Page 83 王と少女の鬼ごっこ
「なあ。ユエンよ。あの光景は普通ならヒバロ王は悪役にしか見えぬよな?」
「はっ!確かにそうですね。レイノルフ様。」
彼らの目の前では大きな斧を持った大男が少女を追いかけ回しているという。何処か別の世界なら即刻、捕まること必須であろう。
「でも、どちらも楽しそうですよ?レイノルフ様。」
「ああ。そうだな。」
斧を持って少女を追いかける男が笑顔なのは恐怖でしかないのだが、その斧の一撃一撃を笑いながら避け、防ぎ、跳ね返している少女もそれはそれで恐ろしい。
ヒバロの連れてきた兵士たちも少女が自分達の王と渡り合っている…いや、弄んでいる様子に顔を引きつらせている。
それもそのはず、ビバロはその時代最も強い戦士が王になるドワーフの国において歴代最強と言われているのだから。
ドワーフは全種族の中でも戦闘面では上位の存在であり、そんな彼らの最強の王が少女にいいようにされているのだから無理もない。
あと、単純に部下としては嬉々として少女を追いかける王を見たくないとも思っている。
そんな見ている方は誰も得しないような鬼ごっこが始まって数十分後、事態は動く。
ビバロの動きが悪くなってきたのだ。
「おじさん?もう終わり?」
「……ハァハァ…。そんなことはないぞ…。ハハハッ。…ハァハァ…。」
膝に手をつき虚勢を張ってみるが、誰が見ても限界が近いように思われる。
だが、その光景に笑えなかったのがレイノルフだった。
確かに傍目から見ればレラが遊んでいるように思うかもしれないが、ビバロの一撃一撃は重く、速いまさしく必殺の一撃であった。もし、自分の部下が戦っていたならすでにこの里に兵士など消えていただろう。その攻撃をレラは笑いながらいとも簡単にいなしていたのだから。
「アレス殿の言っていたことは本当かも知れないな。」
自分でも相討ちに持っていけるかどうかという相手に対して完全に優位に立っているレラ。そのレラを従えている魔王の力はどれほどのものなのか…。
レイノルフはそれ以上の思考は無駄だと考え、目の前の戦いに集中することにした。
「おじさん?そろそろ私も攻撃してもいい?」
なんともあどけないが物騒なことを言うものである。とビバロは思ったが、ここで格好をつけるのが王である。
「ああ、かまわぬよ!」
「じゃあ…いくよー!」
レラは両手で剣を持ち、両手を伸ばして大剣を水平に構え、自分を軸にくるくると回り始めた。やがてレラは独楽のように回転の速度を上げながら回り、そこには小さな竜巻が現れ、ビバロに襲いかかる。
王は斧で防ごうとその竜巻に振り下ろすと鈍い金属音と共に斧の刃は砕かれた。
そしてその刃がその身に触れる瞬間、レラは手首を返し、刃の部分ではなく、刀身の面の部分で叩くような形となり、ビバロは森の奥深くまで吹っ飛ぶこととなる。
「いやぁ〜。思ったより飛びましたな。」
レラが大剣を突き刺し、片手を日差しのように目のうえに掲げその行方を見つめた。




