少女が守りたい存在
熱く、痛々しい回です
黒煙がゆらりと揺れる焼け焦げた匂い。壁は抉れ、床は溶け、天井には刀痕。図書室だった場所は、もう戦場だった。
――ガンッ。
刃が壁に深く突き刺さっている。その刀身に、ソラの身体が縫い付けられていた。
肩口を貫通した黒い刀。背中側の壁まで達し、完全に固定されている。赤が床を伝う。ぽた、ぽた、と静かな音。
ソラ「……っ……ぁ……」
呼吸が浅いまま指先が震える。
霣羅は少し離れた場所で、無言のまま立っている。黒炎が刀からゆらゆら漏れていた。触れた床がじゅっと音を立てて溶ける。
ソラ「……は……はぁ……」
腕が上がらない。能力を使おうと手をかざそうとしてもさっき斬られた手首がもう動かない。
服は焼け、肌はただれ、切り傷と火傷だらけ。まともに立てる状態じゃない。
それでもソラの視線はずっと同じ方向を見ていた。本棚の奥に隠れている小さな影。ニアとアマネ。
ニア「……ソラさん……」
震えた声。
アマネ「……ソラさん……やだ……」
泣きそうな声。その瞬間。霣羅が歩き出した。スタスタと一定の足音。感情のない歩幅。本棚の方へ。
ソラ「……だ……」
声が出ない。喉が焼けてる。
ソラ「……だ、め……」
霣羅は止まらない。
ソラ「……っ……だめ……」
必死に腕を動かすとぐちっ…と嫌な音。刀が肉を抉るような不快な音
ソラ「ぁ゛……ッ!!」
痛み。でも関係ない。
ソラ「……そっち……行かないで……」
霣羅の足が本棚の手前で止まる。ゆっくり振り返る。
無表情。ただ任務を見る目。
霣羅「……排除対象」
静かな宣告。
ソラ「……違う……」
涙が滲む。
ソラ「この子たち……ただの子ども……です……」
霣羅「……命令だ」
ソラ「命令でも……だめです……お願い……」
血が流れる。
ソラ「……行かないで……」
声が震える。でも。目だけは真っ直ぐ。黒い炎が床を舐め、じゅと焦げる音。木材が溶け、石が崩れ、空気さえ焼ける匂い。
ソラの呼吸はもう浅く、肩で息をしている。服は焼け焦げ腕も脚も傷だらけ。身動きが取れない。
ソラ「……っ……ぁ……」
引き抜こうと腕に力を込めるが、びくりと激痛。視界が白く弾ける。
ソラ「……っ……!」
ニアとアマネは小さく震えて抱き合っている。
ニア「こわいよぉ…」
アマネ「…ソラ、さん……」
その声。ソラの胸がぎゅっと締め付けられる。
ソラ「……だめ……」
黒炎が霣羅にまとわりつき、じゅうっと床が溶ける。
絶対に子供に向ける火力じゃない。完全な“処理”。
ソラ「……行かないで……」
声が、かすれる。
ソラ「……お願い……」
霣羅の足は止まらない。
ソラ「……やめて……その子たち……関係ない……」
手を伸ばす。届かない。壁に縫い付けられたまま。
ソラ「……私が、私が相手…ですから……」
血が、ぽたり、と落ちる。
ソラ「だから……」
視界が滲む。
ソラ「……私を…完全に殺してからにして…ください……」
必死な身代わりになるためだけの懇願。命乞いじゃない。霣羅は止まり、感情の分からない顔のまま見る。
霣羅「……」
黒炎がゆらりと揺れる。ソラは笑う。震えながら。泣きそうになりながら。
それでも。
ソラ「……大丈夫……です……」
子供達に向けて。
ソラ「私が……守るから……」
黒炎が静かに揺れる。部屋の空気が焼け酸素が薄い。焦げた匂いと血の匂いが混ざっている。
霣羅は足を止めた。そしてゆっくりと振り返る。壁に縫い付けられたままのソラ。
床に足がつかず立てず動けないまま血だらけのソラ。それでも言葉を出す。
霣羅がゆっくりとソラに刺してる刀を抜こうとマイペースに近づく。
肩を貫通した刀。壁に深く刺さり、彼女の体重すら支えている。
霣羅は無言で柄に手をかけた。その小さな動作だけで。ソラの喉がひゅっと鳴る。
ソラ「……ま、待っ……」
怖い。抜かれる。それが本能で分かる。
ソラ「……や……っ……」
手足が震える。逃げたい。でも動けない。霣羅は、ただ淡々と力を込めた。
ずるっ――
ソラ「――――っ!!?」
焼けるような激痛。今までの切り傷なんて比べ物にならない。体の奥を直接引き裂かれる感覚。ソラの視界が一瞬で白く飛ぶ。
ソラ「ぁぁあああっ!!」
抑えられない悲鳴が漏れ足がばたつく。壁を蹴る。手で刀を止めようとするも力が入らない。
霣羅の動きは変わらない。一定で無慈悲。
"ず、る……っ"
血が、ぽたり、と床に落ちる。
ソラ「や……だ……っ、……や……め……」
声が震える。涙が滲む。でも、それでも。ソラは霣羅の腕を掴む。弱々しく。ほとんど力のない手。
ソラ「……その子たち……だけは……」
懇願。命よりも優先する願い。霣羅はその手を見る。無表情。そして霣羅は最後まで一気に引き抜いた。
ソラ「あ"ぁあァァぁぁあッ"!!!」
短い悲鳴を上げ、身体が壁から崩れ落ちる。支えを失った人形みたいに。
床にどさりと落ちた。肩が動かない。腕に力が入らない。息がうまく吸えない。
ソラ「……は……っ……は……っ……」
浅い呼吸のまま視界がにじむ。涙か汗かも分からない。霣羅は刃についた血を振り払うみたいに軽く刀を払う。
そしてもう一度子供達の方へ視線を向け、踵を返す
ソラ「……ま、って……」
指先だけ床を掴むも立てない、少しも進めない。
それでも
ソラ「……いか……ないで……」
声が擦れる。
ソラ「……お願い……」
情けない弱い声が漏れる。でもそんな事より、霣羅を止めたい。
子供達を、守りたい
ソラ「……その子たち……だけは……」
床を爪で引っかく。血より先に涙が落ちた。
ソラ「……私が……まだ……生きて……ます……」
必死に笑おうとする。
ソラ「……まだ……倒して……ない、ですよ……」
立て。立て。立って……お願い。
頭の中で何度も命令する。でも身体は動かない。霣羅の黒炎が再び揺らめいた。死が静かに近づいてくる。
床に崩れ落ちたソラの意識は暗闇の底へゆっくり沈んでいった。痛みも、音も、遠ざかる。
代わりに浮かんできたのは、昔の記憶。まだ何も失っていなかった頃の、光の匂い。
今回は戦闘と言うより、「守りたい意志」を書きました。あと恐怖
次は過去編です
私の敵は狩ではなく文字数ですね




