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フェルルと魔法少女たちの日々  作者: れんP


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2/16

第一話 逃げる少女と、鍵の魔法

これは、“魔法少女”の物語。



世界は一度、大きな戦いを越えた。

人々は平穏を取り戻し、日常は何事もなかったかのように続いている。


 


けれど、その裏側で。


 


世界には、誰にも知られない“ほころび”が生まれていた。


 


それは、いつから存在していたのかもわからない。

気づいたときには、そこにあった。


 


“エラー”——


 


そう呼ばれるそれは、形を持たず、理由もなく、人を襲う。

まるで世界そのものが、壊れ始めているかのように。


 


そして、その脅威に対抗できるのは——


 


異界から来た存在、“フェルル”と契約した少女たちだけ。


 


力を手にした少女たちは、“魔法少女”として戦う。


 


誰かを守るために。

日常を守るために。


 


あるいは——


 


自分自身のために。


まだ、誰も知らない。


これは、逃げることしかできなかった一人の少女が、

世界の“バグ”に向き合う物語。

ここは、唯ヶ原市(ゆいがはらし)桜ノ丘(さくらのおか)

緩やかな坂道と住宅街が広がる、どこにでもあるような街。


 


朝は静かで、昼は穏やかで、夜はどこか優しい。

特別な事件もなく、ただ人々が日常を繰り返すだけの場所——のはずだった。


 


「——あ!ちょっと!!」


 


その“日常”を切り裂くように、声が響いた。


 


「すすすすみませ〜ん!!」


 


振り返ることなく、全力で駆け抜ける少女。

長い銀色の髪が揺れ、制服の裾が風をはらむ。


 


月城ましろ(つきしろましろ)


 


この街ではちょっとした有名人だ。

理由は単純——あまりにも“目立つ”から。


 


整った顔立ち。透き通るような肌。

そしてどこか儚げな雰囲気。


 


誰もが振り返る美少女。

それが、彼女だった。


 


——ただし。


 


「待ってって!話だけでも——!」


 


「む、無理ですぅぅぅ!!」


 


極度の人見知り、という致命的な欠点を除けば。


 


 


角を曲がる。

また曲がる。

さらに細い道へ。


 


背後の足音はまだ消えない。


 


(な、なんであんなにしつこいの……!)


 


心臓がうるさい。

息が切れる。

でも、止まれない。


 


(捕まったら絶対話しかけられる……!無理、無理無理無理……!)


 


そうして、ましろは最後の逃げ場へと飛び込んだ。


 


——路地裏。


 


人通りのない、薄暗い空間。

ゴミ箱と壁に挟まれた細い道。


 


そこに身を滑り込ませ、壁に背を預ける。


 


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 


呼吸を整える。

耳を澄ます。


 


足音は——ない。


 


「……もう、おってきてない……かな?」


 


恐る恐る顔を出し、様子をうかがう。

誰もいない。


 


その瞬間、全身の力が抜けた。


 


「よ、よかったぁ……」


 


安堵のため息が、静かにこぼれる。


 


 


——そのとき。


 


「君、すごいね」


 


「ヒィッ!?」


 


びくりと肩を震わせ、勢いよく振り返る。


 


「だ、誰ですか!?」


 


誰もいない。


 


——いや。


 


「ここだよここ、下を見てごらん」


 


言われるまま、恐る恐る視線を落とす。


 


そして、固まった。


 


「……動物さんが、しゃべってます……!」


 


そこにいたのは、小さな生き物だった。


 


白い毛並み。

丸い体。

つぶらな瞳。


 


そして、くるりと巻かれた尻尾。

その先には——“鍵”。


 


まるで物語の中から抜け出してきたような、不思議な存在。


 


それが、当たり前のようにこちらを見上げていた。


 


「こんにちは、私はフェルル!」


 


元気よく名乗るその声は、どこか鈴のように澄んでいる。


 


「魔法の世界——マギアスフィアから来た魔法生物だよ!」


 


「ま、ま、まぎあ……?」


 


ましろの理解は、完全に追いついていなかった。


 


だがフェルルは構わず続ける。


 


「私と契約して、魔法少女になってよ!」


 


「わ、私が、ですか?」


 


思わず自分を指差す。


 


「もっと他にいい人がいそうですが……お姉ちゃんとか……」


 


自信なさげに俯くましろ。


 


すると、フェルルは少しだけ優しく目を細めた。


 


「自分を卑下することつはないよ」


 


「そう、なんですか……?」


 


「うん!そうだよ!」


 


即答だった。


 


迷いもなく、当然のように。


 


その言葉に、ほんの少しだけ胸の奥が温かくなる。


 


「そうだ、なにかほしい力はない?」


 


フェルルが、くるりと尻尾を揺らす。


 


「なんでも一つあげるよ!」


 


「ほしい……力……?」


 


その言葉が、頭の中でゆっくりと反響する。


 


(ほしい、力……)


 


考える。


 


自分が何を望むのか。


 


何があれば、自分は——


 


(……あ)


 


ひとつ、思い浮かんだ。


 


(魔法少女になれば……もっと逃げ切れるかな……?)


