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現代にダンジョンが出来たので好色に生きようと思います  作者: 木虎海人
第二章 普通の冒険者

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 呼んだ名前


「それは……」


 唇を噛みしめながら漏らしたクロベェの「海外で売り飛ばす」という告白に、雨木は再び言葉を失った。


 それが可能なことだとは知っていたからだ。


 記録書(レコルド)だの、スキルカードだのと言っても、万人がその仕組みを正確に把握できるわけではない。


 《レコルド》はダンジョンの外でも出し入れが可能で、カードの着脱にも問題はない。

カード化した道具類なら、ダンジョンの外でも解除できる。


 雨木が確認している制限は、カード化そのものがダンジョン内でしか出来ないという一点だけだ。

スキルカードだろうと、カード化した道具だろうと、《レコルド》から出して保管することも出来る。


 盗難の危険を考えると、なるべくそうしたくないのが雨木の本音だ。


 もっとも雨木の場合、モンスターカードである精霊二体はスキルスロットから動こうとしない。

抜き差ししようとすると、明確な不満をぶつけてくる始末だ。


 なので、その件は既に諦めている。


 だが、スキルカードを《レコルド》に挿したまま飛行機で海外へ渡れば、それを正確に把握できる者はいない。


 もちろん、何かを持って移動したこと自体は、関係者なら察するだろう。

そして取引履歴のあるカード類なら、ダンジョン省は正確に把握している。


 あとは、モラルの問題だ。

 あるいは愛国心と言ってもいい。


 国内で生まれたカードは、なるべく国内の冒険者に使ってほしい。

 そして攻略を進めてほしい。


 それが、自国民の大半が抱く感情だろう。


 だが、それでも日本の元冒険者が海外でスキルカードを売りさばく話は少なくない。

ダンジョン後進国である日本より、先行国の方が高く売れるから――という理由もある。


 だが実際には、それ以上に古参冒険者のダンジョン省への不信感が大きいのではないか。

 美濃原から、雨木はそう聞いていた。


「……気持ちは分かります。

でも、あんまり……後味の良い話でもない、と聞きます」


 何と言うべきか迷い、結局雨木はそう答えた。


 古参冒険者がダンジョン省をどう思っているのか、その実感までは分からない。

少しでも高く売りたい気持ちは理解できる。


 だが、それが後ろ指をさされる行為であることもまた事実だろう。


「ずいぶん、暮らしにくくなるとか……」


 入る小金。

 使わなくなったスキル。


 海外から帰ってきた後、二度とダンジョンに入らない者もいるだろう。

 それは、その者の自由だ。


 だが、それを周囲がどう受け取るかまでは分からない。


 人の口に戸は立てられない。

 火のない所に煙は立たない――とは言うが、世の中には自分から薪をくべて面白がる人間もいる。


 雨木のように、海外移住まで視野に入れている者ならいいかもしれない。

だがそうではなく、元の居住地には住んでいられなくなったなんて話もあるらしい。


 小金目当てに寄ってくる者も増える。

それが全て、善良な人間ばかりとは限らない。


「……殺された冒険者の話とかも、掲示板で見ましたが。


……って、そこまで俺が口を出すことでもないですね。

そもそもクロベェさんの方が大先輩ですし、諭すようなことを言ってすいませんでした」


 雨木の言葉に、クロベェはほんの少し眉をひそめた。


 その変化に気づき、雨木は頭を下げてみせる。


(余計なこと言ったかな……。

……それで流れたら、仕方ないと諦めるか。


でも、警告はした。

……仮にそれで殺されても、俺が関わるべき話じゃないだろうし)


