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「あ〜あ。またやってしまったな…」
眼前に広がる荒野を見ながら、男は頭を掻きながら一人呟いた。
「これで何回目だろうか?」そんなことを考えながら、ほんの数秒前まで"自称"勇者と戦っていた荒野をゆっくりと歩き始めた。
この地域の名前は「バラオ山岳」…いや、今日から「バラオ荒野」にしてしまった魔王は世界に絶望しながら帰路につく。
「全力を…また出せなかった…」
それは魔王がこの世界に望む唯一の願いであり叶わない夢であった。
『唯一無二の魔王』
この名前を聞くだけで人類、エルフやドルイドといった人類種、オークや人狼種などの獣人、悪魔を中心とする魔人、そしてドラゴンやユニコーンら幻獣種まで、この世界における全ての知恵有る生物は恐怖し、崇め奉り、そして彼をそう呼ぶのであった。
「次の勇者と戦うときはもう装備外して戦うか?いや〜それだと万が一負けたときに格好つかないよなぁ。いやもう全力で戦えるなら別にいいんだけどなぁ…」
身長2mほどで魔族の中では小柄だが、黒を基調とした鎧に端正な顔立ち。そして背中には大きな漆黒の翼が生え、見るものを畏怖させるには十分な貫禄がある。
そんな威風堂々とした見た目とは裏腹に魔王は悩んでいた……
"どうすれば全力で戦うことができるのだろうと"
それは強者の驕りではなく、彼にとっては真剣な悩みであった。
居城まではここから飛んで帰れば五分とかからないだろう。しかしこの日は自分の悩みと向き合うべく、片道3時間はあろうかという道のりを歩いて帰ることにした。それがこの魔王の運命を変えることになるとはこの時は誰も知らなかった。
「今度は小指一本で戦ってみるか…いや、それは本気で戦っていると言えるのだろうか…?」
歩き続けて一時間。彼は森の中を悠々と歩く。本来この森には体長10mの毒蛇の王や非常に小柄ながら好戦的で残虐な性格のレッドゴブリンの住処があり地元住民からは【魔の森】と恐れられているのだが、今は彼らは体中の震えを抑え、息を潜め、魔王という脅威が通り過ぎるのを望むばかりであった。
“ガサッ”
魔王の行く手、その際の草むらから大きな耳が翼になったトビウサギが目の前に現れた。これに驚いたのは魔王…いや、驚いたというのは魔王の前に姿を表す生き物が城以外で見るのが久々だったからである。
「ほお…勇気あるウサギよ。我の前に…ん?」
「キュウ…」
わざと仰々しく名乗る魔王はそのウサギの足が傷ついていることに気づいた。魔王は顎に手を置き考えた後に一つの答えを出す。
「怪我をしているのか、ふむ…我の前に現れたその勇気を称え、その傷を癒してやろう。…まぁ、ウサギは幸運を運んでくれると言うしな。一つの願掛けだ。」
傷付き震えるウサギ、その震えが痛みから来るものなのか、はたまた魔王の漏れ出すオーラに押し潰されようとしているのかはわからないが魔王はそっと、できるだけそっと触れ、ほんの僅かばかりの魔力を流した。
「きゅ…きゅ…ぎゅうううう!!」
うさぎの傷は癒えたが、身体は膨れ上がり、白い毛皮を被った筋骨隆々の人型へと変貌。つまり…トビウサギはラビットマンと言う違う種族へと進化したのであった。
「おお!なんとか爆発しない程度に手加減はできたようだな!気をつけて仲間の元へ帰るのだぞ?」
魔王の言葉への返答として深くお辞儀をした後にラビットマンは大きな耳を羽ばたかせ、空へと舞い上がり、飛んでいく。それを見守る魔王は何故か晴れやかな気持ちになる。
「うむ。良いことをした後は気持ちがいいな。」
そんな魔王に向かって天からとてつもない速度で何かが魔王めがけて衝突するのだった。




