Page 73 数十秒の思考
「これはこれはご冗談を。…と言いたいのですが、参りましたね。」
レイノルフは手を組み、考え込む。
いくつか想定はしており、その中の一つとして魔王の手のものかもしれないというのはもちろんあった。
ただ、可能性は限りなく少ないと思っていただけにどうしたものかと考える。
(魔力を見る限り、嘘はついていない様子。それとアレス達も操られているわけではないか。)
エルフ達には相手の魔力を感知する能力が備わっている。それはメレーナがセルケト戦で使ったような探知するというものと違い、その者が持っている魔力から様々な情報を知ることができる。
特に里長のレイノルフはこの能力に長けていた。
(だが、この能力を逆手に取られ、今このような状況に置かれているわけだが…。)
本当に魔王の手先だと仮定するといくつか疑問が湧き上がる。
一つはアレス達同盟軍だ。彼は自分が見る限り本物のアレスで間違いないだろう。そして操られてもいない彼がなぜ、魔王に与するのか…。ここまでの言動で彼を含め、同盟軍は脅されたりして仕方なくというより自らの意思でここまで来たように思う。
二つ目はなぜ、我々はまだ生きているのか。このザルディンの目的がエルフの里を見つけ出すことならば今頃、魔王軍が押し寄せ、ここは火の海になっていてもはずだ。それに魔障壁とやらも同盟軍を三万も連れてくる必要は無い。
魔王軍にとっては同盟軍など戦力として使う利点がない。その上、魔障壁も攻める上では邪魔になるはず。
要するにもし、このザルディンがこの里を消すために来たのだとするとあまりに回りくどすぎるのだ。
これまで派手に大陸を蹂躙していた魔王軍のやり方との差が激しすぎる。
だとすると…。
「ザルディン殿。本当に会談する為に来たということで良いのだろうか。」
どれだけ考えを巡らせてもザルディンの言葉を信じる方が筋が通ってしまう。
これもザルディンの策略かもしれないが、ここは乗るより他なかった。
「ようやく信じてもらえましたかな?ワシもこれだけのことをせねば、レイノルフ殿と直々に話す機会など作れませんでしたからな。」
ザルディンが話す度に彼の話が真実味を帯びていく。だからこそレイノルフは警戒心を強める。
「では要件をお聞かせ願いたい。」
レイノルフの眉間にシワが寄り、険しい視線をザルディンは浴びる。それとは対照的に相変わらず穏やかな表情をザルディンは崩さない。
「まずは我々魔族と和平を結んでもらえないじゃろうか。」
またも思ってもみない申し出にレイノルフの目線は険しくなる。




