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現代にダンジョンが出来たので好色に生きようと思います  作者: 木虎海人
第二章 普通の冒険者

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 法人化という選択肢


「……は?」


 言われた意味が分からなかった訳ではない。

ただ、素っ頓狂な提案に、雨木の口から間の抜けた声が漏れた。


「いや、専業冒険者が会社を作る意味は薄いって……

こないだ参加した研修でも、税理士の先生が言ってましたけど?」


 会社を作る。

それ自体は、雨木も考えたことがある。

それなりに調べてもいた。


 だが、現状ではあまりメリットを見いだせなかった。


 数年後なら分からない。

だが少なくとも今は、専業冒険者は税制面でかなり優遇されている。


 二割税。


 ダンジョン収入から一律で二割が引かれ、確定申告で経費を計上すれば、その一部が戻ってくる。

それが、現在の専業冒険者の基本だ。


 だから先日参加した、ダンジョン省主催の冒険者向け税務講習でも、法人化は勧められていなかった。


会社を維持するコストの方が高くつくからだ。


  雨木が調べ、そして講習でも聞かされた限り、法人化すれば様々な義務が生まれる。


 まず会社を作る時点で、登記だけでもそれなりの費用が掛かる。

 個人事業のように、思い立ってすぐ始められるものではない。


 会社になれば帳簿管理もより厳格になり、決算書の作成や法人税の申告も必要になる。

 知識がなければ税理士に頼ることになり、その費用も無視できない。


 さらに厄介なのは、赤字でも消えない固定費だ。

 法人住民税の均等割のように、利益が出ていなくても払わなければならない税金がある。


 加えて社会保険への加入。

 役員報酬の設定と管理。

 個人で稼いで、そのまま使うという訳にもいかなくなる。


 少なくとも、今の雨木には、法人化のメリットより増える手間の方が大きく見えていた。

その為、現状では個人事業主として青色申告の申請までで止めている。


 そのことを、つい興奮してつらつらと並べ立てた。


「……間違ってはいないな」


「そうだね。成りたてにしては、よく勉強しているんだろうねぇ」


 雨木が一気呵成に喋り終えると、二人の最高幹部は少し呆れたように顔を見合わせた。


「お前が言っているのは、ダンジョンからしか収入が無い冒険者の話だ」


「……いや実際、それしか収入はないですし」


「そこで会社の話になる。

箱を作れば、仕事が振れる。積み重ねれば実績になる。信用も付く。

いざやろうと思った時に作ったのでは、遅い」


 雨木は、美濃原の言葉の意味は理解出来た。

 もちろん、その裏まで含めてだ。


 その会社に仕事を振るのが、美濃原であり、卯月であり、ダンジョン省なのだ。


「……利用する気満々じゃないですか。少しは隠してくださいよ。

さっきも言ったけど、俺じゃ無理ですって」


「お前は自分には人望が無いと言ったが、そんなものはいくらでも後からついて来る。

そんなものだ。


お前が話してくれた身近な小目標のこと。

俺は好ましく思っている。

応援してやりたいと思う」


 美濃原はそこで一度言葉を切った。

細く裂けたような目が、さらに鋭く細められる。


「……金が要る。違うか?」


「……違わない。けど……ひょっとして懐具合まで把握されてる?

……それはそれで、なんか怖いんですけど」


「把握はしていないが、ある程度は推測している。

今日の取引のあと、どれだけ残る?


……そう多くは残らないのだろうとな。違うか?」


「……まぁ、正解ですけどね。

正直に言えば、槍のレベル2が相場だったら、俺には買えない話だったんで」


 元々雨木は退職時の貯金から三百万円を冒険者生活用に用立てている。

収入は安定するようになってきてはいる。

だが、残金は確実に減っていた。

今日の取引が上手くいけば、それは一気に加速する。


 それは槍スキルカードによる戦力アップと引き換えに、

しばらくは新しいスキルカードを思うようには買えない――静かな停滞期に入ることも意味していた。


 槍スキルが雨木にハマるかどうかは分からない。

だが、合わなかったら。

預金残高が回復するまで、当分はダンジョンに潜り続けなければならない。


(別にそれはそれで構わない……と思ってたんだけどな。

確かに、悪い話じゃない。


……というか普通に考えれば、国の機関から仕事をもらえるなんて大チャンスだ)


 雨木は美濃原を見る。続けて対面の卯月を見た。


(だけど――どうにも、いいように転がされそうなんだよな)


 卯月と目が合うと、彼女は人の良さそうな顔で言った。


「――あたしはまだ、あんたに仕事を振るとは言ってないけどね」


 その言葉に少しだけ腹が立つが、確かにまだ、それは雨木が勝手に読み取った話でしかない。

雨木はつい、軽く笑って誤魔化した。


「今日のところは考えておけばいいよ。


仮に会社を作って、百万かかって失敗したとしても、生きてりゃいくらでも取り返せる。

それくらいは出来るだろ? その程度の話さ」


 卯月のその言葉が、やけにストンと雨木の中へ落ちた。


「……なるほど。そういう考えかたもあるのか」


 仕事を辞めたばかりの雨木に、百万円の出費は確かに重い。

 だが、人生全体で見ればどうか。


 車を買った時。

 礼金や敷金、引っ越し費用が重なった時。


 それと同じか、それ以上の出費は、これまで何度も経験してきている。


 決して軽い額ではないが……


(ここで冒険すんのも、悪くないか。

……今は冒険者だしな。


……とはいえ、この場で決めるのだけは駄目だ)


「……一度持ち帰って、前向きに検討させてもらいます」


「ん……いつでも相談に乗る」


 雨木の言葉に、美濃原が満足そうに頷いた。



※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助的に利用しています。


しばらくは週末(土日0時)更新を目標に進めていきます。

難しい週もあるかと思いますが、引き続きよろしくお願いいたします。

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