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現代にダンジョンが出来たので好色に生きようと思います  作者: 木虎海人


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 普通の男のその本心


「――見て見ぬふり……ですか?」


熊澤は少し困惑しながらそう答えた。


ダンジョンは、突如として現れた人類の敵。

世間では、そういう扱いになっている。


だが実際は少し違う。


ダンジョンは突然現れたものではない。

少なくとも、最近になって急に現れたものではない


世界各国がそれを隠してきただけだ。

知らないまま生きていけるように。


だがどんどん増えてしまい、

ついには隠し切れなくなった。


熊澤は警察官になってからそれを知った。


(それでも――)


熊澤はグラスに視線を落とす。


少なくとも冒険者は、協力し、ダンジョンを攻略している。

そう思っていた。


サークル臨時。

複数人で潜る前提の仕組み。

今はそれが当たり前になっている。

間違っていないはずだ。


だから人は、そういうダンジョンに集まる。

安全で、効率が良い場所へ。


自分の勤務するゴブリンダンジョンは違う。

だから人が来ない。

それだけの話だと、思っていた。


(……でも)


目の前の男を見ていると、違和感が消えない。


協力。

共有。

効率。


そういった言葉から、わずかに外れている。


「……何を……ですか?」


熊澤は言葉を選ぶように、少しだけ間を置きながら言った。


「ん~、説明が難しいんですけど、いわゆる多数決の論理ですかね。

多数の意見だけを取り上げる。


――で、少ない方を切り捨てる。

それを見捨てる、のを見て見ぬふりをして金を稼ぐ」


雨木の口から出て来た言葉に熊澤は唖然とした。


「大多数のほうに回れば良いんでしょうけどね。

数を集めて、我を通す」


「……それが難しい、と?」


「いや~、出来るか出来ないか、だったら出来ると思いますよ。

でも、アホらしいじゃないですか。

派閥を作って、維持して、争って……って。

生涯冒険者しかしないなら考えますけど。

労力を考えると……皺が増えそうだからなぁ」


こともなげに言ったその言葉に、熊澤は再び唖然とした。

言っていることは分かる。だが、それを軽く口にできることでもない。


「……なんか、簡単そうに言うんですね」


「あー、冒険者なら簡単ですね。前で魔物と戦ってやればいいんですよ。

それだけです。


それだけで、簡単に人が釣れます。もう爆釣ですよ。

いくらでも人は付いて来ます。うわべだけですけどね。


ソースは俺。実体験です。


サークル臨時って、魔物の押し付け合いなんですよ。

いかに他人に貧乏くじを引かせるか。


引かせて、自分は安全に経験値稼ぎをする。


四回参加しましたけど、サークル臨時。

何度もやられましたから……」


思わぬところでサークル臨時の実態を聞き、熊澤は再び唖然とした。

警察や自衛隊、ダンジョン勤務の者同士で情報交換はしている。

だが、こんな話は聞いたことがなかった。


外には出てこない、ダンジョンの中の話。

新鮮ではあるが、胸はまったく躍らない。

ただ醜い現実だった。


「……大丈夫だったんですか?

……その、怪我とかは?」


「いや~、そこまでがセットなんですよ。サークル臨時って。

回復魔法持ちが必ず参加してるんで。


参加した時だと、どこも五万円くらいだったかな、治療代。

かなり相場よりは安いんですけど。


でも一般参加者だと、二万ももらえないんですよね。

足りない分は持ち出しか……借金です。


で、怪我した奴は借金返済のために、またそのサークル臨時に参加する」


そこまで言われれば、熊澤にも流れは分かった。


「……それでまた怪我をする。

……そういうことですか」


「ですね。

押し付け合いって言いましたけど、正確には常連が新人に、ですね。

常連に押し付けてやろうと思って参加する新人なんていませんし。


……いや、それ目的で参加する新人もいるのかな?

まぁどっちにしろ、サークル臨時なんて大半がそんな奴ばっかなんで。

馬鹿らしいんですよ、参加するの」


知らなかったダンジョンの現実に、熊澤は言葉を失った。

そこで会話が途切れる。


雨木はグラスを傾け、空になっていることに気づく。

注文用のタブレット端末を手に取り、そのまま操作した。

その様子を、熊澤はぼんやりと見つめていた。


目が合い、「もう一杯飲みますか?」と尋ねられる。

熊澤も頷き、お代わりを頼んだ。


しばらくして、店員がドリンクを運んでくるまで、沈黙が続く。


「……なんか重い話になってすいません。

せっかくお祝いしてくれる席だったのに」


謝られて、熊澤もここが祝いの席だったことを思い出す。

舞い上がって、冷めて、そのまま忘れていた。


少し気まずくなり、熊澤も謝った。

そのまま互いに謝り合い、言葉が重なる。


やがて、それがおかしくなり、二人とも笑ってしまった。


「……どうするんですか? 美濃原さんの頼み」


少し笑い合ったあと、雨木は真面目な顔に戻る。

そして考え込むように、テーブルの上のイージス端末を見つめた。


今日何度目かの、その思案する顔。

それが気になって、熊澤は声をかけた。


「んー……どうする、か~。

別に部下でも子分でもないんで、言うこと聞く筋合いはないんですよ。


でもまぁ、上から目線になりますけど、行ってやってもいいとは思うんですよね。

別に、あの強面のおっさんが嫌いなわけじゃないですし。


……見た目と言動は、どう見てもヤクザなんですけどね」


「……あー、らしいですね。お噂はかねがねと」


そう言って、熊澤はくすりと笑う。

同僚から聞く噂と、雨木の話。食い違いが多い。

せっかくだから一度くらいは、どんな人物か見てみたいとも思う。


「……人の話はちゃんと聞いてくれる人ですよ、顔は怖いですけど。

で……意外と頼りになるから、たちが悪い。


まぁ、でも、なぁ……。

サークル臨時ってマジで金にならないんですよ。

そこがなぁ……」


それは確かに問題だと、熊澤も思う。

サークル臨時でもらえる金額が、先ほど聞いた通りなら納得の話だ。

雨木の、ゴブリンダンジョンでの稼ぎも知っている。

単独で八階層のボスを倒す目の前の男は、その何倍も稼ぐのだから。


「そこは、ちゃんと話してみるしかないかもしれません」


心情的に、雨木の気持ちも分かる。

だが熊澤は、ダンジョン勤務の公務員でもある。

そう考えると、美濃原の頼みは断らない方がいいと思った。


問題ないと本人は言うが、それが本当にそうかは分からない。

下手に拗れて、雨木がダンジョンに来なくなる。

それは嫌だな、とも思ってしまう自分に気づく。


その時、テーブルの上のイージス端末がふっと光った。

触れてもいないのに、自動的に電源が入る。


そして震え、鳴り出した。


画面には再び『美濃原 道三』と表示されている。


「……遠隔操作も出来るのかよ。


……はぁ、ほんと、クソみたいな職業ですよ、冒険者。

早く辞めたいです」


雨木は熊澤と目を合わせ、肩をすくめて言った。

そうして、いかにも嫌そうに電話に出た。

そして、


「辞めて普通に働いて、さっさっと結婚したい……んだけどな、クソが!」


と叫んだ。

※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助的に利用しています。


すみません、間違えて昨日0時に、二話投稿してしまいました。

何というか……フライングしてしまい、失礼しました。


今回は変則的な更新となりましたが、お付き合いいただきありがとうございます。

来週も同じく三話投稿する予定です。

次回はちゃんとします。


しばらくは週末(土日0時)更新を目標に進めていきます。

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