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いつか、君にただいまを――勇者一行の騎士は、ただ故郷へ帰りたい。  作者: puni0023


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第4話 待つということ


秋の夜、村の広場には灯りがともり、笛や太鼓の音が響いていた。


村で一番賑やかな収穫祭。恋人たちは連れ立って夜店を巡り、子どもたちは花火に歓声を上げる。若者たちは輪になって踊り、大人たちは酒を酌み交わしながら、今年の実りを喜び合っていた。


ミアも、毎年欠かさず顔を出していた。けれど、いつも輪の外側、少し離れた場所から、その光景を眺めるだけだった。


「シオンも、去年はここで一緒に踊ったのにな」


小さくつぶやいた声は、賑やかな祭囃子にかき消される。誰にも届かなくていい、そんな独り言だった。


夜店で買った串焼きを片手に、ミアは石段に腰掛けて、遠くの灯りを見つめた。楽しそうな声、笑い声。幸せな喧騒が、なぜか少しだけ、寂しさを際立たせる夜だった。


「ミアちゃん、一人か?」


声をかけてきたのは、村長の息子のルイスだった。彼もまた、シオンがいなくなってから、時々パン屋に顔を出すようになった青年だ。店の仕事そのものはミア一人で十分こなせていたけれど、女手一つでは骨が折れる力仕事――冬支度の薪割りや、屋根に積もった雪下ろしなどは、何かとルイスが買って出てくれていた。


「うん、ちょっと休憩」


「隣、いいか?」


「どうぞ」


ルイスは石段に腰を下ろすと、遠くの灯りを一緒に眺めた。


「困ってることないか? 力仕事なら何でも言えよ」


底抜けに明るい性格で、村の誰からも好かれている青年だった。他意のない親切に、ミアは素直に助けられていた。このときはまだ、それが何かの始まりだとは、誰も――ミア自身も、思っていなかった。


祭りの夜は、そうして更けていった。


*


三年目を過ぎる頃には、ミアは一人で店を切り盛りすることにすっかり慣れていた。仕込みの時間も、仕入れの交渉も、迷うことは少なくなった。


「一人でよくやってるよ、ミアは」


近所の人たちにそう言われるたび、ミアは曖昧に微笑んだ。慣れた、というのは、寂しさが消えたということではない。ただ、その寂しさと一緒に生きる術を覚えただけだった。


*


二十二歳の誕生日、ミアは一人で店を閉めたあと、小さなケーキを一つだけ焼いた。ろうそくを立てて、火をともす。


「……誕生日おめでとう、私」


吹き消す前に、目を閉じて願い事をした。願うことは、いつも一つだけだった。


*


同い年の幼馴染が結婚したのは、その年の冬だった。


支度をする友人の控室に、ミアはそっと顔を出した。


「おめでとう。すごく綺麗だよ」


「ありがとう、ミア!」


友人は嬉しそうに笑ってから、ふと思い出したように付け加えた。


「でも正直、ミアの方が先に結婚してると思ってたんだけどなあ。シオンと、あんなに仲良かったし」


悪気のかけらもない、素直な感想だった。だからこそ、返す言葉に詰まる。


「……まだ待ってるんでしょ、シオンのこと?」


友人は小さく首をかしげて続けた。


「ミアって可愛いんだから、シオン以外にだって道はあると思うけどな。……あ、ごめん、変なこと言った。おめでたい日にする話じゃないよね」


慌てて取り繕う友人に、ミアは笑って首を振った。


「ううん、大丈夫。ありがとう」


本当に、悪気なんてないのだとわかっていた。だからこそ、その言葉はまっすぐにミアの中へ入り込んで、なかなか抜けていかなかった。


真っ白なドレスに身を包んだ友人を見て、ミアは心から祝福した。同時に、胸の奥がちくりと痛むのを止められなかった。


自分にも、決めていたはずのドレスがあった。試着だけして、まだ買えていない、あの白いドレス。


結婚式の帰り道、ミアは一人、来た道を戻った。夜空を見上げて、遠く離れた場所にいるはずのシオンを思う。


――今頃、どこにいるんだろう。


*


翌年の春には、その友人に赤ちゃんが生まれた。小さな手で握られた指の感触に、ミアは思わず涙ぐんだ。


「ミアも、そろそろ自分の幸せ、考えなよ」


友人の優しい一言が、かえってミアの胸に小さな棘のように刺さった。


「うん……そうだね」


作り笑いで応えながら、ミアはふと考える。もしあの春、予定通りシオンと結婚していたら――今頃、自分たちにも子どもがいたのだろうか、と。考えても仕方のないことだと、わかっていながら。


*


それでも、シオンからの手紙が届く日は、変わらず特別だった。封を切る指が、いつも少しだけ震える。


*ミアへ


またしばらく間が空いてしまった。すまない。北の砦での戦闘が続いていて、なかなか町に立ち寄れなかった。


エドは少しずつ、頼れる勇者らしくなってきた。あいつも大変なんだと思う。マリア様の治癒魔法がなければ、俺たちのうち誰かは、もう命を落としていたかもしれない。


そっちは変わりないか。祭りは楽しめたか。ミアの誕生日、今年も遠くから祝うことしかできなくて、すまない。


必ず帰る。


シオン*


手紙を読み終えると、ミアはいつものように、その日のうちに返事を書いた。書いても届かないとわかっていても、書くことをやめられなかった。


*


四年、五年と、季節は容赦なく巡っていく。


村の景色は変わらないのに、ミアの周りだけが、少しずつ形を変えていく。友人は母になり、村にはまた新しい子どもが生まれ、季節の行事は変わらず繰り返される。


その中で、ミアだけが、あの十八歳の春で止まったままだった。


「待つって……いつまでなんだろう」


ある夜、木箱に手紙をしまいながら、ミアはぽつりとつぶやいた。


答えてくれる人は、誰もいなかった。

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