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いつか、君にただいまを――勇者一行の騎士は、ただ故郷へ帰りたい。  作者: puni0023


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第6話 10年

「ミア。……ずっと、言えなかったことがあるんだ」


店じまいの後、いつものように薪割りを手伝ってくれたルイスが、少し改まった様子でそう切り出した。


「うん?」


「好きだ。ずっと前から」


まっすぐな告白だった。飾らない、けれど覚悟の滲む声。


ミアは、すぐには言葉が出なかった。


ルイスは村長の息子で、村の誰からも好かれている青年だ。この数年、力仕事を黙って手伝い続けてくれた。悪い人では、決してない。むしろ、誰よりも優しい人だと知っている。


だからこそ、余計に胸が痛んだ。


「ルイス……ごめん、少しだけ、考えさせてもらえる? 一晩でいいから」


「ああ、もちろん」


ルイスは頷いた。急かすつもりはない、というように。


その夜、ミアは眠れないまま、教会を訪ねた。事情を話すと、シスターは静かに耳を傾けたあと、ミアの手をそっと握った。


「ミア。どちらを選んでも、シオンは怒らないと思うわよ」


「シスター……」


「あなたがルイスさんを選んでも、シオンを待つことを選んでも。……大切なのは、あなた自身がどうしたいか。それだけ」


その言葉に、ミアは静かに頷いた。答えは、もう自分の中にあった。


翌日、ミアはルイスのもとを訪れた。


「ルイス……ありがとう。本当に、嬉しい」


「でも?」


「……ごめんなさい」


ルイスは一瞬だけ辛そうな顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻した。


「わかってるよ、そんなことは。……でも、もし気持ちが変わったら、いつでも言ってくれ。俺、待つの得意じゃないけど、ミアのためなら、待てると思うから」


その優しさが、かえってミアの胸を締めつけた。


*


ルイスの告白を断った日の夜、ミアは思わず教会に足を向けた。誰かに、聞いてほしかった。


「あら、ミア」


顔を見せただけで、シスターにはすべてわかったようだった。


「……そうなの。断ったのね」


「うん」


シスターは、そっとミアの手を握った。


「ミアがそうしたいなら、それでいいと思うわよ」


それから、少しおどけたように付け加える。


「まったく、シオンったら。……頑張ってるのは知ってるけど、ミアを待たせすぎよね」


その軽口に、張り詰めていたミアの気持ちが、少しだけほどけた。


「シスター……」


「でもね」


シスターは、優しく目を細めた。


「どんな選択をしても、シオンはきっと怒らないと思うわ」


優しい声だった。責めるでも、急かすでもない。ただ、ミアを気遣う気持ちだけが伝わってくる。


それでも、ミアは静かに首を振った。


「ありがとう、シスター。……でも、私は待ちたいの。誰かに言われたからじゃなくて、自分で決めたことだから」


シスターは少し寂しそうに微笑んで、それ以上は何も言わなかった。ただ、ミアの背中をそっと擦ってくれた。


*


一時帰還から、もう数年が経っていた。二十五歳、二十六歳、二十七歳と、ミアは静かに年を重ねてきた。


シオンからの手紙は、以前にも増して間隔が空くようになっていた。魔物の被害が各地で拡大し、郵便の輸送そのものが滞ることも珍しくなくなっていたからだ。半年、届かないこともあった。


それでも届いた手紙には、変わらず「必ず帰る」の一文があった。ミアはその一文だけを支えに、また次の手紙を待つ日々を送ってきた。


村では、ミアの結婚適齢期はとうに過ぎたと囁かれるようになっていた。


「ミアも、そろそろ自分の人生を考えた方がいいんじゃないかい」


市場で顔見知りの女性にそう声をかけられたのは、つい先日のことだった。悪気のない忠告だと、ミアにもわかっていた。


「シオンさんが帰ってきたって、あの王女様のところに行っちゃうかもしれないしねえ」


それも、誰かに言われるまでもなく、ミア自身が一番よくわかっていることだった。あの一時帰還の日、出発の支度をしながらマリアがシオンの傷を気遣っていた光景が、今も時折頭をよぎる。


だからこそ――ルイスの告白は、ミアの心を、思った以上に大きく揺さぶった。


「……そう、ですよね」


曖昧に笑って受け流すことにも、ミアはすっかり慣れてしまっていた。


*


その夜、ミアは久しぶりに、送れない手紙を書いた。


*シオンへ


今日、ルイスに告白された。断ったよ。当然でしょ、なんて笑ってみせたけど、本当は、ちゃんと断れたことに、自分でも少しほっとした。


シオンのことが嫌いになったわけじゃない。それだけは、誓って本当。


でも、正直に言うね。


私……あと何年待てばいいの?


届かない手紙だから、書ける。誰にも見せられない、弱音。


十年経っても、二十年経っても、私はきっと同じことを書いてる気がする。それでも、あなた以外の人と生きていく未来が、どうしても思い描けないの。


ばかみたいだよね。


早く、会いたいよ。


ミア*


書き終えた手紙を、いつものように木箱にしまう。箱の中には、もう数えきれないほどの「届かない手紙」が積み重なっていた。


*


結局、ミアは誰とも結婚しなかった。


村の噂も、心配してくれる人たちの忠告も、痛いほどよくわかっていた。それでも、答えは変わらなかった。


シオンが、好きだから。


ただそれだけの理由で、ミアは待ち続けることを選び続けていた。


けれど、心のどこかで、静かに擦り減っていくものがあることにも、ミアは気づき始めていた。


待つことは、想像していたよりずっと、長くて、重くて、孤独だった。

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