ただ、生きていたいだけ
シロクラ回です
例に漏れず暗め
_場面転換。
爆音、煙、そして焦げ臭い匂い。
壁は抉れ、床は割れ、家具は原形を留めていない。館の中庭から吹き飛ばされては逃げ、身を隠すため…
シロクラは室内に居た。もはや逃げてもどこも戦場だったが、
シロクラ「……っ、は……」
荒い呼吸。膝が震える。シロクラは壁に背を預けて座り込んでいた。
服はボロボロ。血と煤でぐちゃぐちゃ。腕も脚もあちこち裂けて削られている。
爆発の反動と被弾。何度も何度も立っては吹き飛ばされて。もう体力はほとんど残ってない。
…そんなになっても痛みは感じないからこそどれだけ限界なのか自分でも分からない。
シロクラ「……はは……最悪……」
視界が揺れていて立てない。申し訳程度の回復も追いつかない。その前にあいつが来る。
カツカツとゆっくりとした一定の足音で、余裕のある歩き方。
煙の向こうからヤグが現れる。無傷とは言わない。服は焦げ頬に血がついている。
だが立ち姿がまるで違う。まだ戦える人間のそれ。銃をくるくる回しながらつまらなさそうに口を開く。
ヤグ「……しぶとすぎんだろお前」
シロクラ「うっせ……」
ヤグ「何回爆発すりゃ気が済むんだよ。自爆魔か?」
シロクラ「芸術だっつってんだろ……」
ヤグ「バカが」
カチッとリロード音と冷たい金属音。シロクラの喉がごくりと鳴る。
やばいなんて分かってる。いや、もう一発食らったらマジで終わる。
……でも、もう体が動かない。
ヤグが目の前まで来ては無視を見るかのような目で見下ろしてくる。ぐっと首元を掴まれて
シロクラ「がっ……!?」
そのまま片手で持ち上げられ、足が床から浮く。
呼吸が止まり、圧倒的な力で首が締まる。視界がチカチカしてきた
ヤグ「弱ぇくせに、守るとか言ってんじゃねぇよ。反吐が出る」
ギリッと力が強まる。シロクラの手がヤグの腕を掴む。でも力が入らない。
爆発…。
触れれば、触れれば……指先がかすかに届く。
だがヤグはにやっと笑って
ヤグ「遅ぇよ」
銃口がシロクラの腹に押し当てられる。至近距離。回避なんてできない。
ヤグ「じゃあな、爆発馬鹿」
引き金に指がかかる。
シロクラ「……やだ」
ヤグ「?」
掠れた声が、喉の奥からこぼれた。
シロクラ「やだ……やだ……嫌だ……」
首を締め上げられ呼吸が削られていく。足が宙に浮いたままで酸素も足りない。
視界が、全てが暗い。
ヤグの顔が滲む。銃口が腹に押し当てられているのに、痛みはないのに……怖い。
どうしようもなく怖い。
その瞬間ぐにゃりと景色が歪んだ。戦場の音が遠のき、爆煙も銃声も全部消えた。
代わりに、ここにはないはずなのに絶対に忘れられない匂いがした。
消毒液、鉄、湿ったコンクリート、古い血。
………過去が見えた。
シロクラはもともと普通の、いや…この世界ではとても希少な人間だった。でも性格はどこにでもいるただの子ども。
両親がいて、小さな家があって、友達と笑って、くだらないことで喧嘩して……夕飯の匂いに「ただいま!」って帰る。
そんなありふれた毎日。特別じゃないけれど、確かに幸せだった。
あの日もそうだった。初めて友人と遠出をして。くだらないことで大笑いして。「また明日な」って手を振って。夕焼けの帰り道。
それが最後だった。
白衣を着た無表情の知らない大人に、背後から腕を掴まれた。
「人間は珍しい」
「ちょうどいい」
意味の分からない言葉。細い腕は簡単に捻り上げられた。叫んだ。暴れた。泣いた。
でも、力が足りなかった。二桁にも満たない子どもが、それも人間が大人に勝てるわけがない。
押し込まれて
泣き疲れて
ふと気づいたら
――研究所だった。そこから先は地獄。時間の感覚が曖昧になっていた。
窓のない部屋に冷たい床、そして檻。まるで動物…いや、実験動物。
「実験」「投薬」「観察」
毎日それだけ。
何をされたかなんて忘れるわけがない。容赦がなかったこと。
優しさが一切なかったこと。そして痛かったこと。助けてと何度も叫んだ。母親を呼んだ。神様に祈った。
でも誰も来なかった。
ある日、痛みを感じなくなっていることに気づいたんだ。
最初は麻痺だと思ったけど違った。…研究者によって意図的に失われていた。感覚そのものが。それでも実験は続いた。
確認のためと言って右目を潰された時も痛みはなかった。
ただ、温かい血が頬を伝っただけだった。怖くて、悲しくて。
「……なんで?」
それしか出てこなかった。怒りより先に悲しみが来た。
俺何かしたか?
悪いことしたか?
思い出しても何もない。ただ生きてただけなのに。その時。感情が限界を超えた。床に触れた瞬間
―爆発。
轟音と共にコンクリートが弾け飛ぶ。自分でも理解できなかったが、でも分かった。全部壊せる。檻も、壁も、天井も。
「……逃げなきゃ」
それだけだった。ただ外に出たかった。自由になりたかった。壁を壊して。走って。転んで。それでも進んで。
研究員の叫び声を背に、最後の力で地面を爆破した。大爆発。もうどうでもよかった。世界ごと吹き飛んでもいいと思った。
それくらい限界だった。
ふらふら歩いて。視界が霞んで。その時見えた遠くの綺麗な館。
あまりにも綺麗で、自分みたいな汚れた存在が近づいていい場所じゃないって直感で分かった。
でも助かりたくて。生きたくて。必死に歩いて。そして倒れた。
薄れゆく意識の中。誰かが抱き上げてくれた。あたたかい腕だった。
あれが、人生で初めての「救い」だった。
シロクラはずっと「なんで?」って思いながら生きてきたんですね
そして初めて救ってくれたのがハウルさんだから、何としても生きて守りたい。的な




