カナタ②
それ以来、何かあるたびに絡んで来やがる。
鬱陶しい。
自分はどっちにも負けない。
冒険者としても、喧嘩でもだと、カナタは思っている。
「もう、やめてよね。
あいつらと喧嘩なんかしても、なーんも得しないんだからさー」
腕を引っ張りながら、ティナが小声で文句を言ってくる。
背中を押しながら、シアもうんうんと頷き、同意しているのが分かる。
自分は下のグループの端っこ。
後から来た新人は主力に組み込まれた。
昔殴った相手も、その主力の、サークル臨時の戦力の一人。
一緒に文句を言って、戦ってくれる者はカナタのそばにはいない。
(ちくしょう、これも全部アマギのせいだ。
ガタガタ屁理屈抜かしてないで、俺が呼んだらすぐ来いってんだよ、あのくそ野郎)
カナタはアマギを何度も、このサークル臨時に誘っている。
文面を変え、言葉尻を変えて。
だが、いい返事は来ない。
カナタはそれを、アマギがこのサークル臨時を毛嫌いしているからだと思っている。
だからそんなこと気にするな、と。
俺といれば平気だろ、と送り続けている。
ノリのいいカナタの地元の友人なら、
「オッケー、二人で暴れてやろうぜ」
とでも返してくれるだろう。
だがノリの悪いアマギの答えは、ノーだ。
それがさらにカナタを苛つかせる。
「おい、ちょっと待てよ。
おまえ、確かカナタ、であってたよな?」
その声に振り向けば、前に殴り合いをした男だった。
文句を言ってきた新人を宥めながら、カナタの方へと近寄ってくる。
「あいつはいつ来るんだ?」
警戒していたカナタに、そんな言葉が掛けられた。
「あいつ?」
「トンファーとかバール振り回すあいつだよ。アマギ、だっけか?」
「ケッ、お前に関係ねぇだろ」
不愉快な存在の口から出た名前。
それは意外な男の名前だった。
ほんの少し前に思い浮かべていた名前。
それが、カナタをさらに不愉快にさせた。
「関係ねぇってことはねーだろう。参加するんならよ。
聞いてんぞ。お前が呼ぶんだろ?
呼んで、肉壁にするって」
男の言葉を聞き、カナタは小さく舌を打った。
前にティナが飲み会で、アマギをバカにしてそう言ったことがある。
その話だとすぐ分かった。
カナタにとっては、あれは飲み会の軽口だ。
いない場で、ちょっと雑に扱っただけのつもりだった。
さすがにそれを、そのままアマギに言うつもりはない。
肉壁になれ、なんて直球で伝えるつもりもない。
言って、やる男だとも思っていない。
だがアマギは、女に甘い奴だ。
最初の臨時野良パーティで、肉ダンジョンに一緒に入った時、カナタはそう思った。
呼びさえすれば、何だかんだ付き合わせられる。
そうすればそのうち、自然とパーティの盾役は押し付けられる。
女に目の前で頼られれば、アマギは断らない。
カナタはそう踏んでいた。
自分のことを棚に上げて。
しかしアマギを呼ぶという話は、知らぬ間に広まっていた。
まるで決まった話のように。
ティナが横殴り組の間に、そう言って回ったからだ。
そして早く呼べと、カナタを急かしてくる。
そのアマギは、このサークル臨時を嫌っている。
拒んでいる。
そんな男に、肉壁になるために参加しろ。
なんて、言える訳がない。
ティナとアマギ。
カナタはその両方に挟まれ、頭を悩ませていた。
自分勝手で、わがままで、勝気な女。
だがカナタは、そのティナの身体に未練があり、切れないでいる。
男は薄く笑い、続けて言った。
「まぁ、聞いたのはけっこう前だしな。
そんなことするような奴には見えなかったし、どうなんだって思ってな。
で、振られたのか?」
「ふっざけんな! ちげぇよ!
あいつは呼んでくれって頼んで来てるわ!
だから、俺が呼ぶのに条件出してんだよ! っざけんな!」
軽く言われた「振られた」という言葉。
それがカナタには、思いっきり馬鹿にされたように聞こえた。
大きくなった声に、また袖を引っ張られる。
見ればティナが「揉めるな」と目で訴えてきていた。
「ふーん、そうかい。
……まぁそこは確かに、俺らには関係ねぇわな。
……で、あいつの名前は、アマギであってるんだよな?」
「…………あぁ。だったら何だ」
「ふっ、それもお前には関係ない話……だろ?
まぁ、噂を聞いて、そんな奴がいたなって話になっただけさ。
中にはそのアマギを見てねぇ奴もいるからよ。邪魔したな」
そう言って男は振り向き、手を振りながら去っていく。
その余裕の態度が、カナタの不愉快を加速させた。
男の背中を睨みながら、カナタは今度は大きく舌を打って言った。
「くっそ、先行組にまで広まってんのかよ……なぁ、ティナ。
あの話、あんまり広めるのやめろよ。
いくら何でも、そんな言い方で呼べる訳ねぇじゃんか」
小声で愚痴ると、ティナは肩をすくめた。
「えー、何。マジで振られてんの?
自分が呼べば、あれは尻尾を振って、喜んで来るって言ってたじゃん?
カナタ、噓ついてたの?」
「……嘘じゃねーよ。俺とは狩りに行きたいって。
でも、このサークル臨時には来たがらねーんだよ、仕方ねーだろ!」
これは丸っきりの嘘ではない。
実際、アマギからそういう返事は来ている。
だがそれは、雨木にとっては話を逸らすための言葉に過ぎない。
そしてカナタが周囲に語っている内容は、その大半が都合よく膨らませたものだった。
「えー、呼べないと困るじゃーん。
経験値稼ぎしたいんでしょ? どうにかしてよカナタぁ」
軽い調子でそう言われ、カナタは黙り込む。
「あ、じゃーさ、シア紹介してやればいいじゃん。
別にいいよね、シア?」
急に振られて、シアは目を丸くする。
「えっ!?
……えーっと……あはは」
曖昧に笑うシアを見て、カナタは顔をしかめた。
元々カナタは、ティナよりシアの方が好みだった。
簡単にやれそうだったから、ティナに手を出したに過ぎない。
さらに言えば、もう一人のメンバーには、もっと未練がある。
アマギに押し付けるなら、ティナだった。
そんな本音が、つい口を突いた。
「いや……それは、ちょっと、駄目だろ」
するとティナがじろりと睨んでくる。
「なに?
カナタはシアの何なの?」
言葉に詰まる。
その空気に、シアはまた困ったように笑った。
※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを利用して調整しています。




