成立しないと意味がない話
呼び出され、この部屋に入って早々、先制パンチを喰らわされた。
そう感じた雨木は、即座に思考を切り替えた。
椅子を引き、落としかけていた腰。
その向きを変えた。
美濃原の後ろへ向かう途中で足を止めていた、鷹見の方へと。
そして腰を折り、丁寧に頭を下げて言った。
「どうやら槍スキルが手に入るかも、と思ったら少し。……浮かれていたようです。
鷹見さんにはお詫びします。あれはセクハラですよね。
迷惑をおかけして、すいませんでした」
そう言って頭を下げる雨木に、鷹見も、鷲倉も、それ以外の者も驚いた。
それは予想していなかった行動だったからだ。
だが、その一手の意味を即座に理解できた者が二人いた。
雨木は、卯月に評価されることを切り捨てた。
卯月の機嫌を取りに動くのではなく、鷹見を守りに動いた。
その守られた鷹見ですら、急な展開に反応できないでいる。
そんな雨木の判断に、美濃原は内心で少しほくそ笑む。
一方の卯月も察していた。
だが、それを顔に出すことはない。人の良さそうな笑みを浮かべたまま。
その笑みの奥で何を思っているのかは、雨木には知る由もなかった。
「次は無い。鷹見、今回は許してやれ」
美濃原の声が響き、場が動く。
鷹見の「あの、その、全然気にしてませんから」という言葉に、鷲倉の顔がわずかに歪んだくらいで、全員が定位置についた。
長机が四角く並ぶ会議室。
そこには十一人の男女がいた。
だが席に着いているのは、雨木、美濃原、卯月の三人だけだ。
その状況に少し居心地の悪さを感じながらも、雨木には現状がいまひとつ掴めない。
ただ、次の言葉を待った。
「……さて、時間も無い事だし、本題に入ろう」
会議室に卯月の声が響く。
その声に組んでいた腕と足を下ろし、美濃原は雨木の方へと向き直る。
「雨木。お前が提案した冒険者の葬式の話があるだろう?
今日はその件を少し話しておこうと思ってきた。
同じことを提案している幹部が、一人いる。
それが卯月だ」
少し前に話した、少し重い話題。
死んだ冒険者は骨も残らない。
ダンジョンに吸収されるからだ。
だからせめて葬式だけでも、合同であげてやれないかと、美濃原へ話したことがあった。
雨木は酒を飲んでいた時の話で、流して良いとも伝えていた。
それから、その話に触れられることもないまま今日に至る。
覚えていたのか、と驚きつつも、雨木は背筋を少し伸ばして向き直った。
「あたし以外の幹部は現実的じゃないと言って、賛同してくれなかったんだけどね」
美濃原の言葉を、卯月が引き継いだ。
その時、一瞬だけ美濃原の視線が自分へ向いたことに、雨木は気付く。
「……現実的じゃない、ってのは何でですか?」
「深淵十二紋が、協力的じゃないからだ。
むしろ、拒むだろう」
「冒険者の葬式だからねぇ。
深淵十二紋。
それを抜きで、あたしらだけでやる。
……ってのは、ねぇ。
あんたはどう思う?」
振られた話に乗れば、返答はほとんど間を置かず返ってきた。
そして最後は、問いで返された。
深淵十二紋。
冒険者のアイコン。
日本屈指の冒険者チーム、その上位十二チーム。
美濃原や卯月たち、特殊空間管理省
――ダンジョン省との仲が良くないことは、雨木も聞いている。
「……まぁ、たしかに。深淵十二紋が参加しないとなると……厳しいでしょうね」
深淵十二紋の不参加。
それは両者の不仲をアピールする。
そういう場になりかねない。
だが、おそらくそれはない。
下位四チームは参加するはずだからだ。
深淵十二紋。
数年前までは、残照八座と呼ばれていた。
日本屈指の最高位冒険者たち。
マスコミと権力の力で、その枠は十二へと増やされた。
(……下位の四チームだけが参加しても、イベントとしては成立しねぇだろうな。
まぁ、葬式はイベントじゃねぇんだけど。
成立しないと、……意味がないもんな)
ただやるだけなら簡単だ。
だが、日本屈指の冒険者チームが不参加の追悼イベントなど、やる意味が薄い。
(強引にやってもな……溝が深まるだけか……いや……)
何も言わず見ていてくれるなら、まだ良い方だ。
下手に反発でもされたら?
(……憐れみとか、情けを掛けられたとか思う冒険者も出る。
そうなれば、大半の冒険者は深淵十二紋側に付くだろうな。
……つーか、俺も自分が提案した話じゃなければ。
ダンジョン省が葬式をやるって言って来たら、百パーそう思うわな。
上から目線で馬鹿にすんなってなる)
そんな結末になれば、ダンジョン省としては目も当てられない。
だったらやらない方がマシ、そういう結論になることは雨木にも理解が出来た。
「なるほど……、難しい話なのは良く分かりました。
軽々しく提案してすみませんでした」
雨木は美濃原に向かって、頭を下げてみせた。
そこへ卯月の声が掛かる。
「おや、ずいぶんとあっさり引き下がるんだね?」
その柔和な表情が、今日初めてわずかに崩れた。
卯月は少し怪訝そうに、雨木を見ていた。
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助的に利用しています。
しばらくは週末(土日0時)更新を目標に進めていきます。
難しい週もあるかと思いますが、引き続きよろしくお願いいたします。




