Page 64 敗者の名前
「魔王様!?いけませんわ!」
最初に声を上げたのはメレーナであった。それに続き、ほかの者も反対する。
「魔王様、考え直してください。その名は勇者に敗れた敗者の名前。魔王様にふさわしくありませんわ!」
「そうだぜ?何もわざわざそんな名前にしなくてもいいじゃねえか?なんならこのシュバールが考えてもいいんだぜ?」
「いやいや。ここはシュバールじゃなくてこの俺、ワダツミが名付けるほうがいいに決まってるだろ?」
「お二人とも、ふざけてる場合ではないですよ!メレーナの言う通りでございます。そんな不吉な名前…」
「その通り。黄泉の国の住人が不吉と言うくらいだ。それならば我ら獣族の神の名前を…」
それぞれが止める言葉を並べる中、一人、肯定する者が現れる。
「なぜダメなのじゃ?それで良いのではないか?ワタシもなんと呼ぼうかと悩んでおったのじゃ。ちょうど良い。」
セルケトがそう言うとカップに口をつけて、ゆっくりと机に置く。
「そういえば忘れてたけど…この子だれ?」
シュバールがセルケトを指差し事情を知っていそうなメレーナとワダツミを見る。
「そうじゃの。自己紹介ができておらんかったからの。ワタシの名前はセルケト・アヴィー。そこの魔王の妻じゃ。」
今度はメレーナとワダツミ以外が驚く。
「魔王様…。これはどういうことでしょうか?」
カシミラが恐る恐る魔王に尋ねる。
「うむ。セルケトの言う通り我はこの者と夫婦の契りを交わすこととした。」
その後はメレーナが幻島の報告という形で二人の馴れ初めを説明するのだった。
「ま、そういうことで頼むのじゃ。で、魔王の名前じゃが。魔王ウォルザーク…良いではないか。なぜだめなのじゃ?」
セルケトが静かに問う。
「いや…まあやっぱり異世界の負けた奴の名前なんて魔王様には相応しくねぇっていうかさ。」
シュバールが歯切れ悪く答えるが、恐らく誰に聞いても同じような答えが返ってくるだろう。
「相応しいかどうかの問題ではないのだ。シュバールよ。皆の気持ちは分かるが、我はこの魔王の名前が分かった時にそれを名乗ると決めておったのだ。」
魔王がゆっくりと皆を説得するように穏やかな声で話す。
「我はこの本のおかげで退屈であった日々に生きる目的を持つことができた。その礼としてこの敗れた魔王の名前を背負い、全力で勇者と戦い勝利する。そう思っておったのだ。」
皆が黙る中、一人、トルアーラが静寂を破る
「負けるつもりはないと。そうおっしゃるのですね。」
「無論。そのつもりである。我の願いは全力を出して戦い勝利することであり、敗北ではないのだ。」
強い決意の言葉に全員がどこか納得した表情を見せる。そしてここまで黙っていたレラが口を開いた。
「魔王ウォルザーク様に変わらぬ忠誠を誓います。」
その一言で五皇臣にオル、トルアーラらも跪くのだった。




