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館護戦線  作者:
館護戦線
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また会えたのに。

蒼柄 聯 / あおづか れん

瓦礫の散らばる一室。壁は抉れ、床には亀裂。戦闘の跡が生々しく残っている。

無傷の蒼柄が軽やかに着地する。対してエイルは肩を裂かれ、脇腹から血が滲み、呼吸も荒い。


蒼柄「避けるの上手ですねぇ!全然当たらないですぅ!」


重りのついた紐が唸り壁を粉砕する。短刀が掠め、エイルの頬に赤い線が走る。


それでもエイルは反撃しない。ただ躱すだけ。距離を保つだけ。


蒼柄「攻撃してこないんですかぁ?もしかして降参ですぅ?」


エイルは答えない。ただゆっくりと手袋を外した。空気が歪んで触れた床がノイズのように崩れ、欠けて消える。

“バグ”。存在そのものを書き換えたり消したりしてしまう強力な能力。

だが――その手は蒼柄には向かない。


蒼柄が一瞬首を傾げる。その拍子に動きが止まった。その瞬間エイルの胸が締め付けられる。


エイルは堪えきれずに叫ぶ。


エイル「蒼柄…聯っ!!」


名前が空間を裂いた。蒼柄の瞳が見開かれる。時間が止まったみたいに呼吸が止まる。記憶が流れ込む。


蒼柄「_…え…ぇ、?…"、?"」




絶望していた。


何も無い廃れきった街を、ただ歩いていた。行く宛ても理由もなく。


足を止めることだけは怖くて。足が痛んでもカラスに襲われても空腹や体調不良に見舞われても歩みは止めなかった。


止まった瞬間、今まで押し殺してきた辛さが一気に溢れ出してしまいそうだったから。



感情はもう感じられなかった。「幸せ」という言葉すら憎かった。ただ暗く、寒く、怖くて、辛い世界を、幼い男の子は一人で歩き続けていた。


生涯が変わったのは四歳の頃だった。一人の女性に出会った。最初は無視した。止まりたくなかったから。


けれど女性は諦めなかった。強引に引き止めてくれた。振り返るのが怖かった。


自分の体から滴る血が、歩いてきた道を赤黒く染めていたからだ。


恐る恐る顔を上げた先にいた女性は優しかった。あまりにも優しくて触れたら壊れてしまいそうなほどに。


廃れた街にいるはずなのに、世界が綺麗に見えた。


「救われた」


その感覚を初めて知った。気づけば泣いていた。ずっと一人だった。いままでは声を掛けても返ってくるのは罵声ばかりだった。


だから、どうしてこんなにも優しくしてくれるのか分からなかった。


女性はハンカチで涙を拭き、そっと抱きしめてくれた。もう辛くなくていい。もう苦しまなくていい。


その瞬間こそが彼の人生で一番「幸福」という言葉が似合う時間だった。


女性の名はエイル。ただ一人旅をしているだけの女性だそうだ。


そして名乗ろうとして彼は気づいた。自分には名前がない。


「……わからない」


掠れた声でそう答えると、エイルは笑った。そして名前をくれた。蒼柄 聯。


蒼は空のような髪色から。

柄はいつか綺麗な着物を着せてあげるという約束。

聯は切れずにつながるという意味。


それが、彼の名前になった。初めての食事。初めての温もり。初めての安心。


涙で視界が滲みご飯は少ししょっぱかった。それでも確かに幸せだった。彼はエイルの隣を選んだ。離れたくなかったから。


そして二人で過ごす日々が始まった。それは、夢みたいに優しい時間だった。


――けれど終わりは、突然だった。


五歳になった頃。些細なすれ違い。幼さゆえの言葉。取り返しのつかない一言。エイルは頬を軽く叩いた。


その瞬間。手袋をしていなかった。

エイルの「バグ」の能力が直接触れてしまった。痛みはなかった。


だが顔が歪み、崩れ、存在が削れていく。消えていく。それでも彼は思い出した。約束を。


「エイルが悲しい顔をしたら、自分が笑わせる」


だから最後に、必死に笑った。視界が歪んでもう何も見えなかったけれど。


それでも笑った。


そして、消えてしまった。五年というあまりにも短い人生だった。


……はずだった。

目が覚めた。十二年後に。過去の記憶は何もない。


残っていたのは、「蒼柄」という名前と、「明るく笑顔な人になりたい」という、ぼんやりした願いだけ。


ふらふら歩いて見つけた大きな建物。勢いのまま突撃。怒られ、怒鳴られ、でも懲りず、騒ぎ、走り回り。


ヤグという男性に怒られ、司令官らしい人にげんこつを食らい。気づけばそこ、人外を狩る組織で働くことになっていた。


理由はよく分からない。でも不思議とそれは自分に合っていた。


体力は尽きない。

"尽きても脳が認識しない"


動くのは楽しい。だから今日も、蒼柄は笑っている。


かつて、誰かを笑わせたかった少年なんて知らないまま。


自分が一度この世界から消えたことも。その名前をくれた人が、まだどこかで自分を呼んでいることも。


現実に戻る。


蒼柄「……あ……?」


膝が震える。手が力なく落ちる。


エイル「……聯……ごめん、!……私……あなたを……」


触れていないはずなのに、蒼柄自身のバグで体がぐにゃりと歪んだ。輪郭がノイズのように崩れる。指先が透けて粒子みたいに欠けていく。


蒼柄「██あ"あっ…██あ"あ"ぁ"ぁ"◾︎ああ█あ"ァ█ァア"っ!!!█」


エイルは慌てて手袋を拾い、震える手で装着する。素手で触れればまた壊してしまうから。


エイル「待って!今度は守る!絶対守るから……!」


抱きしめる。軽い。あの頃と同じ小さな体温。次の瞬間、腕の中が空になった。バグとなって、音もなく消えた。


残ったのは温もりのない空気だけ。エイルは、その場に崩れ落ちる。


エイル「……聯……」


二度目だった。同じ名前を呼び、同じように、腕の中から消えていった。

部屋には彼女の嗚咽だけが静かに響いていた。

今回は蒼柄くんとエイルさんの回でした

切れずに繋がる意味を持つというのに2度も失うなんて皮肉なものですねぇ、

そして前に調べたらそうだったのに今調べたら聯の意味が少し変わってたんですが!?


ちなみにエイルさんは過去に蒼柄くんを失った直後、とんでもない喪失感に苛まれながら歩いてたらハウルさんの館についた、という感じです

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