前から来てください、クソどもが
周囲に、ゴゴゴゴゴゴ――という重い音が響く。
ボス部屋の扉が、ゆっくりと閉まっていった。
「え? 噓だろ?
……聞いてた話と違うじゃんか!?」
雨木は、リフェリアと青色のきらめきを連れて、下水道ダンジョン五階層のボス部屋へ入ったところだった。
このダンジョンでは、もうボスは現れない。
そういう前情報だった。
実際、雨木はここまで三階層の小ボスとも遭遇していない。
そして青色のきらめきから、水魔法のスキルカードを受け取ったこともあり、雨木は少し気分が浮ついていた。
だからこそ、警戒も薄れていたのだ。
「マジか?
……じゃーボスいんのかよ?」
慌ててロングバールを構え、雨木は周囲へ視線を走らせる。
だが視界には何も映らない。
代わりに届いたのは、カサカサという、雨木の大嫌いな耳障りな音だった。
「うぇ、よりによってまたお前らかよ」
部屋の隅。
下水が流れ込む脇にある狭い通路から、二匹の黒色のGが飛び出してくる。
「最悪……『ファイア』」
雨木は即座にロングバールへ火魔法を纏わせ、向き直った。
ここはボス部屋だ。
どれだけ嫌でも、逃げるという選択肢はない。
雨木が一歩、踏み出そうとした瞬間。
続けて、通路の奥から次の影が飛び出してきた。
「げぇ……デカッ、気持ち悪ぅ」
黒色のGより、一回り以上は大きいその個体。
濁った灰色をしたそれは、まさにドブネズミと呼ぶに相応しい姿をしていた。
長い尻尾で床を叩きながら、雨木を威嚇する。
「……うっわ。マジで無理だわ、これ。
きしょい、殺す、絶対殺す。
マジ絶対殺すマンだわ、無理無理無理無理」
思わず、雨木の口から本音が駄々洩れになる。
しかも、それで終わりではなかった。
雨木の目には映らない。
だが下水の中を、長い胴を波打たせながら黒い影が走る。
次の瞬間。
大量の水飛沫を撒き散らしながら、それは部屋へ飛び出してきた。
無数の脚が、一斉に蠢く。
床を引っ掻くような音が、部屋へ響いた。
それが、戦闘開始の合図となる。
ゲジゲジ型の魔物が現れたことで、黒色のGたちが一斉に動き出した。
左右へ散るように走り、雨木を囲むように広がっていく。
「リフェリア、来いっ!」
叫ぶと同時に、雨木は部屋の隅へ向かって走った。
走りながらロングバールを横薙ぎに振るい、飛び込んできた黒色のGを弾き飛ばす。
潰れた甲殻から嫌な汁が飛び散り、雨木は露骨に顔を顰めた。
「うわぁぁぁ……最悪っ!
最悪だ、このダンジョンは!!」
だが、そんな悲鳴じみた声を上げている間にも、灰色のドブネズミに続き、更に大型のゲジゲジが迫ってくる。
これまで遭遇した個体よりも、明らかに一回りは大きい。
その長い胴体をうねらせながら、驚くほどの速度で床を這ってきた。
「ちっ――『ファイア』!」
雨木は必死に走りながら、再びロングバールへ炎を纏わせる。
その直後。
ネズミ型の巨体が、跳ねた。
跳ねた灰色の巨体が、雨木へ向かって一直線に飛びかかる。
「うぉっ!?」
慌てて身体を捻る。
直後、さっきまで雨木の顔があった場所を、鋭い前歯が通り過ぎた。
勢いそのままに着地したドブネズミ型の魔物は、床を滑りながら振り返る。
赤黒い目が、真っ直ぐ雨木を睨んでいた。
「……ちっ、このっネズ公がっ!」
雨木は炎を纏わせたロングバールを叩き込む。
だがネズミ型の魔物は、その一撃を飛び退いて避けた。
代わりに火の粉だけが毛並みに触れ、焦げた臭いが一瞬だけ漂う。
そこへ黒色のGが左から迫る。
「リフェリア、先に行け!」
叫ぶと同時に、雨木は左から来たその一匹へロングバールを突き出した。
まだ火魔法が残る、その先端を。
甲殻を滑るバールの感触。
焼ける音。
焦げた甲殻の下から飛び散る嫌な汁。
その全てが、雨木の精神を削っていく。
「っ、うぇぇぇ……!」
生理的嫌悪感に顔を歪めながらも、雨木は止まらない。
この状況で立ち止まるのはまずい。
囲まれれば終わる。
だから雨木は、一直線に部屋の隅を目指し必死で走った。
背後で、空気が爆ぜる音が響く。
リフェリアの『エアハンマー』だ。
直後、雨木へ迫っていたネズミへ、その魔法が叩きつけられる。
「ナイス!」
短く叫び、雨木はようやく部屋の角へ辿り着いた。
これで背後は壁。
少なくとも四方を囲まれることはない。
前から来るなら、まだ対処出来る。
「来いよ、クソ共。
せめて前から来てくれた方が、マシだ。
だから前から来てください、クソどもが――!」
その直後。
灰色の巨体が、脇の壁を蹴るようにして再び飛びかかってきた。
その腹部へ視線を合わせ、雨木は左手を銃の形に変えた。
「『エアハンマー』!!」
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助的に利用しています。
しばらくは週末(土日0時)更新を目標に進めていきます。
難しい週もあるかと思いますが、引き続きよろしくお願いいたします。




