Page 87 異なる存在
人類側の陣営は魔王の言葉にざわついた。
魔王と戦える者を生み出す本。
そんなもの聞いたことがない。
それにそんな本をなぜ魔王が持っているのか?
もしや、人類の誰かがそれを持っていてそんな本を持っている人間を危険視して手をうってきたのか?
これは魔王が戦争を起こすための口実に作った偽物だと小声で言うものもいる。
それほどこの本の存在は異常であった。
「皆のもの…静まれ!」
王の怒声で静かになる家臣たち。それを見計らってガレオン王は魔王に向き直る。
「恥ずかしいところを見せてしまい申し訳ない。だが、このような本を出されては我々とて動揺しますぞ。どうか私に説明してくださいますかな。」
さっきまでざわついていたガレオンの臣下達も息を呑んで魔王の言葉を待った。
「うむ。これは数ヶ月前に我が拾った物でな。臣下たちが調べた結果、一つの可能性として異世界であった勇者が魔王討伐までを書き記した日記のようなものではないかと推測したのだ。そして我はこの本を元に勇者を生み出したいと考え、まずはこの世界の地図をこの本と同じようにしようと計画し、実行しているのだ。」
人類側は声が出なかった。というより戸惑った。
つまり彼らは世界を支配するためでなく作り変えるために仕掛けてきたと…いや、結果として戦争になっただけで最初から我々に仕掛けてすらいなかった。と言っているのだ。
それに得体のしれない本を使って勇者を生み出すために世界を本のとおりに作り直すなどとあまりに現実離れしている。
「魔王様もご冗談などつかれるのですな。しかしそれでは余りにも荒唐無稽な…」
大臣が苦笑いしながら、本来の目的を催促しようとすると魔王陣営から殺気のこもった視線が一斉に大臣を突き刺す。
「魔王様。戯言ではないと申されるのか?」
ガレオンが見つめる魔王の瞳は一切の揺らぎもなく、まっすぐに見つめ返している。
冗談なのでなく、間違いなく本気であると受け取るしかなかった。
こんなバカげた事のために戦争で散っていった者たちのことを考えるとガレオンは悔しくて仕方なかったが、それと同時に一つの疑問が浮かんだ。
「なぜ、自分と戦える勇者を生み出そうとしているのか?」
ガレオンは思わず口をついて出た疑問の言葉に慌てたが、魔王は目を伏せ、そしてまた見つめ直し答え始める。
「我のくだらぬ…そして一生叶わぬと諦めていた願いの為である。」
その悲しみを帯びた言葉からガレオンは察した。
自分の願いの為に皆を巻き込んでしまってすまないと。
それ故の【謝罪】であったのかと。
そして今、対峙しているのが自分たちとは異なる存在であると理解したガレオンは怒りや悔しさを一旦、置いておき、改めて魔王の言葉に耳を傾けることとするのだった。




