Page 59 遠き日の想い
ほんの千年前。
世界は現在よりも混沌としていた。
種族間の戦いは絶え間なく行われていたそんな時代。一人の少女が名を上げ始めていた。
セルケト・アヴィー
魔人である彼女はたった一人で数万の兵を操り戦いに連戦連勝。あっという間に世界の三分の一をその手に納めたのだった。
彼女が世界の覇者となるのは時間の問題と目されていた。
そんな時、彼女はある噂を耳にする。
「西の大陸に化物のように強い奴がいる」
セルケトは意気揚々とソイツを探し始めるとあっさりと見つかった。
それもそのはず。西の大陸に使いを走らせるとソイツはあらゆる戦場に一人で現れ、両軍を相手に暴れまわりそして最後に立っているのはソイツだけ。
ならば答えは簡単であった。
セルケトは西の大陸の中心で当時、最強と呼ばれた種族に対して宣戦布告。そして戦いを挑んだのであった。
そしてその思惑通り、その戦場にソイツは現れた。
ソイツは戦場でただ一人で両軍の兵士を容易くなぎ倒していく。
セルケトが作り出したマナの人形の兵士。通称ゴーレムは彼の前には無力であった。
今とは違い、作り出したゴーレムは重装歩兵や騎士団、騎馬兵から斥候部隊など多岐にわたり、また魔法が不得手ながら相手の魔法をカウンターとして利用する方法をこれまでの戦いで編み出し、擬似的な魔導師団も兼ね備える万能の軍隊であった。
そんなこだわりの詰まったゴレーム軍団が彼の前では木の葉のように蹴散らされ、次々に消されていく。
しかし…セルケトはその姿に目を奪われていた。
一目惚れというものだ。
あっという間に戦いは終わった。そこに立つのはすべてのゴーレムを失ったセルケトと退屈そうに空を見上げるソイツだけであった。
「お、おい!お前!ワタシと……ワタシと結婚するのじゃ!!」
セルケト自身もどうしてそんなセリフが口から出たのか分からなかった。でもそれが本心であることも否定できない。
しばらく沈黙が二人を包んだ。
「小さき者に要はない。去るがいい。」
ソイツはセルケトを一瞥するとどこかへ歩いて消えてしまった。
残されたセルケトは声を上げず、涙を乾いた戦場に落とした。彼女の初恋は失恋へと形を変え、以来、彼女は遠く離れた孤島に住み着く事となった。
それが千年前の出来事。
まだ魔王と呼ばれる前のお話。
そして現在…セルケトの自宅にて。
「何じゃ?お前はこのワタシを振ったことを今更思い出したのじゃ?」
今度は怒りを抑えるように震えながらセルケトはつぶやく。
「そんなことがあったのですね。」
思わずメレーナが申し訳なさそうにワダツミの方へと顔を向けるが、どうやら彼はあまり興味が無いらしく、出されたお菓子と飲み物を楽しんでいる。
困った表情を浮かべる魔王は慎重に話し始めた。
「すまぬ。セルケトよ。ただ、そうだな…。あの時はまさかお主があの軍勢を率いてると思わなかったのだ。」
それにうつむいていたセルケトは顔を上げ、魔王を見つめる。
「今更と言われても仕方がないが。あの頃はまだ我が何者でもなく、ただ戦いに明け暮れていてな。相手への敬意も何も持ち合わせておらなんだ。それ故、お主のことも戦場に迷い込んだ子どもだと。戯言であると受け取ってしまったのだ。」
セルケトが頭を下げる魔王を静かに見つめる。
「お主は小さき者ではない。先程の攻撃、誠に見事であった。我を許してくれまいか。」
「わかった。ならばワタシと結婚するのじゃ。」
その申し出にワダツミは口に含んでいた飲み物を吐き出すのであった。




