守りたい理由
館の一室は明かりはあるのにやけに暗い。
机のランプも、天井の明かりも…黒い炎に飲まれているみたいだった。
ぼたっと床に落ちる音が響く。
ソラの指先からぽたりと血が落ちる。
ソラ「……っ……」
息が浅い。
右腕は焼け焦げ、制服の袖が溶けて皮膚が赤くただれてる。
さっき霣羅に手をかざした瞬間。
_斬られた。
見えなかった、ただそれだけ。
気づいたら斬られてた。
ソラ(はや……い……)
目で追えないほど。操作という能力を使う“前”に斬られるなんて相性最悪だ
少し先で霣羅が静かに立っている。呼吸音すら聞こえないみたいで
手に握られる赤黒い刀から刃からじわじわ黒炎が滲んでる。
床が焦げて煙が立つ。
霣羅「……」
何も言わずただニアとアマネが隠れている本棚の方へ進む
ソラ「…だめっ!」
フラフラしながら無理やり立ち上がる
ソラ「そっちは…だめ、です……」
霣羅は止まらない。
ソラは歯を食いしばり両手を前に出し、操作能力を発動_
"ザクッ"
また斬られる。
ソラ「っあ……!!」
今度は肩が切られた。
熱の次、遅れて痛みで膝が落ち咄嗟に床に手をつく。
黒炎がじゅっと床を溶かした
霣羅「……退け」
初めて声が落ちる。低くて感情のない声。
霣羅「任務だ」
ソラ「……やです」
即答。
自分でもびっくりするくらい迷いゼロ。霣羅は少しだけ間を置いて
霣羅「死ぬぞ」
ソラ「……それでも」
立てない。
だから床に、膝にと手をついて無理やり足に力を入れて震えながら立ち上がる。
ソラの血が床に線を引いた時、震えた小さな声
ニア「…ソラさん」
アマネ「やだ…」
泣きそうな声。それだけでソラの背筋が伸びる。
ソラ「……大丈夫。」
そちらを見れていないまま。優しい声で
ソラ「絶対、守るから」
霣羅「……」
霣羅が刀を構えると同時に黒炎は強まり、その温度で空気が歪む。
「一撃で終わる」なんて誰が見ても分かる。ソラはゆっくり息を吸った
怖いなんて当たり前だ。手も足も震えている。
でも諦めない
ソラ「……あの」
霣羅「?」
ソラ「子供たちに行くなら」
心臓が鳴る。それでも目は逸らさない。
ソラ「……私を、完全に殺してからにしてください」
静寂の図書室に響くのは、
どこかの爆発音や誰かの叫び声。
でもここだけ時間が止まったみたい。
霣羅はじっと震えながら立つ少女を見る。
勝てないって分かってる顔。それでも退かない足。
霣羅「…理解ができない」
ソラ「………」
霣羅「勝率は0だ」
ソラ「はい」
霣羅「痛いぞ」
ソラ「痛いです」
霣羅「怖いだろ」
ソラ「怖いです」
霣羅「…なのにか」
ソラ、少し笑う。
ソラ「だって」
小さく。でも確かに。
ソラ「ここ、私達の家、なので」
その一言。霣羅の刀はソラに向けて動かないまま。
違う部屋。
さっきまで普通に笑い声があった場所なのに、しんと静まり返っている。風の音すら遠い。
角灯「……」
ランタンの灯りが弱い。不安定にゆらゆら揺れている。その腕の中でシュアがぎゅっと服を掴んでる。
シュア「……かくと……」
声が震えてる。
角灯「…大丈夫だ」
そう言うけど自分でも分かってる。全然大丈夫じゃない。数メートル先。
小さい。ほんとに小さい人形みたいなシルエット…トゥトゥ。
トゥトゥ「……わぁ」
場違いなくらい明るい声。
トゥトゥ「ほんものだぁ」
ぴょんと軽く跳ねたそれだけ、それだけなのにズンッと空気が落ちる。
角灯(……動け)
命令しても膝が震えて立てない。頭が警鐘を鳴らしてる。
戦えでも、逃げろでもない。「近づくな」っていう生存本能。
トゥトゥ「角灯ぉ」
にこにこ。
トゥトゥ「シュアぁ」
にこにこ。
トゥトゥ「かわいぃ……」
ぞわっと背中が粟立つ。角灯は反射的にシュアを抱き寄せる。覆い隠すみたいに。
角灯「……下がっていろ」
シュア「……うん……」
でもシュアも動けない。足が地面に縫い付けられたみたい。トゥトゥは首をかしげる。
トゥトゥ「なんで座ってるのぉ?」
一歩。
トゥトゥ「なんで怯えてるのぉ?」
地面に足音を立てないまま動く。距離だけが縮む。
角灯「……っ」
ランタンがぼわっと強く光る。威嚇か、本能的なものか、でもトゥトゥはきょとんとして
トゥトゥ「ひかってるぅ」
楽しそう。
トゥトゥ「かわい〜」
角灯「……来るな」
低い声。震えてる。
角灯「それ以上……来るな」
角灯自身も戦意ゼロ。完全に防御だけ
記憶が嫌でも蘇る。
この姿になる前は分からない。それがあるかも分からないが、"改造"を施されたという事実が2人の恐怖心をこれでもかと蝕んでくる。
トゥトゥはそれを理解した上で
トゥトゥ「こわいのぉ?」
にこっと笑って
トゥトゥ「私なにもしてないよぉ?」
その笑顔がいちばん怖い。シュアがぎゅっと角灯にしがみつく。
シュア「……や……」
小さい声。
シュア「…こわい……」
角灯の胸の奥がぎゅっと潰れる。
守らなきゃ…守らなきゃいけないのに立てない。
武器も拳も出せない。目の前の存在が
「攻撃したらダメなもの」って本能が言ってる。絶対的な上位、製作者…いや、捕食者。
トゥトゥ「……あ」
トゥトゥ、ぱっと顔を明るくする。
トゥトゥ「ぎゅーってしていい?」
角灯「……!」
ぞっとする。それは抱きしめるじゃない。
壊すだ。角灯は無意識に後ずさるが、背中が壁にあたり、詰みだと感じる。
角灯(……動け……!)
