最終話 「願いの行き先」
これは、“魔法少女”の物語。
世界は一度、大きな戦いを越えた。
人々は平穏を取り戻し、日常は何事もなかったかのように続いている。
けれど、その裏側で。
世界には、誰にも知られない“ほころび”が生まれていた。
それは、いつから存在していたのかもわからない。
気づいたときには、そこにあった。
“エラー”——
そう呼ばれるそれは、形を持たず、理由もなく、人を襲う。
まるで世界そのものが、壊れ始めているかのように。
そして、その脅威に対抗できるのは——
異界から来た存在、“フェルル”と契約した少女たちだけ。
力を手にした少女たちは、“魔法少女”として戦う。
誰かを守るために。
日常を守るために。
あるいは——
自分自身のために。
まだ、誰も知らない。
これは、逃げることしかできなかった一人の少女が、
世界の“バグ”に向き合う物語。
街の中心――
暴走した“願い”は、なおも暴れ続けていた。
『……叶えて……』
『……幸せに……なりたい……』
その声は、悲痛で。
どこまでも切なかった。
「ましろ!!」
しずくの声が響く。
「道、開けたよ!!」
ヤミがエラーを斬り裂き、クロエが最短ルートを示す。
「直進……あと10秒」
ましろは、走る。
光をまといながら――
(届いて……!)
その中心へ。
そして――
“それ”に、触れた。
――瞬間。
世界が、白に包まれる。
気がつくと。
ましろは、静かな空間に立っていた。
そこには――
一人の少女がいた。
小さくて。
泣いていて。
「……あなたが……」
ましろが、そっと近づく。
少女は、震えながら言う。
「……幸せに……なりたかっただけなのに……」
「頑張っても……誰も見てくれなくて……」
「願ったの……」
「……叶えてって……」
その声は、壊れそうで。
ましろは、しゃがみ込む。
「……うん」
「つらかったね」
優しく、そう言った。
少女の目から、涙がこぼれる。
「……でも」
ましろは、静かに続ける。
「願いって……叶うだけじゃ、ダメなんだと思う」
「誰かが、ちゃんと見てくれて」
「一緒に笑えることが――」
「“幸せ”なんだと思う」
少女は、ましろを見る。
「……じゃあ、私は……」
「……ひとりじゃないよ」
ましろは、手を差し出す。
「今、私はここにいる」
「あなたの願い、ちゃんと聞いたよ」
「だから――」
「もう、大丈夫」
少女は、ゆっくりとその手を取る。
その瞬間。
黒く歪んでいた世界が、光に変わっていく。
少女の姿も、淡くほどけていく。
「……ありがとう」
その言葉とともに――
光が、優しく広がった。
現実世界。
巨大な“願い”は、静かに崩れていく。
暴走は止まり。
街に、静寂が戻る。
「……終わった……?」
しずくが息を吐く。
「……消滅確認」
クロエが呟く。
ヤミは腕を組みながら言う。
「……ちゃんと、やったみたいね」
そのとき――
光の中から、ましろが現れる。
「ましろ!!」
ひかりが駆け寄る。
「大丈夫ですか……!?」
「はい……」
ましろは、少しだけ微笑む。
ソラは、その姿を見て。
静かに目を閉じた。
(……願いを、“壊さずに救う”……)
(そんな方法が……)
ゆっくりと目を開ける。
その瞳には――
迷いが、消えていた。
「……ありがとう、ましろちゃん」
「あなたが、答えをくれた」
ましろは首を振る。
「みんながいたからです」
しずくが笑う。
「いいチームじゃん、私たち!」
クロエも、小さく頷く。
「……効率、悪くない」
ヤミは――
「……悪くないどころじゃないでしょ」
少しだけ、優しい声だった。
ソラは、みんなを見る。
そして――
「これからも、“ルミナスガーディアンズ”として」
「願いと向き合っていこう」
「壊すためじゃなく――」
「救うために」
全員が、頷く。
空は、どこまでも青く。
光が、街を優しく包んでいた。
ましろは、その空を見上げる。
(怖いこともある)
(迷うこともある)
でも――
(それでも、私は)
(この場所で、戦っていく)
(誰かの願いを、守るために)
風が、優しく吹いた。
それはまるで――
新しい物語の始まりを、祝うように。
――終わり。
ここまで読んでくれてありがとうございます。




