小さくなる輪
年月が流れた。
座敷に並ぶ座布団の数が、少しずつ減っていった。最初の年は正一の席が空いた。次の年は、実の席が空いた。電話で知らされる訃報は、いつも静かで短かった。母は受話器を置くと、少しのあいだ、じっと壁を見ていた。そうして、簞笥から黒い服を出した。
正月の集まりは、毎年続いた。ただ、輪が少しずつ小さくなった。
実家へ向かう山道で、母が顔色を変えたことがある。
「……止めて」
健一は何も聞かずに路肩に車を寄せた。母は車を降りて、道端にうずくまった。健一が無言でペットボトルの水を差し出し、背中をゆっくりさすった。
「情けないのう。年をとると」
「……ゆっくり、飲め」
後部座席の和也は、こういうときに限って軽口ひとつ叩かなかった。窓の外の山を見ながら、膝の上で拳を握っていた。
その年の正月、茂が雑煮の餅を喉に詰まらせかけ、慌てて笑ったはずみに、入れ歯を座敷の真ん中へ、ぽーんと飛ばした。
座敷が一瞬静まり返り、それから爆発した。
「茂兄ちゃん、入れ歯」
「飛ばしたんじゃない。逃げたんじゃ」
寿美が涙を流して身をよじった。トミが畳を叩いた。入れ歯は座布団の上に、ちょこんと着地していた。
座布団の数は減っても、笑い声の大きさは変わらなかった。むしろ人が少ないぶん、一人ひとりが少しずつ大きな声で笑っているようだった。
母は座敷を見回して、座布団の数を指で数えた。
「……十二、十三」
昔、数えるのは母の役目だった。数え間違えては、皆に笑われた。今は、数え間違えることがなくなった。
「おちび」
誰かが呼んだ。そう呼ぶ人は、もう数えるほどしか残っていなかった。母は振り向いてうなずいた。
「うん」
誰かが「今年は静かじゃな」と言うと、母は「前がうるさすぎたんじゃ」と返した。笑いは起きたが、そのあと皆、ちらりと空いた座布団のほうを見た。
母は畑の野菜を箱に詰めて、兄や姉の家に送り続けた。電話の向こうから「去年より、ええ出来じゃ」と声が返ってくる。送り先の住所を書く欄は、年ごとに一つずつ減っていった。
母がそれをどう感じていたのか、浩二には分からない。寂しかったのかもしれない。寂しさという言葉だけでは言い表せない何かが、そこにはあったのかもしれない。
ただ母は、帰る前に必ず、座敷の座布団を一枚ずつ、きちんと並べ直していた。空いた席の分まで、まっすぐに。




