座敷の数
暮れも押し詰まると、家の中はいっそう騒がしくなる。煤払いの日は、朝から家じゅうの戸が外され、畳が庭に干された。障子の張り替えは姉たちの仕事で、誰がいちばんきれいに貼れるかを競う。正一が脚立の上から指図をし、茂が下から文句を言い、実は面倒になって牛小屋に逃げた。春江の仕事は、いちばん大事な仕事だと言われていた。
「おちびは、お客さんを数える係じゃ」
「お客さんじゃない。みんな家族じゃ」
「ええこと言うた。その家族を、数えるんじゃ」
28日には、土間に餅つきの支度が整った。湯気の立つ蒸籠、石臼、杵。男たちが代わる代わる杵を振り下ろし、その合間に、寿美が濡れた手で餅を返す。つきたてを小さくちぎってもらって口に入れると、あまりの熱さに春江は飛び上がった。元日が近づくと、家を出た親戚が、それぞれの家族を連れて帰ってくる。玄関に履物が増える。一足、また一足。春江は数えながら途中で分からなくなり、最初から数え直した。
「15、16……あれ、17?」
「おちび、それは兄ちゃんの下駄の片方じゃ」
どっと笑いが起こった。
大晦日の晩には、五右衛門風呂に家じゅうが順番に入った。1 番は父で、それから兄たち、姉たち、春江。最後が母だった。母が入る頃には、湯は半分に減って、ぬるくなっていた。
「お母ちゃん、たまには1番に入りんさい」
春江が言うと、母は薪をくべながら、くつくつと喉で笑った。
「1 番の湯は、肌に刺さるんじゃ。人が入って、湯がやわらこうなってからがええんよ」
本当かどうかは分からない。けれど春江は、それから何十年たっても、1番風呂にだけは、どうしても入れなかった。家は古い農家で、部屋数だけは多かった。座敷と続き間と、2階の広間。襖を外してつなげれば、親戚が何十人集まっても全員が眠れる。夜になると布団が廊下の端まで敷き詰められ、誰かが寝返りを打つたびに、隣の子どもが転がっていった。元日の膳の前に座る前に、春江は座敷の入口に立って、部屋全体を眺めた。人がいる。笑っている。誰かの声に、誰かの声が重なる。
「おちび、はよ座れ。雑煮が冷めるぞ」
「はあい」
返事をして座ってからも、春江はもう一度、座敷を見回した。この景色をずっと覚えておこうと、そう思ったのかどうかは、本人にも分からない。ただその晩、春江はいちばん最後まで起きていて、いちばん最初に座布団の上で眠ってしまった。誰かの綿入れが、そっと肩にかけられた。薄く目を開けると、母だった。母は座敷の隅で、眠る子どもたちの枕元を一人ずつ回っていた。手には、新しい足袋と、小さな包みを持っている。春江の枕元にも膝をついて、足袋を揃えて置いた。その横に、紅白の端切れで縫った小さな袋を添えた。
「よう寝とる」
母は春江の寝顔を見て、口もとをほころばせ、綿入れの襟を直した。春江は寝たふりを続けた。まぶたの裏が熱くなった。この人は、いつ寝るんじゃろう。そう思った。母の足音が、畳の上を遠ざかっていった。元日の朝、枕元の袋の中には、五円玉が一枚だけ入っていた。春江はその五円玉を、一日じゅう握りしめていた。夕方には手のひらに、穴の形の跡がついていた。