 


単純で、少し情けない理由。


 


でも、ましろにとっては“切実”だった。


 


「あ、あの!」


 


「なにかな?」


 


「わ、私!ま、魔法少女に……なりたいです!」


 


言ってしまった。


 


心臓が跳ねる。


 


フェルルは、にっこりと笑った。


 


「そうかい、それは良かったよ!」


 


その声には、どこか安心したような響きがあった。


 


「それで?何がほしい?」


 


「えっと……」


 


もう一度考える。


 


ただ足が速いだけじゃ、きっとまた捕まる。


 


もっと確実に——


 


(逃げられる力……)


 


「決めました」


 


小さく息を吸い、言葉を紡ぐ。


 


「私に、別の空間を移動するような力をください」


 


「別の空間を移動?」


 


「は、はい……別の空間を歩いて目的地に行けば……見つかる確率が減ると思って……」


 


自分で言っていて、少し恥ずかしくなる。


 


けれどフェルルは、しっかりとうなずいた。


 


「なるほど、うん!わかった!」


 


その答えに、ほっとする。


 


だが——


 


「あ、その前に」


 


フェルルの表情が、ほんの少しだけ真剣になる。


 


「魔法少女は、想霊とエラーと呼ばれる存在と戦う運命にある」


 


静かな声だった。


 


けれど、その言葉は重く響く。


 


「それでも良いかな?」


 


「……」


 


怖い。


 


戦うなんて、考えたこともない。


 


でも——


 


逃げるだけじゃ、きっと何も変わらない。


 


少しだけ、ほんの少しだけ。


 


自分を変えたいと思った。


 


「……少し怖いけど……やります!」


 


その言葉に、フェルルは嬉しそうに笑った。


 


「うん!じゃあ、契約成立だ!」


 


 


その瞬間。


 


フェルルの尻尾に巻きついていた“鍵”が、ふわりと浮かび上がる。


 


光を帯びながら、ゆっくりと——


 


ましろの胸へと吸い込まれていった。


 


「え……?」


 


心臓が、一度だけ大きく鼓動する。


 


温かい何かが、内側に広がる。


 


同時に——


 


フェルルの尻尾には、再び鍵が現れていた。


 


「おめでとう!君は今日から魔法少女だ」


 


「え、えっと……」


 


状況に追いつけないまま、ましろはただ立ち尽くす。


 


「どうやって戦うんですか?」


 


「それはね」


 


フェルルが、ましろの首元を指す。


 


そこには、いつの間にか小さなチョーカーがあった。


 


淡く光る、魔法の装飾。


 


「そのチョーカーに魔力を込めるんだ。そうすれば戦闘衣装に変身できるよ」


 


「え、えっと、どうやって?」


 


「深く集中して、感じるんだ。魔力を」


 


 


言われた通り、目を閉じる。


 


呼吸を整える。


 


静かに、内側へと意識を向ける。


 


(集中して……感じる……)


 


最初は何もなかった。


 


けれど——


 


(……あ)


 


確かに“何か”が流れている。


 


温かくて、柔らかくて、でも力強いもの。


 


それが、体の奥から巡っている。


 


(これ……?)


 


そっとチョーカーに触れる。


 


(魔力を、込める……!)


 


 


次の瞬間。


 


光が弾けた。


 


 


ましろの身体を、白銀の輝きが包み込む。


 


足元から花びらのような光が舞い上がり、空間がやわらかく歪む。

まるで別の世界へと引き込まれるかのように、景色が遠のく。


 


光の糸が、彼女の身体をなぞる。


 


制服はほどけ、形を変え、

純白と淡い蒼を基調とした衣装へと再構築されていく。


 


胸元には、鍵を模した装飾。

背には、薄く透ける光のリボン。


 


そして——


 


瞳が、ほんの少しだけ強く輝いた。


 


 


光が収まる。


 


そこに立っていたのは、先ほどまでの少女とは少し違う存在。


 


「……なってます?」


 


恐る恐る、自分の手を見る。


 


「うん!バッチリだ」


 


フェルルが満足そうにうなずく。


 


「そうだ、君の魔法と武器は何かな?」


 


「魔法ってそれぞれ違うんですか?」


 


「そうだね。個人魔法って呼ばれるものがあるよ」


 


フェルルが説明する。


 


「武器は念じれば出てくるよ」


 


「は、はい……!」


 


ましろは、ぎゅっと目を閉じる。


 


(武器……武器……)


 


イメージする。


 


そして——


 


「……え、えっと、こう?」


 


 


空間が、ゆらりと歪む。


 


光が収束し、形を成す。


 


現れたのは——


 


「わぁっ!!?」


 


巨大な“鏡”。


 


床に立てられるほどの大きさを持つ、美しい大鏡。


 


縁には複雑な装飾が施され、淡く光を放っている。


 


「……これは武器?」


 


戸惑うましろ。


 


フェルルは、少し驚いたように目を見開いた。


 


「大鏡か……珍しいね」


 


「これでどうやって戦うの……?」


 


不安げな声。


 


けれどフェルルは、優しく笑った。


 


「それは今日から探していこう」


 


「安心して、私も一緒に探すから」


 


「……あ、はい!」


 


小さくうなずく。


 


胸の奥に、ほんの少しの勇気が灯る。


 


 


逃げることしかできなかった少女は、


 


この日、初めて——


 


“戦う側”に足を踏み入れた。


 


 


こうして、


 


月城ましろの魔法少女としての生活が、始まった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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