Page 62 この文字特殊につき…
「皆様はじめまして。ロージア国の王、トルアーラ・シュバリエと申します。以後、お見知りおきを。」
トルアーラはゆっくりと頭を下げる。今、この場にいる人族は彼女一人だけであり、この中で最も脆弱であるにも関わらず臆せず、堂々としていた。
「うむ。話はゴウグから聞いておる。我が赴けば早かったのだが、ゴウグがどうしても皆にも聞かせたいと言うのでな。早速だが聞かせてもらおう。」
魔王は見定めるようにトルアーラを見つめる。ゴウグからは本について重要な情報と伝えられていた為に、我慢ができそうになかった。
「では…。ゴウグ殿よりこの本を見せてもらったが、これは我が国に伝わる神代文字であると考えられます。」
その言葉に魔王は胸の高鳴りを抑えることができなかった。
「それは真か!?お主はこの文字を読むことができるというのか!?」
魔王は立ち上がり、トルアーラに迫る。彼女は魔王の凄まじい圧に気圧されて言葉に詰まってしまう。
「す、すまぬ。驚かせてしまった。続きを聞かせてくれ。」
魔王が座るのを見届けるとトルアーラは気を取り直し話し始める。
「わかりました。この神代文字と言うのは我が祖国、ロージア王国が成立するよりもっと前、数千年以上前に使用されていた文字と言われております。ただ…この文字はかなり特殊でして…」
トルアーラが語るにはこの神代文字はその特殊さ故に段々と使われなくなっていき、ロージア王国が建国される頃には民衆はほぼ使われることがなくなった文字だという。そして王家の教養の一つしてのみ残るようになったというのである。
「しかし、この文字の特殊さ故に次第に読める文字の伝承も少なっていき、私の代ではその数も100文字程度でございます。」
「文字が特殊とはど言う事なのでしょうか?」
オルが思わず質問する。これまで文字の解読にザルディンらと共に四苦八苦していた彼にとってもこの話しは興味深いものである。
「ええ、単純に文字数が多いのと、一つの文字に複数の読み方があるのです。」
「一つの文字に読み方が複数ある?」
オラが続けて質問をぶつける。トルアーラは横に座るゴウグに筆記用具と紙を用意するようにお願いした。ゴウグが了承する前に魔王の部下の一人がどこからか現れ、彼女にペンと紙を渡す。
彼女が感謝を述べるとその紙に何かを書き、それを皆が見えるように持ち上げた。そこには【日】と書かれている。
「これは「ひ」と読みます。意味は太陽です。しかしこれ以外に読み方があるのです。それが、び、にち、か、じつ、と読みます。そしてその読み方の判別はその時の文やこの文字の前後に続く文字によってつけるのですが。申し訳ありませんが、その見分け方は私もはっきりとはわかりません。」
「なんと…。そのような簡単な記号にそれほどの読み方が…。そして今分かってるのは200程度と申していたが、その文字の総数は分かるのか?」
魔王がこれまで総動員しても読み解けなかったことに納得しつつ、トルアーラに問う。
「はい。はっきりとは分かりませんが、5万以上あるのではと言われております。」
その答えに魔王をはじめ、トルアーラとゴウグ以外は啞然とするしかなかった。




