家族だったもの
…覚えている。昔。
まだ「人外の館」が今の場所に移る前のこと。
ハウル・リーウェンは、両親と兄、四人で暮らしていた。
今よりは小さな館だった。
でも陽当たりが良くて、庭があって、食卓にはいつも温かい料理が並んだ、裕福な家庭だった。
十分に“家族”だった。
少なくとも両親は間違いなく良い人で、ハウルは今でも「自分も、ああいう大人になりたい」と思っている。
問題があったとすればただ一人。兄のフォドル・リーウェン。
幼い頃からどこか壊れていた。理由は分からない。
誰かに虐げられたわけでも不幸だったわけでもない。
それでも彼はずっと苛立っていた。
ある日突然家のブレーカーを落とす。故意的に食器を叩き割ったり壁を傷つける等。
視線がいつもどこか遠かった。
そして時々ハウルを見る目だけが、異様に冷たかった。
ある夜、まだ幼いハウルが廊下を歩いていると、背後から刃物の気配がした。
振り返った瞬間ナイフが振り下ろされる。間一髪で避けたが頬が浅く裂けた。
血がぽたぽた落ちる頬に触れながら見上げた兄は何の表情も浮かべていなかった。怒りも興奮もない。
ただ
「そこにいるから刺した」
みたいな空虚な目。あれが最初だった。そこからは悪化する一方で、成長しても変わらない。
むしろエスカレートしていく。
…そしてある日。ついに兄は能力を使った。
本気の殺意だった。家が半壊するほどの攻撃でハウルは重傷を負った。あの場で死んでてもおかしくなかった。
流石に両親も限界だった。泣いて震えながら、それでも決断してフォドルを追放した。
「もう、この家には置いてられない」
兄は何も言わなかった。謝りも怒りもしない。ただつまらなそうに家を出ていった。それがハウルの知る「兄の最後の姿」だった。
一方で、
フォドル・リーウェンにとって。その家は最初から地獄だった。
同じ景色を見ていたはずなのに感じていたものは真逆だった。
両親の笑顔も、食卓の温かさも、弟の明るさも…その全部がひどく癇に障った。
理由は分からない。ただ胸の奥に常にあった、黒くて重くて焼けるみたいな感情。
世界そのものへの嫌悪。誰でもよかった。全部壊したかった。全員八つ裂きにしたかった。
そんな感情が幼少期から当たり前にあった。
……特に、弟。
ハウルだけがどうしても許せなかった。何も知らずに笑う顔。誰からも好かれる性格。愛されて当然みたいな存在。
それがたまらなく気持ち悪かった。
ある日、
ハウルが仕事をしながら新しく住む館を見つけたと言っていた時
二人きりになった。好機だった。
(殺れる)
迷いなんてせず全力で能力を放ち、ハウルは重傷だった。殺せたと思った。
…だが生きていた。そして最悪なことに両親に見られていた。
言い訳も弁解もないままその場で追放。家族はあっさり自分を切り捨てた。フォドルは思った。
(やっぱり最初から家族なんかじゃなかった。)
だったらもういい。全部壊してやる。復讐?いや、もっと単純だ。ただ気に入らないから潰す。
それだけで彼は一人で動き始めた。人外を狩る組織を作った。「狩」。
館を持つ者。群れる者。家族ごっこをする者。そういう連中を徹底的に殺すための組織。
不思議と人は集まった。同じようにどこか壊れた者たちが。
それでよかった。仲間なんていらない。ただ駒があればいい。最終目標はたった一つ。
ハウルのいる館を。ハウルの守る世界を。根こそぎ消すこと。それだけだった。
同じ家で生まれ。同じ景色を見て。同じ親に育てられ。それでも兄弟はここまで違う怪物になった。
そして今
二人は、敵として再会した。
普通に続きも書こうと思ったんですが、そうすると区切りどこが分からなくて変に長くなりそうなので過去編だけにしました




