は氷系統と回復、ニアはバリア。2人の相性は良い。


守らなきゃ…今度こそ。もう誰も奪わせない。


震えながらでもソラはフォドルを睨んだ。小さな体で。巨大な怪物を真正面から。その姿を見てフォドルの目がわずかに細まる。


フォドル「……ほう、まだ折れない個体がいるか」


空気がさらに重く沈んだ。戦場が、また動き出そうとしていた。


アマネとニアの手を、ソラは強く引いた。


ソラ「ハウルさんのところへ! 二人とも、早く!」


アマネ「え、でもソラさんは……!」


ニア「いっしょに行く……!」


ソラ「私は大丈夫です」


即答だった。自分でも少し笑ってしまう。大丈夫なわけがないのに。


ソラ「回復、お願いします。みんなを……絶対助けて」


その一言に二人は言い返せなくなった。


アマネ「…絶対、すぐ治すから!」


ニア「…ニアもまもる……!」


二人はハウルの元へ駆け出す。その背中を見送って。ソラはゆっくりと振り返った。


広場の中心に黒いコートの男、フォドル。視線が合った瞬間喉が凍る。


心臓が嫌な打ち方をする。本能が理解している。


――勝てない、それでも。


ソラ(……時間、稼がなきゃ)


ぎゅっと拳を握る。胸の奥がまだ少し痛む。さっき刺された感覚が幻みたいに残っている。それでも脚に力を込めた。


ソラ「……こっち、です」


小さく呟き地面を蹴る。一直線にフォドルへ


フォドル「……自分から来るか」


呆れた声。次の瞬間。視界からフォドルが消えた。


ソラ「――っ」


来る。そう分かった時にはもう遅い。腹部に鉄塊みたいな衝撃。フォドルの拳。ただそれだけなのに。空気が爆発した。


ソラ「あ"っ……!!?」


呼吸が消し飛ぶ。胃が潰れて背骨が軋み、そのまま地面に叩きつけられ石畳を滑る。


止まった頃には指先すら動かない。視界が滲む。音が遠い。


フォドル「終わりか」


足音が近づき冷たい影が落ちる。立てない。身体が言うことを聞かない。


(……まだ……)


その時、遠くから淡い光が走る。


アマネ「ソラさん……!」


温かい力が体を包む。砕けた骨が戻る。裂けた内臓が繋がる。痛みも違和感もない回復、ソラは歯を食いしばった。


ソラ「……っ……は……!」


無理やり腕を動かして地面を掴む。そしてゆっくり立ち上がる。フォドルの目がわずかに細まる。


フォドル「……回復能力者か」


ソラ「はい…だから…」


膝が震えても倒れない。


ソラ「何回でも、立てます…!」


フォドル「馬鹿だな」


ソラ「…知ってます、」


涙が滲む。怖い、本当に怖い。でも。


ソラ「…みんなが治るまで…あなたの相手は、私です!」


もう一度踏み込む。拳を握って。盾みたいに。フォドルが今度は少しだけ本気の構えを取る。


空気が重くなる、それでもソラは止まらない。吹き飛ばされても。潰されても。治してもらってまた立つ。


ただそれだけ、それだけを何度でも繰り返す。小さな背中が。誰よりも前に立ち続けていた。



ソラは何度目か分からない衝撃で地面に叩きつけられた。石畳が砕け砂煙が舞う。起き上がろうとして…


でも


ソラ「……ぁ……」


指が動かない。脚も。呼吸も。限界だった。回復は受けている。でも治しては壊され治しては壊され。


もう身体が「立つ」ことを拒否している。


フォドル「……鬱陶しい」


心底面倒くさそうな声。それが逆に残酷だった。


フォドル「虫のように何度も湧き上がってくる」


ゆっくりと手を上げた次の瞬間。見えない衝撃波。ソラの身体が再び吹き飛び、壁に激突した。動かない。完全に沈黙。


アマネ「ソラさんっ!!」


ニア「……っ!!」


フォドルの視線が次へ移る。レイズとルガ。まだ回復されていない二人。フォドルは無言で踏み込んだ。


レイズ「……来いよ……」


立っているのがやっと。それでも睨みつける。


だが


フォドル「遅い」


拳。それだけでレイズの身体が折れ、地面に叩き伏せられる。


ルガ「兄さん!」


駆け寄った瞬間視界が白く弾ける。ルガも崩れ落ちた。たった数秒で全滅。皆瓦礫の中で動けない。


フォドル「……終わりだな」


広場に立っているのはフォドル一人だけ。その光景が何よりも「格差」を物語っていた。

人数が多い回って書くの大変ですね…(疲労困憊)

次はあの二人が登場します

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