家族の前線
……違う部屋。
壁に刃が突き刺さり、石が砕ける音が響いて白い粉塵が舞う。
蒼柄「おっとぉ〜!避けるの上手いですねぇ〜!」
ひゅるんっと重りの付いた紐が空気を裂き、家具が粉砕される。
ただの紐じゃない。当たれば骨ごと持っていかれる重さ。
エイルは紙一重で身体をひねり避ける。スカートの裾が裂けても転ばず、呼吸も乱さない
蒼柄「逃げ足はやいですねぇ〜!運動神経いいタイプですかぁ?」
にこにこ。ずっとにこにこ。遊んでるみたいな顔。
エイル「……っ」
壁に手をつき体勢を立て直す。心臓がうるさい。
正直戦闘なんてできない。自分は兵士でもなく戦闘能力もない。
あるのは能力のバグだけだが、できる限り使いたくない。
それでもここで止めなきゃって、この家には家族がいて、子どもたちがいるからって。
エイル「……あなた」
蒼柄「はいぃ?」
返事軽すぎる。短刀がくるくる回る。
蒼柄「なんですかぁ?降参ですかぁ?それなら楽ですよぉ?」
エイル「……蒼柄、って言ったわね」
蒼柄「はい!自分、蒼柄ですぅ!」
また短刀が飛び、エイルがしゃがんだと同時に背後のドアが真っ二つに裂ける。でも視線を逸らさない。
エイル「……いくつ?」
蒼柄「えぇ?」
エイル「あなた、いくつなの」
蒼柄「急に世間話ですかぁ?戦闘中ですよぉ?」
笑いながらでも攻撃は止まらない。紐が唸り壁が砕け床が割れる。
エイルは避けながら話す。
エイル「昔……似た子がいたの」
蒼柄「へぇ〜?」
エイル「あなたと同じ名前で」
ほんの一瞬だけ紐の動きが鈍る。
蒼柄「……へー?」
エイル「笑い方も、少し似てて」
蒼柄「……」
エイル「でも、暗い子だった」
蒼柄「……」
蒼柄の目がほんの少しだけ揺れる。でもすぐににこっ。
蒼柄「偶然ですよぉ〜。名前なんていっぱいありますしぃ」
紐が再加速し、床がえぐれる。
エイルは吹き飛ばされて壁に背中を打ちつけられ、息が詰まった
蒼柄「それにぃ」
短刀を喉元に突きつける。あと数センチ。
蒼柄「自分、昔の記憶とかほとんどないですからぁ」
無邪気な笑顔が逆に残酷。
蒼柄「だから、知らない人の話されても困りますぅ」
エイルの胸がぎゅっと締め付けられる。
やっぱり記憶が欠けてる。姿も違う声も少し違う。でも、でも……
エイル「……ごめんなさい」
蒼柄「え?」
エイル「勝手に重ねて……ごめんなさい」
蒼柄「……?」
エイルはふっと笑う。優しい母親の顔
エイル「でもね」
そっと蒼柄の頬に触れる。戦闘中なのに。
蒼柄「……な、なんですかぁ?」
一瞬、本気で戸惑う。
エイル「……冷たいわね」
指先で、確かめるみたいに。
エイル「ちゃんとご飯食べてる?」
蒼柄「……はい?」
意味が分からない顔。敵に言われる言葉じゃない。
エイル「怪我してない?眠れてる?」
蒼柄「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ」
短刀微妙に下がる。完全にペース崩されてる。
エイル「……あの子もね、すぐ無理する子だったの」
蒼柄「……」
エイル「だから、心配になるの」
蒼柄の心臓がどくん、と理由のない違和感。知らないはずの感覚。
胸の奥がざわつく。
蒼柄「……意味わかんないですぅ」
声が少しだけ小さい。
次の瞬間、
遠くから爆発音や悲鳴。館が揺れて、現実が戻る。
蒼柄の表情がすっと消える。
蒼柄「……あー」
にこ。
いつもの笑顔。
蒼柄「ダメですねぇ自分。任務中なのにぼーっとしちゃいましたぁ」
短刀を構え直す。
蒼柄「すみませんけどぉ」
