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「ザルディンよ…それはまことか?」
魔王は真っ直ぐ老人の目を見つめる。事情を知らない者であればその視線だけで萎縮し震えが止まらないだろう。
それでもザルディンはしっかりと目を合わせ答える。
「魔王様。この本の世界を再現すると言ったのは私ですじゃ。ゆえに…問題があった時に責任を取るのもワシの務めであります。それに魔王軍においてエルフ達と話し合うのに適任はおらぬと存じ上げますのじゃ。」
二人のやりとりを聞いていたオルは納得する。
魔王軍陣営の種族と同盟軍陣営の種族は昔から反りが合わない。話し合うにしても場を設けることもできないだろう。
さらに厄介なのがもし魔法による変身をしたとしても人族は騙せても魔力操作の得意なエルフやドワーフには見破られる。そうなれば益々、彼らの協力を取り付けるのは困難になる。
「たしかに…我ら魔王軍において今回の作戦を熟知した上で頭の回るエルフと交渉ができるのはザルディン様を置いておりますまい。」
オルの後押しもあり魔王も深く頷く。しかしまだ快諾できない面もあった。
「ザルディンよ。お主にしかできない仕事であるというのは重々承知している。しかしな。お主しかいないということはお主しか行けぬ。ということだ。」
魔王の心配事。それはザルディンを敵の真っ只中に行かせなければならないということだ。
他の臣下、五皇臣やレラならば快く送り出したであろう。しかしザルディンは人族でありそれも老人である。交渉が決裂するだけならばいいが万が一てザルディンが捕らえられたり殺される危険性もある。
しかし護衛をつけようにも魔王軍の者がついていけば交渉どころではない。
「魔王様はお優しいですな。ハハハッ!こんな老いぼれのことを心配なされるな。それともわしが交渉を失敗されるとお思いかな?」
ザルディンは長い髭を撫でながら意地悪く笑った。
「そんなことはない。お主の知恵はこの世界で一番だとこの魔王が保証する。だが…やはり何が起きるかわからんからな。お主を失うのはあまりに惜しい。」
煮え切らない魔王にオルが一つ提案する。
「では…人を護衛につけるのはいかがでしょうか?説得は必要ですが、カシミラ様が管理している者の中から護衛をつけるというのは?」
「なるほど。エルフの交渉の前に人を我らが軍門に下らせるための説得。これがうまくいかなければエルフの元に行くことは辞めるとしますじゃ。魔王様、いかがでしょうかな?」
魔王は少し渋ったが、彼らの提案をのむことにし、三人はカシミラの住む黄泉の国へと向かった。




