表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Tunin'Love!  作者: 沙莉
First Season

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/30

第4話 航ちゃんっていう人―2

小学校の何年生の時だったか。ああ、確か三年生くらいだったと思う。


当時、日替わりでターゲットを決めて、その子を無視するというのが流行っていた。最悪なゲームだった。


無視をされるターゲットの子は、本当に徹底的に無視をされる。存在を殺されたかのように、無視をされる。


一日耐えれば、次は別の子が無視の対象になる。だから、誰も文句言えなかった。ただ、ターゲットになりませんようにって、祈るばかりだった。


無視をしない子は、何度もターゲットにされていた。


私はそういうことは好きじゃないけど、でもターゲットにされるのは怖い。


だから、結局は他の子と同じように、ターゲットを無視していたけど、心の限界が来た。


自分がターゲットの日でもないのに、授業中に突然泣き出したり。可笑しくもないのに笑い出したり。


薄気味悪い行動が、数日続いた。自分でも、よく分かんなかった。ヘンだと思っても、止められなかった。


次に私に襲ったのは、朝の腹痛だった。


前の夜は何でもないのに、朝になるとお腹が痛くなる。お母さんが、学校へ休む旨を連絡すると、腹痛はケロリと治った。


ずる休みという意識は無かった。ただ、朝が嫌だった。学校へ行きたくなかった。


私の休みが四日ほど続いたある日、当時六年生だった航ちゃんが、朝迎えに来た。


「優香、行くぞ。支度をしろ」


「嫌だ。行きたくない。お腹痛い」


「支度をしろっつってんだよ。自分から着替えるのと、俺に脱がされるのとどっちがいいか選べ」


この当時から俺様だった航ちゃんの言葉に、私は怯えながら服を脱いで、渋々ながらに着替えた。


足取り重い私の手を引っ張った航ちゃんは、何だかとっても不機嫌そうだった。怒っているようにも見えて、私はビクビク全開だった。


学校が見えてきた頃、航ちゃんは突然振り返った。眉を寄せている。やっぱり怒っている。


「優香」


「ふぁい……」


情けない返事をする私に、にこりともせずに、航ちゃんは言った。


「辛かったら言え。困ったことがあったら言え。言わなきゃ分からねえ」


何のことだか、さっぱり分からない私は、瞬きを繰り返す。


やっぱりこの頃から、航ちゃんの言葉は曖昧だ。


思わず無言になってしまった私を連れて、航ちゃんは私のクラスのドアを開いた。


ざわめいたクラスの中が、一瞬で静まり返る。


航ちゃんは、私の手を掴んだまま席へと連れて行き、強引に私を座らせた。そして声を低くして囁く。


「いいか、今日一日逃げんな。不安になったら、俺のクラスに来い」


「う、うん」


「そこのきみ」


航ちゃんは突然、私の隣の席の男の子に目を向けた。私が男の子と航ちゃんを交互に見比べていると、航ちゃんはにっこりと私に向けることの無い笑みを浮かべていた。


「今日のターゲットって、誰かな?」


「え、ええと、ええと……」


その子は、戸惑ったように友達に助けを求めているけど、誰も助けてなんてくれない。


しん、と静まり返ったクラスの中で、柔らかな航ちゃんの声が聞こえた。


「ターゲットになった子は、うちのクラスにおいで。それ以外の子は、六年を敵に回したと思ってもいいよ」


航ちゃんの言葉に、ざわめくクラス内。


どうしてここに六年が出てくるのか、さっぱり分からないんだろう。だって私にも分からない。


だけど、航ちゃんは淡々と柔らかく言った。


「そんなくだらない遊び、潰すからね。やりたいヤツは、俺が相手になる。覚悟の上で、イジメを繰り返してな」


航ちゃんが最後、強調した言葉。


イジメ。


そうか、これってイジメだったんだ。きっと誰も気付かなかっただろう。ゲームだと思ってた。


だけど、自分がターゲットになるのは怖かった。ターゲットを無視しなくちゃなんないのが嫌だった。


そう思っても、口に出せなかった……。




しん、と静まり返ったクラスを見渡し、航ちゃんは私の頭をぽんぽんと撫でた。


その優しい仕草とは裏腹に、地を這うような低い声で囁いた。


「帰り、迎えに来る。逃げて早退してたら、ただじゃおかねえからな」


そう私を脅しておいて、航ちゃんは自分のクラスへと戻っていった。




もちろん、六年を敵に回すなんてバカはいなくて、その日から無視のゲームは無くなった。




航ちゃんの言うこと、やることは正しい。


それは、昔も今も。


私に常に脅しを掛けてくるのは、怖いけど……でも、そう強引にされないと、動けない私がいる。




航ちゃんの本心って、何だろう? 何を考えているのか、よく分からない。




分からないまま、夜の七時を迎え、宣言どおり、俺様航ちゃんがやって来た。


「何だ、ちゃんと仕度終えてんのか。部屋に乗り込んで怒鳴ってやろうと思ってたのに」


にやりと意地悪く笑った航ちゃんに、私が頬を膨らませていると、彼は私を押しのけて、大きな声を上げた。


「おばさん、優香を借りるね! 遅くならないようにするから!」


「悪いわねえ、航介くん。優香、あんまりワガママ言って、航介くんを困らせるんじゃないのよ?」


台所から出てきたお母さんが、タオルで手を拭きながらそう笑う。


私、今まで一度でも、航ちゃんにワガママ言ったことあるか? いや、無い。


脅されたりビビらされたことはあるけど、ワガママなんて……言えるわけが無い。


だけど、見てる。じっと航ちゃんが私を見ている。ガン見されて、そんな反論出来るはずもなく、


「はぁい……」


と小さく返事をするのが精一杯だった。






駐車場に止めてあった航ちゃんの車は、黒いセダン。何て名前の種類か、よく分かんない。というか、興味がない。


助手席を開けてくれるなんて優しさがあるはずもなく、さっさと乗り込んでエンジンを掛ける航ちゃんの横に滑り込んだ。


車の中は、芳香剤の香りがする。清々しい香りは、嫌いじゃない。


静かに走り出した車の中から、窓の外を見つめつつ、私は意識外で言葉を発していた。


「ねえ、航ちゃん?」


「あ?」


無造作な返事が、ちょっと悲しくなった。


「あのさ、あのね……」


「んだよ」


「この車って、……女の人、何人くらい乗っけたの」


今まで、何回も乗せてもらったこの車。だけど、長い髪の毛を発見したりとか、香水の香りが残ったのを感じたりしたことがない。


ただ、何となく。何となく聞いただけなのに。


航ちゃんからの返事がない。


振り返ると、真正面に目を向けた航ちゃんが、気難しそうな顔をしていて、不味い質問をしてしまったのかと思った。


「あ、ごめん、いいの。どうでもいいんだけど、何となく」


「どうでもいいこと口走ってんなよ」


不機嫌そうな航ちゃんの声。しまった、余計なことを言った。


後悔している私に、航ちゃんはハンドルを切りながら、


「女は乗せねえ」


「え?」


「何かあったら、責任取れねえから。だから、女は乗せねえ」


そう言われた瞬間、分かってたけど。当然、そうなんだろうけど。


私は女じゃないんだと、はっきりと宣言されたような気がして。


どうしてか、分からないけど……少しショックを受けてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