紐が唸る。
蒼柄「ここで終わりにしますねぇー!」
エイルは息を整え、母親は最後まで子どもの前に立つ。
エイル「……来なさい」
その目だけは強かった。
居間に…電撃。
バチィッ!!!とピンクの稲妻が床を這った。木の床が焦げて椅子が吹き飛ぶ。
ララメ「わーーー!ごめんごめん!ちょっと強すぎたかもー!」
全然ごめんって顔じゃない。楽しそうに目がキラキラしてる。
レイズ「ちょっとじゃねぇだろ!?」
ルガ「兄さん伏せて!」
瞬間ルガの掌から細い光線。
ルガの能力であるレーザーが、一直線にララメの頬をかすめる。
ララメ「うわっ!?あぶなー!!」
軽い。本気で避けてないのに当たらない。反射神経おばけ。
ララメ「ルガくんすごー!ビーム出るの!?かっこいー!」
ルガ「褒められてる場合じゃないんですけど」
淡々としているが額に汗。目の前の二人は笑ってるのに全然戦ってる顔じゃない。
それが一番怖い。ふわっと横から紫の影。
メアリーが浮いている。スカートがゆらゆら。
メアリー「ルガさん、手きれいなのですー!」
ルガ「…は?」
メアリー「触ってもいいのです?」
ひゅ、っと距離ゼロ。
ルガは咄嗟に後退したが、床にじゅわ…と黒い染み。
メアリーがさっき触れたテーブルは木が腐って崩れてボロボロと崩壊。
ルガ「……っ」
理解する。
(触れたら終わりだ)
レイズ「ルガ!そいつ触んな!いや触られんな!!!」
レイズが踏み込む。ドンッ!!床板が割れる。速度強化。一瞬でララメの懐。
レイズ「オラァ!!」
拳速すぎて残像。
ララメ「はやっ!?」
ララメは壁に叩きつけられるが
ララメ「いったーーー!!でもたのしーーー!!!」
起き上がるのが早すぎる。ダメージ入ってるのに笑ってる。
ララメ「じゃあ今度はこっちね!」
両手を広げるとパチパチパチッ…と空気が震える。
レイズ「……やべ」
ドゴォォォン!!!
ピンクの雷が炸裂し、一体をまるごと飲み込む放電。レイズは歯を食いしばって横に跳び。ルガが叫ぶ。
ルガ「兄さん右!」
レーザーが雷の芯を撃ち抜き一瞬だけ軌道がズレる。
その隙にレイズが抜ける。
レイズ「ナイス弟ォ!!」
ルガ「死にたくないだけ!」
完璧な連携。昔からの呼吸。でもふわりと背後にメアリー。
メアリー「捕まえたのです」
レイズの服の裾に指先が触れ、じゅわっと布が黒く腐る。
レイズ「っ!?」
即座に服を引きちぎって捨てる。床に落ちた布数秒で崩壊。
レイズ「……はぁ!?」
メアリー「惜しいのです〜」
にこにこ。本当に遊んでる顔。レイズの背筋が寒くなる。
(こいつら……やばい)
ただの侵入者じゃない。旅人なんかじゃない。空気が違う。
……狩。
ルガ「兄さん」
低い声。
レイズ「……ああ」
ルガ「たぶん」
レイズ「おう」
二人同時。
ルガ「手加減してる場合じゃない」
レイズ「本気で行くぞ」
ララメ「おっ!なんか来る!?」
メアリー「わくわくなのです!」
兄弟は構える。レイズは低く。ルガは掌を前へ。
レイズ「俺が前突っ込む」
ルガ「後ろ全部焼き払う」
レイズ「巻き込むなよ!?」
ルガ「避けて」
レイズ「鬼か!?」
でも笑ってる。怖いのに逃げない。だってここに家族がいる。守るものがある。
ララメが手を叩いて
ララメ「いくよメアリーちゃん!」
メアリー「はーいなのです!」
ピンクの雷と腐敗の手。兄弟が同時に地面を蹴った。
ドンッ!!!四人の影が交差する。廊下が光と電撃と熱で塗りつぶされた。
リーウェン家が頑張っております
館主さん?次に出てきます




