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「ねえ、ザルディン。一つ聞いてもいいかしら?」
カシミラは丘の上から蹂躙される人間を見ながらザルディンに問う。すでに戦い始めてから1時間は経っただろうか。同盟軍はまさにゾンビが如く倒れても立ち上がり、アレスの号令と共に魔王へと攻撃を続ける。
対する魔王も本気とは言わないが、久しく戦っていなかったこととこの環境もあってかいつもよりものびのびと戦っているように思う。
そんな光景をカシミラ、ザルディン、オルは眺めている。
「なんですかな?カシミラ様。」
ザルディンが少し嬉しそうに戦場を見つめ答える。
「ずっと気になってたことなんだけど。なぜ勇者は人族なのかしら?ほかの種族の方が強いのに。現に今だって魔王様に蹂躙されてるわけだし。あっ…また千人くらい消し飛ばされたわ。」
爆音と爆風が収まってからザルディンはその問いに答える。
「ええ。この本の世界ももしかしたらわしらの世界と同じかもしれませんな。人族は弱い。エルフのように魔法がうまく使えるわけでもドワーフのように武器を作れるわけでもなく。また魔族のように強靭な身体も持たない。しかしですな…人族だけにしかないものがあるのですじゃ。」
「人族しか持たないもの?」
オルが質問を続ける。
「そうじゃ。人族だけなのじゃ。魔王に対抗する意思がある者は。エルフやドワーフは本来争うことを嫌う種族じゃ。しかし今回は我々が奴らの領域を侵しておるために仕方なく抵抗している面もある。つまり奴らは条件によっては従属する可能性もある。まあ、魔道具製作の協力は取り付けられはしないだろうがな。しかし人族は有史より他種族と争い常に支配する側になろうとした。それが例え魔王であろうと。倒し、いずれはこの世界の覇者になることを夢見る種族なのじゃよ。」
「愚かね。魔王様になんて敵うはずがないのに。例え死なない体を持っていたとしても人族が魔王様を倒すことなんてありえないわ。」
カシミラの冷たい言葉は事実であった。死なない体があっても心は疲弊する。そしていずれは心が折れ戦うことはできなくなる。それをカシミラは痛いほど知っている。
「ほほほっ。それは手厳しいですな。同じ人族としてお恥ずかしい限りですが、その通りですじゃ。しかし今回の目的は彼らの心を折ってほしいのですじゃ。今のままでは到底敵わないと。魔王様と直接戦うことでそれを理解してもらいたくての。」
「心を折ってもらう?それはどういうことでしょうかザルディン殿?」
オルが疑問に口にしたが、すでにザルディンの思惑通り、同盟軍の中から立ち上がるのをやめた者が現れ始めたのだった。




