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ところ変わって大海原の海底…
ゆらゆらと寝そべりながら漂う一つの小さな影があった。その周りに上半身は女性で下半身は魚の人魚やら頭は魚類でそれ以外は屈強な男の魚人、はたまた巨大なサメや小さな魚が慌ただしく動いている。
彼の名前はワダツミ。掴みどころのない少年のようであるが、この世界最古の王にして海の支配者である。
「西側の海の温度が上がっちゃってるからそっちに住んでる子達はもう少し南に移動させてあげてー。」
ワダツミは気の抜けた声で部下の報告に一つ一つ適切な指示を与えている。
「海王様。大陸の地形が変わったことと北海の方に島がいくつかできたことが要因で海上内に竜巻が起きております!」
サメの頭を持つ魚人がワダツミに新たな報告を上げる。すると彼は目をつむり何かを探るように首を何度か傾けた。
「りょうかい。りょうかいー。えっと?ああ…ここね。……うん。もう大丈夫だ。」
ワダツミは目を開け、大きなあくびをする。彼の任務は世界の地形を変えてしまうことで起きる異常気象を抑えたり、また海の生態系を守るという困難なもの。のはずであったが、ワダツミにとってはそれほどでもなかった。
先程の竜巻も彼がそれを補足し、魔法により消し飛ばしていた。また本来は本能に従う魚や海獣などもワダツミの命令とあらば何を置いても従う。彼は大海の王と呼ばれるにふさわしい存在である。
むしろ彼の部下が大海原に散らばり、それを王に知らせるほうが大忙しであった。
「それにしても魔王様は面白いことを考えるねー。良い暇つぶしになりそうだよ。」
海中から空を見上げ、月を見つめる。するとそれを遮るように船団が海王と月の間を航行していく。
「邪魔だなあ。…えい!」
海王が右手を船団に向かって軽く振る。すると海面から大きな波の刃が船を襲い、一つ、また一つと沈没する。
「そーれ!…えい!」
今度は人差し指を突き出し、沈没した船に向かってグルグルと徐々に速度を上げながら回す。それに合わせるように水中に渦が発生し、船の残骸を巻き込んで海底へと消え去った。
再び静寂が広がり、海王ワダツミは月を眺める。
「あっ…しまった。カシミラにまた怒られちゃうなぁ。まぁいっか!僕知らなーい。」
全く反省する気のない気分屋の王様は海中で仰向けに寝転がり、目を閉じる。この先の未来がかつて魔王とこの世界の覇権を争って戦った以上に面白いものになることを願いながら。
月明かりは海王を見守るように彼を空から照らした。




