兄弟
ハウルさん中心です
空の色が濁っている。時間の感覚すら曖昧になる薄暗さ。
笑い声も鍋の音も、誰かを呼ぶ声もない。
あるのは1つの一定の足音。階段を上がる男が一人。
ハウル・リーウェン。
片手に紙。くしゃっと折られた地図。ヤグ達が持っていたもの。
赤い印が、館とこの場所を繋いでいる。
ハウル「……はぁ」
軽く息を吐く。
走ってきたわけでもないのに胸が重い。怒っているのか焦っているのか自分でも分からない。
ただ頭の中に浮かぶのは館の家族。
ハウル「……ふざけんなよ」
ぽつり。低い声。
ハウル「俺の家族に手ぇ出して、タダで済むと思うなよ…」
ギシ、と最後の階段を踏む。奥の一番大きな扉。無駄に重厚。
まるで「ここが中心だ」と言わんばかり。ハウルはノックもしないでそのままガチャと開けた。
部屋の中央にぽつんと椅子。そこに座る男が一人。足を組んで肘掛けに肘を置き、薄く笑っている。
司令官「さぁ踊れ。俺の掌の上で…愚かで無様な害虫共」
ハウルは数秒黙る。それから一歩部屋に入る。声だけがやけに響く。
低く湿った声。ハウルの足が止まる。空気が重い。肺が潰されるみたいな圧。
普通の人間ならそれだけで膝をつく威圧感。でもハウルは立ったまままっすぐ、司令官を睨んでいる。床が軋む。
ハウル「……お前が、狩の司令官か」
司令官「あぁ」
指をとん、と肘掛けに打つ。
司令官「そうさ」
淡々とした感情ゼロの声を聞いたハウルの胸の奥でぐつぐつと何かが煮える。
あの家。あのあたたかさ。それをこいつは、赤いペンでただの「任務」にした。
ハウル「……てめぇ」
声が低くなる。
ハウル「うちの家族に、何してくれてんだ」
司令官「家族?」
ふっ、と鼻で笑う。
司令官「人外の寄せ集めだろ。害虫の巣だ」
ハウルの拳がミシ、と鳴る。
司令官「駆除するのは当然だ。それが世界のためだ」
ハウル「……」
司令官「お前も分かってるはずだ。ああいう連中は、いずれ牙を剥く」
司令官「だから先に殺す」
ハウル「……」
司令官「合理的だろ?」
沈黙が数秒続き、ハウルがぽつりと
ハウル「……合理的、ね」
顔は暗くて見えない。でも声が笑ってる。優しいいつもの笑いじゃない。怒りで歪んだ初めての声。
ハウル「じゃあさ」
一歩踏み出す。床が軋む。
ハウル「俺も合理的にいくわ」
司令官「……?」
ハウル「家族傷つけたやつは」
ぎり、と拳を握る音。
ハウル「ぶっ飛ばす」
空気がピリッと張り詰める。司令官は初めて少しだけ口角を上げる。
司令官「……面白い」
椅子からゆっくり立つ。影が伸びる。異様に長い。
司令官「その目は嫌いじゃない」
ハウル「……は?」
司令官「絶望に染まる瞬間が、一番綺麗だからな」
暗闇の中で二人のシルエットが向かい合う。
光のない部屋には家族を守る男と、命を駒としか見ない男。
真逆の存在。次の瞬間にどちらかが動けば戦争が始まる。
静寂の中にあるのは呼吸音だけ。ハウルは低く呟いた。
ハウル「……絶対、返すからな」
司令官「?」
ハウル「うちの笑顔」
ハウル「一個も欠けさせねぇ」
その言葉は暗闇の中でやけにまっすぐだった。重い沈黙。息が白くなりそうな冷たい空気。ハウルと司令官の互いの影だけが向かい合っている。
司令官「……威勢はいいな」
コツ、と靴が鳴る。司令官が片手を軽く上げる。
司令官「だが、顔も見ずに殴るのは失礼だろう」
パチンと司令官が指を鳴らした次の瞬間
_バチッ!!と天井の蛍光灯が一斉に点く。
白い光が鋭く目に刺さる。
ハウル「っ……!」
思わず目を細める。暗闇に慣れていた視界が焼かれる。ゆっくり像が結ばれていく。
机、椅子、壁一面の地図、赤い印。
そして_立っている男の顔。
黒いコートに冷たい目、整った顔立ちと見覚えのある長髪をひとつに括った髪型
ハウルの思考が止まった。
ハウル「……は」
喉が鳴る。心臓がどくんと一回だけ大きく打つ。
違う、そんなはずない。
でも…目元や笑い方、昔…何度も隣で見た顔。記憶の奥に焼き付いてるあいつ。
ハウル「……は、?」
声が、かすれる。
ハウル「兄さ……」
喉が引きつる。呆れて笑いそうな、ショックで泣きそうな、ぐちゃぐちゃな声。
ハウル「……はぁ、?」
頭が追いつかない。怒りも憎しみも全部、一瞬で足場を失う。
司令官「……兄の声も忘れたか」
一歩近づく
その足音がやけに大きい。
司令官「"ハウル"」
その呼び方と抑揚。記憶のままだ。完全に一致し、否定できない。
ハウルの手から地図が滑り落ち、ぱさっと乾いた音が鳴る
ハウル「……っ」
息がうまく吸えない。
頭の中が真っ白になる。目の前の男は家族を殺そうとしてる司令官で、
でも間違いなく自分の兄。部屋の蛍光灯が鳴る。やけにうるさい。
ただ血の気が引いたハウルだけが、立ち尽くしていた。
えーとここ辺りからキャラの過去とかが入ってきます




