Page 72 八方塞がり
――ユーズ…聞こえるか?――
(返答はない。駄目か。)
レイノルフは魔法による言葉の送信。念話で王都にいる部下に話しかけたが、返事はなかった。つまり目の前の老人が言うように魔障壁とやらは本当にかけられているようである。
「なるほど…。ザルディン殿の言うようにその魔障壁とやらは本当に使われているようだ。では…こちらも使いの者を出せば良いのではないか?」
少し考える素振りを見せながらザルディンは穏やかに答える。
「そうじゃのお。魔障壁というのは厳密には一定の魔力以上のものを外に出さない壁じゃから魔力の豊富なエルフが壁を越えられるとは思わぬが。」
少し挑発するような目でレイノルフを見つめる。すると彼は右手をそっと上げ、それに応えるようにエルフの戦士たちがザルディン達を取り囲んだ。
「ならばあなたを殺してしまえばいいのかな?」
「そんな脅しは効かぬよ。聡明な里長のことじゃ。ワシが死ねば解除の方法は永久に分からぬと知っているくせに。」
するとレイノルフは右手を下げ、戦士たちも構えていた武器を下ろした。彼はどこか諦めたような声でザルディンに話しかける。
「全く。食えぬ方だ。その通りだ。それにそうやってわざとわたしに自身の魔力を察知させたのもその隠密行動させている兵士に注意が引かぬようにという保険だったのだろう。」
「ご明察じゃ。レイノルフ殿が優秀でかつ思慮深い方であるがゆえにいくつも保険をかけさせていただきましたぞ。」
「皮肉にしか聞こえないな。では、改めて聞こう。貴殿は何者で何のためにこのエルフの里まで来られたか…教えていただきたい。」
「そうじゃな。では、その前に座らせてはもらえんだろうか?年齢ゆえ身体が辛くてな。」
レイノルフは少し笑みがこぼれ、一団をホールの奥にある応接間へと案内する。応接間もホール同様に綺羅びやかな空間となっていた。
「では、教えていただけるかな?」
レイノルフ、アレス、ザルディンが対面に座り、エルフの戦士と同盟軍の兵士達がそれぞれその後ろに控え改めて会談が始まる。
「まずはこれまでの非礼をわびさせてもらおう。会談の場を用意するためとは言え、礼を欠くことをしてしまい申し訳ない。」
ザルディンは立ち上がり深々と頭を下げる。アレスもつられて頭を下げた。
「そのことなら謝罪はいらない。これも良い経験になった。今後の防衛策に活かせば良いだけの話なのだから。ただ…アレス殿までこの者に協力するほどだ。そちらのほうが気になる。」
ザルディンが頭を上げ、再び座り直す。そしてようやく自らの正体と目的を告げるのだった。
「わかりましたのじゃ。では改めて…ワシはザルディン・ローグ。魔王の相談役として仕えているものじゃ。そしてここへはエルフの協力を申し出にきたのじゃよ。」




