Page 42 ここがワタシの楽園よ
「ごめんなさいね坊や。わたし…冗談は好きだけど。おちょくられるのは嫌いなのよ。」
拳を叩き込んだ相手にセルケトは諭すように話しかける。聞けるような状態にとどめることのない容赦のない一撃のはずだったが、彼女の拳には違和感があった。
「意外に魔人の一撃って軽いんだね。」
よく見ると拳と少年の間に水がまるでスライムのように集まり、その塊の中に入り込んだ拳はすんでのところで止まり、攻撃を遮っていたのだった。
「ふ〜ん。そういうのは嫌いじゃないわよ。」
セルケトは拳を水の中から引き出すと男の魔族が近づき、タオルを手渡す。
「まぁ、いいわ。話は聞きましょう。ついてらっしゃい。」
手を拭い、タオルを魔族に返すと丘の方へとセルケトは歩き出し、二人もそれに続いた。そしてしばらく歩くと白を基調とした大きな屋敷に着く。
「帰ったわよ。開けてちょうだい。」
セルケトが手を鳴らすと屋敷の扉は開く。そこにはビーチにいたような魔族と正反対のメイド服と燕尾服を着た何十人もの魔族が彼らを出迎えた。
「おかえりなさいませ。セルケト様。」
扉の近くにいたメイド服の魔族が三人に飲み物を渡す。
「お腹が空いたわ。話は食べながらしましょう。」
そう言うとセルケトは空になったグラスを返し、屋敷の奥へと歩いていき、二人もついていき、食堂へとたどり着いた。そして使用人たちに席まで案内された。
「やっぱり海で遊んだあとはこれよね。」
セルケトは焼かれた肉を頬張る。メレーナ達の前にも出されたが二人は手を付けていなかった。
「どうしたのよ?毒なんて入ってないわよ。」
セルケトが食べ終え、近くのナプキンで口の周りを拭きながら話す。
「それで…この島を明け渡すかどうか決めたのか?」
ワダツミはグラスを回しながら問いかける。
「坊や?悪いけどそれは飲めない話ね。そんなことよりここでゆっくり遊んで行きなさいよ。山には大きな虫も捕れるわよ。」
セルケトはワダツミには目もくれずグラスを取り、ワインを口に運ぶ。その様子にワダツミが怒り出しそうなのを察してメレーナが間に入る。
「セルケト様。これは魔王様たっての作戦のためなのですわ。住まいは別に用意しますので。」
「魔王の…。あまり聞きたい名前じゃないわね。」
一瞬、部屋の空気が張り詰める。そしてセルケトは言葉を続ける。
「あの魔王が何をしようがワタシには関係ないのだけれど…。その作戦とやらを教えてもらえるかしら。」
ワダツミが小さくため息をした後に、仕方ないなという雰囲気で答え始めた。
「自分を倒す為の下準備だよ。」
その言葉にセルケトは俄然興味を示すのだった。




