約束の時間まで
遅れて到着することを嫌った雨木は、かなり余裕を持って家を出ていた。
その結果、目的のダンジョン付近へ、約束の一時間以上前に着いてしまう。
しばらくは目的のダンジョン近くにあった道の駅で時間を潰していたが、
野菜を買いだめするような生活をしている訳でもないので、すぐに見て回り終えてしまった
いくつかの名産品や地場のお菓子を、手土産用に買ったくらいだ。
「サービスエリアとかもだけど……、こう、広くてでかいのが有ると便利でいいよな。
あっちこっちにこういうのが増えてくれてると、今後遠征を視野に入れてる俺みたいなのにとっちゃ……ありがたい話だ」
車に戻った雨木がドアを閉じ、背もたれを少し倒してそう言う。
するとツーシーターの車の助手席では、二体の精霊が具現化した。
そしてどちらも、(何が?)とでも言いたげな所作をした、……ように雨木には見えた。
「まぁ……あれだ。
今後、こういう場所に立ち寄ることも増えるよ、ってことさ」
言った言葉の意味は、通じないだろうなとは元々思っていた。
だがそれでも、精霊たちに伝えることが大事だと雨木は考えている。
雨木の生活圏にはこの道の駅のような施設は殆どない。
あっても、ここのような広大な敷地に建てられ、
駐車場が何か所も完備されているような、広い施設ではない。
その広さのおかげで、他の車のいない場所を選んで停めることが出来る。
リフェリアも、メリアも、決して人前で具現化することはない。
基本的には雨木の借りている部屋の中でだけだ。
だが、こうやって周囲に気を付けて、場所を選べば、
具現化して姿を現すことが出来る。
ここまでの運転中も、二体は雨木と共にドライブを楽しんだ。
無論、横を走る車などから見られないように気を遣いながらだし、
楽しんでいたかどうかも、あくまでも雨木の想像でしかない。
だが、
(そこまで考えることじゃねぇかも知んないけどさ。
本の中に入りっぱなし、よりかは少しでも外に出してやりてーじゃん。
まぁ絶対、誰かに見られる訳にもいかねぇんだけど)
雨木の中でリフェリアは、ダンジョン攻略に絶対に必要な存在になっている。
そしておそらく、メリアもそうなるだろうとも雨木は確信している。
どうせ連れ回すことになる。
なら少しでも楽しんでくれた方がいい。
「でも、ちょっと休憩な。
ダンジョンってのは色々とややこしくてさ。
入れる時間が決まってるんだわ。
今行っても、まだ入れねぇんだよ」
精霊たちへそう説明しながら、雨木はシートへ深く身体を沈めた。
自分で予約を取った場合を除き、ダンジョンは入場時間を指定されることが多い。
その時間を過ぎれば、当然ながら入れなくなる。
サークル臨時などがその典型だ。
主催側はある程度広く時間をもらえる。
だがバーター側は、入場時間に制限が掛かる。
今回も同じだ。
予約を取ったのは相手側。
その上、ダンジョン省の人間も立ち会うという。
時間に遅れるような真似は出来なかった。
(美濃原のおっさんとか来てると面倒だしな)
とはいえ、雨木はなんとなく別の人間が来るような気もしていた。
今回の件をやけに張り切っていた、ダンジョン省の人間に心当たりがあるからだ。
しかもその相手は、最近雨木が少し気になっている女性でもある。
その少しは、手土産にも大きく影響している。
もちろん、その女性が来なくても渡すつもりではいる。
だが買ったのは女性が好みそうなものだ。
美濃原に渡すには、少し合わなそうでもある。
(……それはそれで、……面白いからいいけど。
それはともかく、今回の取引。
上手くいったらあのおっさんには感謝だな。
……メリアと出会わなかったら結構カツカツだったが。
そういう意味じゃ、俺はマジで運が良い)
そう思った雨木は目を閉じ、記録書のことを思い浮かべる。
ダンジョンの外で、《レコルド》を出すつもりは雨木にはない。
だが取引の前に、念のためもう一度の中身を確認しておきたくなった。
スキルスロットは三枠。
アイテムスロットは九枠。
これは今も変わっていない。
雨木が基本、《レコルド》に入れて持ち歩けるカードは十二枚のみだ。
ただし、ダンジョンによっては話が変わる。
ボス部屋を攻略したダンジョンに入った時だけ、スロットが増えることが分かっている。
ゴブリンダンジョンと下水道ダンジョン。
雨木はその両方で、五階層のボス部屋を攻略している。
そしてそのダンジョン内では、《レコルド》のカードスロットが三枠ずつ増える。
だが、外に出るとその増えたスロットは消えてしまう。
スキルスロットに入っていたカードは、アイテムスロットに。
アイテムスロットに入っていたカードは、押し出されて実体化する。
地上ポータルを出た瞬間に。
地面に勝手にぶちまけられる。
なので一応、地上には持ち帰れる。
とはいえこれは、掲示板には載っていない情報だった。
おかげで雨木は、一度ゴブリンダンジョンでやらかしている。
五階層のボス、ゴブリンキャプテンを討伐し、ダンジョンを出た時のことだ。
後から《レコルド》にいれたゴブリンナイフらが押し出され、地面に散らばった。
あの日はリフェリアとの出会いもあった。
そんな事になるとは考えず、カードスロットの管理にまで、頭が回らなかったのだ。
結局気恥ずかしくなって、ゴブリンナイフはその後の清算ですぐに手放した。
それ以降はとにかく、《レコルド》の中のことには気を付けていた。
そして今もまた、雨木は脳裏で《レコルド》の中身へと意識を向ける。
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助的に利用しています。
しばらくは週末(土日0時)更新を目標に進めていきます。
難しい週もあるかと思いますが、引き続きよろしくお願いいたします。