ランタンがばちばち明滅。
怖い。怖い。怖い。
でも腕の中の小さな重み、シュアがまだ角灯を立たせようとする。
角灯は覚悟を決めてゆっくり震えながら、トゥトゥの前に体を広げる。
角灯「……シュアには」
声、かすれる。
角灯「触れるな、」
トゥトゥは瞬き。
トゥトゥ「……」
数秒見つめて、それからにこーーーっと満面の笑み。
トゥトゥ「やっぱり、だいすき〜〜〜♡」
ぴょんっと一歩踏み出す。
その瞬間本当にただ跳ねるみたいに。
軽く拳を振っただけだった。
子供より小さい人形みたいな拳が、それが角灯の頭部のランタンに当たった。
次の瞬間。
バキン、と乾いたガラスの砕ける音。
角灯「……え」
視界が一瞬白く弾けてランタンが砕けた。光がぱらぱらと散り、欠片が地面に落ちる。
トゥトゥの拳はただの一撃。強く力んでいなかったのにランタンの外殻がひしゃげ、内部の灯芯が折れ、灯りがふっ…と消えた。
角灯の身体がびくっと跳ねる。
角灯「……ッ!!」
音にならない声。ランタンは角灯の頭部である。
人外の持つ核と並ぶ程の急所みたいなもの。それが壊れた。
シュア「……え」
角灯の肩にシュアの手が落ちる。
シュア「かく、と…?」
返事がない。いつもなら。「大丈夫だ」とか「心配するな」とか優しい低い声が返ってくるのに何もない。
角灯の巨体がぐらりと揺れて膝が崩れる。どさっと重たい音。座り込むどころじゃない。完全に力が抜けたみたいに倒れた。
シュア「……やだ」
小さな声。
シュア「やだやだやだ……」
角灯の胸を揺するも光らない。いつもあったあったかい灯りがない。トゥトゥは首をかしげて
トゥトゥ「あれぇ?」
本気で不思議そう。
トゥトゥ「そんなにやわらかいのぉ?」
悪気ゼロただの感想。
トゥトゥ「私が作ったのに」
それがいちばん怖い。シュアの喉がひゅっと鳴り、涙がぽろぽろ落ちる。
シュア「……かくと……おきて……」
揺するっても動かない。角灯の手がかすかに動き、最後の力でシュアの服をぎゅっと掴む。
守るみたいに。離さないみたいに。
角灯「……シュ……ア……」
途切れ途切れ。声ほとんど出てない。
角灯「……にげ……ろ……」
シュア「いや……!!」
にこにこでゆっくり近づくトゥトゥ
トゥトゥ「つぎ、シュアぁ?」
無邪気。あまりにも無邪気。シュアの足がすくむ。
逃げなきゃいけないのに角灯を置いて行けない、動けない…
消えた灯りと泣き声。そして小さな影がゆっくり伸びる。最悪の方向に傾く。
トゥトゥが踏み込む。すぐ同じにしてあげると言わんばかりの顔で拳が迫る。
シュア「いやぁああぁあ!」
__瞬間、大きな影が前に出た。
角灯。腕をクロスさせて拳を塞ぐ。
トゥトゥに改造された際に与えられた「自由」という能力で強化した硬い体
…なのに軋む音が聞こえる。
角灯「まだ……だ」
シュア「角灯、?!」
トゥトゥ「へぇーー。まだいけるんだ!」
押される。角灯の踏ん張りも効かず後ろへ下がる。
ランタンから灯りが落ちる。限界が近い
シュア「角灯もういいよ!!私だって、」
角灯「駄目…だ、」
弱い声だが、守る者を背にした時の声は…いつもより強かった。
戦闘が勃発しております
読みやすさとか句読点の置き方とか作者からするとあまり分からないのが痛いとこ




