Page 70 里長は用心深い
「これは…デカいな……」
エルフの里、その最奥に位置する大木。
入口からでも十分大きいと思われたが、実際目の前まで来るとその尋常ではない大きさにアレスは息を呑んだ。
「それでは、アレス様こちらへ。」
二人のエルフの兵士がその木の根元にある両扉を開ける。
里長の屋敷はこの大木そのものということだった。
木の扉が軋む音共に中の光景が広がると大木の中とは思えないような見事な装飾と調度品で飾られた玄関ホールが一団の目に入る。
「ほお…これはこれは。さすがエルフの里長の家じゃな。」
これにはザルディンも目を見張る。
そこに置くから一人、長身で痩せたエルフが姿を見せる。着ているものやその所作から彼が里長であることが推察できる。
「アレス殿、お久しいですね。お会いしたのはたしか…総司令の叙任式以来ですか。」
「レイノルフ殿。急な訪問で失礼した。」
「いえいえ、ドラゴンとの戦いで命を落としていたと聞いていましたが…ご無事で安堵いたしましたよ。ガレオン殿よりの使いと聞きましたが、アレス殿が生きていたということであれば我らにもお伝えしていただければ良かったのに。」
レイノルフの顔は微笑んだままだったが、声色に不満が滲み出ている。また糸目からは彼の心の内が分からずアレスはどう答えようか思案していると割って入るようにザルディンが口を開く。
「レイノルフ様、申し訳ございません。安否の知らせが遅くなったゆえ、こうして総司令直々にガレオン王の使いとされたのです。」
「なるほど…。確かにアレス殿の元気そうな顔を見て安心はしました。筋は通っていますね…。ですが、あなたは一体何者でありましょうか?」
その言葉でホールに緊張が張り詰める。
レイノルフは一団を迎えてからほとんどこの見覚えの無い老人を注視し続けていた。
「わたしは物覚えがいい方でしてね。ガレオン王の使い、それもお二人のやりとりを里に入ってから見ていましたが総司令のアレス殿と同じような立場で話されていましたね。そのような重要な者であれば知らぬということはないかと。」
品定めするようにレイノルフがザルディンを見つめる。その様子を見て、慌ててアレスがフォローに入った。
「す、すまない、レイノルフ殿。紹介が遅れました。こちらは私の戦術の師匠であるザルディンと言います。すでに隠居している身なので公の場には出てこないのですが、今回は師匠の意見も聞きたいと思い、今回同行してもらったのです。」
アレスは用意していた答えを話す。用心深いエルフならば必ず聞いてくると想定し、行軍中に考えていたのだった。
「戦術の師…なるほど。これは失礼した。ザルディン殿。」
なんとか納得させられたかとアレスが胸を撫で下ろした瞬間。まだレイノルフの言葉は終わっていたなかった。
「まさかこれほどの魔力を持つ人間がそちらにいるとは思いもしなかったものでね。」




