「消えればいい」
瓦礫が転がる広場。壁は崩れ、天井は半分落ちている。
その中央で、ルガとメアリーが息を荒げて対峙していた。ルガの腕は血に濡れ、呼吸は重い。
メアリーの霊体もところどころ輪郭が乱れ、薄くなっている。
互角。決定打がどちらにもない。
ルガ「……ちっ」
ルガが舌打ちして構え直す。メアリーはふわりと宙に浮いたまま、微笑んでいる。
いつもの柔らかい笑顔。それがルガには妙に腹立たしかった。
ルガ「どうして笑っていられるんですか」
メアリー「え?」
ルガ「仲間を殺して、平然として……」
ルガ「……あなたみたいなのは消えればいいんですよ」
その一言で空気が凍った。メアリーの動きが止まり笑顔が固まる。そして視界が暗転した。
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「裏切り者」
「信用してたのに」
「最低ね」
「消えてしまえばいいのに」
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館の廊下。冷たい視線。距離を取られる足音。メイド服の裾を掴んでも誰も振り返らない。
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メアリーは昔狩ではなかった。とある館で働くただのメイドだった。
住民とメイドが二人と執事が一人。小さくて穏やかな館。毎日掃除して料理運んで他愛ない会話して。それだけで幸せだった。
メアリー「今日のお茶、少し甘くしすぎましたかねぇ?」
同僚メイド「ふふ、でも住民様好きそうですよ?」
執事「……軽い考えで味作りを怠らないでください。馬鹿なんですか?」
メアリー「わぁ毒舌!」
笑い声。温かい日常。ずっと続くと本気で思っていた。
……あの日までは。
買い出しの帰り。一緒にいたメイドが「落とし物した」と言って別れた。
それが最後だった。帰ってこなかった。失踪。そして疑いの目がメアリーに向いた。
「一緒にいたんでしょう?」
「最後に見たのあなたよね?」
必死に否定した。それでも完全には晴れなかった。
それでも働いた。
信じてもらえると思っていたから。
けれどある日、仕事で入った部屋…床一面の赤と倒れている住民。そして冷たい身体。
メアリー「……え……?」
駆け寄った。抱き起こそうとした。服が血で汚れた。その瞬間、執事が入ってきた。
執事「……何をしているんですか?」
メアリー「ち、違います!これは——」
執事「裏切り者!!!」
その叫びですべてが決まった。説明は届かない。誰も聞かない。
「やっぱり」
「怪しかったのよ」
「メイドが狩と繋がってたんだ」
気づけば牢の中だった。暗くて冷たい石の床。そして真実を知る。
京 皐 / かなど さつき
この異能力を持つ人外がありふれた世界では珍しい人間の男性。
人間として優遇される立場でありながら、穏やかな顔つきと所作で住民からの信頼を得ている、周りから見ればただの人格者。
……ただ、その執事。皐こそが本物の裏切り者だった。住民を殺して罪をなすりつけた張本人。それを必死に訴えた。
でも、誰も信じなかった。
人間だからか、皐という執事が日頃から積み重ねた信頼からか。
結果、メアリーは処刑された。
方法は——溺死。
目隠し
拘束
海へ
メアリー「いや……いや……!」
息ができない。
暗い。
苦しい。
冷たい水へ落ちていく。
怖い。助けて。誰か…信じて。
結局、誰も、来なかった。
そこで人生は終わった…はずだった。
気づけば海辺に立っていた。崖の下の水面。そこに。腐った自分の死体。
メアリー「……ぁ……」
手を見ると透けている。足はもうない。触れた石がじわりと腐る。そして理解した。自分はもう生き物じゃない。
幽霊だ。そして、水が酷い弱点となりトラウマを抱いた。
絶望して動けなかった。
メアリー「もう嫌、嫌…なんで、館に貢献していたはずなのに……」
その時、声が聞こえた。
ヤグ「……人外の館が嫌になったんなら、狩やらねぇか?」
血まみれの男で怖かった。でももう何も残っていなかった。
だから頷いた。それがメアリーという狩の始まりだった。
フラッシュバックが終わる。
戦場。目の前にはルガ。
ルガ「……どうしたんです」
メアリーの笑顔が消えていた。代わりにほんの少しだけ震える唇。
メアリー「……消えればいい、ですか」
小さな声。
メアリー「昔も……言われましたねぇ……」
ルガ「……?」
メアリー「裏切り者は、消えろって」
空気が重くなる。メアリーの周囲に黒い霧が広がる。触れた瓦礫がじわじわ腐って崩れる。
メアリー「わたくし……何もしてなかったんですよ。ただ、働いてただけなのに……」
ルガの背中に寒気が走る。メアリーが初めて笑っていなかった。
メアリー「……あなたも、同じこと言うんですね」
ゆっくり顔を上げる。その瞳は静かに壊れていた。
メアリー「でも……」
ふわりと浮かび、霊気が膨れ上がる。
メアリー「消えるのは……どちらでしょう?」
次の瞬間、廊下全体が腐敗の霧に包まれた。
皐さん…お前マジでよぉ……
すみません自我が出てきました
次はまた一段と重くなるかもしれないです
ここでようやく折り返し…長くなるなぁ、




