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いつか、君にただいまを――勇者一行の騎士は、ただ故郷へ帰りたい。  作者: puni0023


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エピローグ おかえり

数年後。


村のパン屋には、朝から香ばしい匂いが漂っている。


「シオン、そっちの窯もう温まった?」


「ああ、大丈夫だ」


粉まみれのエプロン姿で、シオンが厨房を行き来する。魔王を討伐した英雄が、今はこうして毎朝パンを運んでいることを、村の外の人間が知ったら、さぞ驚くだろう。けれど、村の人々にとっては、もうすっかり見慣れた光景だった。


自警団の仕事は、今も変わらず続けている。パン屋を手伝うのは、その休みの日だけ。それでも、この村では、その両方が当たり前のように馴染んでいた。


「シオンさん、今日もパン美味しいね!」


配達に出たシオンに、子どもたちが駆け寄る。シオンは白い粉をつけたまま、照れくさそうに笑って、焼きたてのパンを一つ差し出した。


*


店の奥、小さなゆりかごの中で、赤ん坊がすやすやと眠っている。ミアとシオンの、大切な宝物だった。


「今日はよく寝てるね」


「昨日、たくさん泣いてたからな」


赤ん坊の頬を、シオンがそっと指でつつく。その仕草は、剣を振るう騎士のものというより、どこにでもいる、ただの父親のものだった。


店の壁際には、今も小さな木箱が置かれている。かつて、届かなかった手紙が詰まっていたあの箱だ。今では、二人で読み返しては笑ったり、少し涙ぐんだりする、大切な宝物になっている。


「ねえ、シオン。今度、この子が大きくなったら、この手紙のこと話してあげようか」


「気恥ずかしいな、それは」


「でも、いつか役に立つかもしれないよ。待つことの意味とか、想い続けることの意味とか」


シオンは少し困ったように笑ってから、ミアの頭にそっと手を乗せた。


「……そうだな。いつか、話そう」


*


その日の午後、ミアとシオンは、赤ん坊を抱いて教会の墓地へ向かった。


ミアの両親の墓の前に、二人並んで膝をつく。


「お父さん、お母さん」


いつものように、ミアが静かに語りかける。


「私、幸せだよ」


シオンも、墓石にそっと手を添えた。


「これからも、ミアの隣にいます」


かつて、燃え盛る村の中で、シオンの肩を掴んだ父の手。「シオン。ミアを頼む」――あの一言を、シオンはずっと背負い続けてきた。守らなければ、という思いだけで、剣を握り続けてきた時期もあった。


けれど今は、違う。


守らなければいけないから、隣にいるんじゃない。


愛しているから、一緒に生きている。


それだけのことだと、ようやく、心の底から思えるようになっていた。


「ミアのこと、大切にします」


シオンの言葉に、ミアはそっと寄り添った。腕の中の赤ん坊が、小さくくしゃみをする。二人は思わず、顔を見合わせて笑った。


*


墓地からの帰り道、夕暮れのパン屋の前で、シオンが少し先に扉を開けた。


「先に戻って、店閉めとくよ」


「うん。……家で待ってるね」


赤ん坊を抱いたまま、ミアは一足先に家へと向かった。


しばらくして、玄関の扉が開く音がする。振り返ると、粉まみれのエプロンのまま、シオンが立っていた。


「シオン、おかえり」


その一言に、シオンはくしゃっと笑って、答える。


「ただいま」


十年という長い旅の果てに辿り着いた、なんでもない、けれどかけがえのない日常。


シオンの服からは、今日もパン屋の匂いが、ふわりと香っていた。

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