Page 43 怒らせちゃったかしら?
「なによそれ…、面白そうじゃないの。それともあの魔王おかしくなったの?」
セルケトが不敵な笑みを浮かべる。無理もない。魔王が自分自身を倒そうとしていると言っているのだから。
「セルケト様、実は…」
メレーナは魔王が生まれてから本気の戦いをできていないこと、そして不思議な本のこととそれに伴うザルディンの作戦の全容を話した。
「と、言うことなのです。」
「なるほどね。って納得しろって方が難しい話じゃないの。あの魔王、それにその…ザルディンって奴は何を考えてるのよ。」
先ほどまでとは違い少し機嫌を損ねたような顔でまたグラスに入ったワインをセルケトは呑んだ。
「どうしたんだい?思ってた情報と違ったかな?」
今度はワダツミが声に余裕を持たせて挑発気味に問いかける。どうやらこの二人の相性はあまり良くないらしい。
「そうよ。坊や。その通りだわ。もしかしたらあなた達が魔王を裏切ってこっちと手を組みに来たのかしらって少し期待しちゃったじゃないの。」
「残念ながらわたくしたちが魔王様を裏切るなどということはございませんわ。」
「ふん」と鼻を鳴らし、セルケトは二人から顔をそらし頬杖をつく。
「それで?結局この島は俺達に渡すのか?どうなんだ?」
ワダツミは苛立ちを隠さずに確認を取る。しかしセルケトは答えない。何かを考えている様子だ。
「数百年…本気で戦って無いって言ったわね?」
セルケトが顔を向けず問う。それにメレーナが静かに答えた。
「はい。恐らくですが、魔王様が本気で戦われたことなど生まれてこの方無いのではないでしょうか。」
「それはつまり私と戦った時も本気じゃなかったってことよね。」
「あんたどころか五皇臣の誰も魔王様の底なんて見えやしなかったよ。あのお方はこの海の深海よりも深いんだから。」
「海の王であるあなたがそれを言うのね。嫉妬しちゃうわ。」
ワダツミはハッとしてセルケトの顔を見るが相変わらず彼女はそっぽを向いたままである。
「あら、あなたの事は知っていたわよ?ただワタシは子どもが苦手なのよ。それが見かけだけであってもね。」
そう言うとセルケトはようやく二人の方へ顔を向けた。それでも彼女はまだ何かを考えているようである。その様子にワダツミが怒りを示した。
「そうかそうか。つまり俺の事を分かっててそんな態度を取っていたってことか…。」
「あら。怒らせちゃったかしら?ごめんなさいね。」
「セルケト様もワダツミさんも落ち着いて下さい。とにかく…セルケト様、島の件考えていただけないでしょうか?」
ワダツミが今にもセルケトに掴みかかりそうだったので仲介に入ったメレーナであったが、その気遣いは徒労に終わるのだった。
「嫌よ。どうしても欲しいならワタシを倒してみなさいな。」