 冒険者同士のトラブルは多い。

そして最も多いのは、断トツで金銭トラブルだった。


 報酬の分配は、その場で終わっても遺恨を残すことが多い。

故に特殊空間管理(ダンジョン)省は、複数人でのダンジョン入場時には、必ず分配方法を明記した契約書を書かせている。


  だが、それでも諍いが尽きることはない。

自分の知らないところで誰かが稼いだ、なんて話を妬ましく思う奴も意外と多い。


 そしてその手の話は反響が良いらしく、掲示板には頻繁に上がってくる。


 次いで多いのが、恋愛トラブルだった。

うんざりしながらも、雨木はそうした話にも一通り目を通していた。


 クロベェの選択の先には、嫌な予感しかなかった。


 槍のスキルカードを売ってもらえないのは残念だ。

だが、理解した上で選んだ道なら、他人である自分がこれ以上踏み込むべきではない。

雨木はそう考えた。


「それじゃ……話は終わりってことで、良いですか?」


 確認するようにそう尋ねると、クロベェは少しだけ目を丸くした。


「いや、……誤解させたね」


 クロベェは短く刈り上げた髪を掻きながら、苦笑する。


「……って、誤解じゃなくて、そう考えてたのは事実なんだけど」


 一度息を吐き、クロベェは真っ直ぐ雨木を見た。


「改めて、お願いするよ。


所持しているスキルカードを全部、君に譲りたい。

ただ……その前に、一つだけ頼みがある。


君の所有している精霊と、会わせてくれないか?」


「……」


 クロベェの言葉に、雨木はまた沈黙した。


 それが意外な提案だったからではない。

 意外だったのは確かだ。


 だが、それ以上に『所有』という言葉が引っ掛かった。


(……無自覚なんだろうな。


つーか、こういう感覚だからこそ、手を貸してくれる精霊を売りに出せるのか。


俺には、一生理解できそうにない)


 無自覚な見下し。

 自分の方が上だという思い込み。


(……あんまり、会わせたくないなぁ。


槍のスキルカードとリフェリア、メリアだったら……

精霊の方が大事だな、俺は)


 雨木自身、他人に対して似たような態度を取ったことがないわけではない。


 だからこそ、今このタイミングでそれを向けられると、嫌な気分になった。


 そんな細かいことは揚げ足取りだと言う者もいるだろう。

 だが、本当に会いたいなら、言葉選びにこそ気を使えと雨木は思う。


「あー、えーっと、す――」


 すいませんが、今回のことはなかったことにしてください。


 そう伝えようとした、その瞬間だった。


 ふわり、とリフェリアがどこからともなく舞い出た。


 続いてメリアも。

 ぽん、と跳ねるように胸元へ飛び出してくる。


 雨木は慌ててメリアを両手で受け止めた。


「……お前ら、なんで……」


 ふわりと舞ったリフェリア。

 ぽんと跳ねたメリア。


 二体は雨木の左右へ回り込み、その頬へそっと触れた。


 まるで、頬に口づけを落とすかのように。


『大丈夫だよ』


『後は任せて』


 雨木の脳内に、そんな意思が響く。


 緑の蝶と、薄青のスライムは、雨木とクロベェの傍を離れ、広場の隅へと向かっていく。


「あ、――」


 そこまで進んだ瞬間、白い靄が現れた。


 二体の精霊は小さく震え、輝き始める。


 雨木の目に映ったのは、ほんの少し前、出会った頃の姿。


 緑色のきらめき。

 青色のきらめき。


 だが、それを懐かしいと思うより先に、ドス、と何かが地面に落ちる音がした。


 音の先では、クロベェが膝から崩れ落ちていた。


 そのまま視線を向ける雨木の前で、クロベェの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。


 そして小さく、誰かの名前を何度も呼ぶように、口が動いたのが分かった。


「……何なんだ、一体?」


 雨木がリフェリアとメリアへ視線を戻す。

そこには、三体の精霊がいた。


(――っ)


 だが、それはほんの一瞬だった。


 すぐに幻のようにかき消える。


 後に残ったのは、蝶とスライムの姿へ戻った、雨木のリフェリアとメリアだけだった。


(……なるほど。


察するに、あれは消えたクロベェの精霊の……残滓ってやつかな。


なんにせよ、許してはくれなかった訳だ。


……けど、お別れの挨拶が出来たなら、今日ここへ俺が来た意味はあったのかもな)


 何が起きているのかは、さっぱり理解出来ないままだ。

だが雨木楓真は、自分の中でそう折り合いを付けることにした。



※本作は作者による構成・執筆を基に、一部AIを補助的に利用しています。


しばらくは週末(土日0時)更新を目標に進めていきます。

難しい週もあるかと思いますが、引き続きよろしくお願いいたします。

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