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「見たこともない文字ですな。」
魔王陣営一の知恵者である。ザルディンは立派にたくわえた白ひげを撫でながら奇妙な本を見つめた。
魔王は城に帰るとすぐに彼を含めた城の者を大広間へと集めた。
「そうか、ザルディンが知らぬとなるとこの文字を読める者はこの世界におらぬだろう。」
「買い被りでございますよ、魔王様。私はまだまだ未熟者ゆえ。この世界の全てを知っているわけではございません。」
二人が本を見ながら思案していると、周りを囲む群衆から一人のダークエルフの少女が本の前へと飛び出した。
「魔王様。これってなんの本なんですか?」
「我にもわからぬゆえ、皆の知恵を借りているところなのだ。レラよ。お主はこの文字に見覚えはあるか?」
レラと呼ばれたダークエルフは少し考える素振りをし本を持ち上げた。
「レラよ。魔王様の許しも得ずに触れるではない。」
ザルディンはレラに注意するが魔王は手で制した。
「良いのだ。すでにこの本が呪物かどうかは確認済みである。」
レラは魔王の言葉を「この本を読んでも良いぞ。」と都合よく解釈し、本を開いた。
「すっごくツルツルした紙…しかも絵も見たことない描き方ね。これは人族かしら?」
「そうなのだ。とてもツルツルてしておる。」
ザルディンが「やれやれ」といった表情でレラが本を読むのを見守っていると突然、彼女は何かをひらめたよう魔王にあるページを開いて見せた。
「これって…冒険の物語じゃないですか?ほら!ここ。」
レラが指差した箇所。そこには人族と思われる若者が巨大な魔族に剣を突き刺している挿絵だった。
「つまりこれは我々が知らぬところで語り継がれている英雄譚というわけか。」
魔王は少し落胆した。もしやこれは特別な魔術書で魔王の心の隙間を埋めるものかとおもっていたからだ。
「残念だ。いや、本当に残念だ。」
魔王は椅子に深く座り、頭を下げ、組んだ手をおでこに当てた。
「魔王様…わかりやすく落ち込んでるね。」
「それはそうじゃ。帰ってきた時なんて凄くウキウキして「これは凄いものかもしれぬぞ!」って自分の立場とか忘れておったのじゃから。」
レラとザルディンは魔王に聞こえないようにヒソヒソと話し、周りの魔族や魔獣たちもオロオロするばかりであった。
するとザルディンはあることに気づいた。
(この挿絵の横に書かれているのは数字か?物語の挿絵にしては細かすぎる。…人族。)
ザルディンはしばらく黙々と思考を巡らせる。
そして一つの仮説を立てるのであった。
「魔王様…これは英雄のお話ではないのかもしれませぬぞ。」
その言葉に落ち込みきっていた魔王は少し顔を上げるのであった。




