Page 89 魔王の願いと人の王
魔王が頭を下げるとそれに続いて五皇臣、レラ、ザルディン、レイノルフやビバロも同じように頭を下げる。
あらかじめ、こうすることを魔王が皆に伝えていたからよかったものの、魔王の臣下たちは当初、大反対したが、全員が同じように頭を下げるという意見でなんとか許してもらった末の行動だった。
「魔王様!頭をお上げください。……この敗軍の将であるこのガレオンに一体何ができるというのか…。」
戸惑うガレオンを尻目に早速、魔王がその疑問に答える。
「ガレオン王には新しく我らが作る人の国の王となってもらいたいのだ。これまで愛着のある国をなくしてしまうことは申し訳ないが…。」
「私も思うところがないと言えば嘘になりますが…。しかし、それならばあなたの部下が王になれば良いのではないでしょうか?その方がずっと支配しやすいのでは?しかもその本に書かれているようにするのならなおさら…。」
「それでは駄目なのだ。魔族が上に立てば支配は容易であろうがそこには恐怖がある。そしてその恐怖はいずれ反乱の種となり火となる。そうなれば我らの計画の妨げにもなろう。ならば人の王が治めるのが一番良い。」
この魔王の考えは人であるザルディンとトルアーラの進言によるものである。そしてもう一つ、ガレオンには役割があった。
「そして、そなたたちには後世へと伝えてほしいのだ。魔王がこの世界を支配し、かつて悪逆の限りを尽くしたと。」
なんとも不思議なお願いであった。ガレオンはどういうことかと思案しているとザルディンが話し始める。
「そうじゃ。人と魔王は敵対したままにしたいのじゃ。でなければ勇者が魔王を討とうなどとしないからのお。」
話しはこうだ。城や街や村といった人が住めるような場所は全部で20カ所ほど作るが、それ以外に誰も住まない偽物の村や町を数十カ所作り、勇者が現れるまではそこへ魔王軍の魔族たちが襲撃し、滅ぼしたり、悪虐な行為を行う舞台装置として利用するというものだった。
そしてそれを真実として魔族の悪評を人に流してほしいというものだった。
「つまり情報操作の片棒を担げということか。真実を隠匿し、偽りの歴史を紡げと…。」
本来、公明正大と形容されるようなガレオンはこのような申し出を拒否するはずだが、魔王たちの言葉から悪意というものを感じず、純粋に願いを叶えるための手段としての提案だったため。ガレオンは迷い、そして心を決める。
「なんとも不可思議な話であるが…わかりました。その提案、乗りましょうぞ。しかし、我らがそのことを漏らさぬという保障はどうするのですか?」
するとカシミラの隣で話を聞いていたメレーナが微笑みながら答える。
「それは心配におよびませんわ。特定の秘密をしゃべれなくする魔法がありますので、ただ、お互いの了承が必要なので助かりましたわ。」
ぬかりないなとガレオンは感心した。
「感謝するぞ…。人の王よ。」
まさか魔王に感謝される日が来るなどと思いもよらなかったガレオンは誰にも見られないように小さく微笑むのであった。




