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異世界における武力衝突  作者: キロール
第二章、竜殺しの妖術師
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第9話「偽装」(改定)

 征四郎がバルアド大陸の南端でブラックドラゴンを屠った一連の出来事は、征四郎が傷を回復させイズンの街で療養している間に、ルーグ城砦にも伝えられた。

 暦は既に12月に入っており、城壁を取り払ったルーグ城砦の周囲を雪が白く染めている。

 嘗ては噴水が置かれていた広場には、城砦襲撃の際に亡くなった者達を弔う慰霊の碑が建てられ、厳かな心持にさせるが、勇者クレヴィの元には未だに多くの旅人が訪れる。

 直接尋ねる事はなくとも、勇者に祈りを捧げる者達は後を絶たない。

 一度芽生えた信仰のような物は、拭い去るのは難しい。

 既に文化と化している場合は尚更に。


 その旅の者達から齎された報告は、驚きをもって迎えられた。

 ただ一人、磯山(イソヤマ) 六郎(ロクロウ)のみが、どれ程の難事を成し遂げたのかが良く分らず、同僚のロデリックに問いかけたりしていた。

 そして、ブラックドラゴンの生態やその力を聞き及べば、呆けたように口を開けた後に、緩く首を左右に振った。


「大人しくしているって言ってなかったっけ?」


「そう聞いた気はするがな。だが、種族連合(ユニオン)では大変歓迎されているようだし、何かの作戦の一環かも知れないな。」


「種族連合(ユニオン)が一番味方に付けやすいって見通し語ってたもんな。それにしても、ドラゴン退治とはね。」


 ゲームの中では自分も良くやったが、本物相手にやる気は起きないなと、内心こっそりと考えながら感嘆したように呟く。


 そこに少年型自動人形(オートマータ)のラルスが通りかかった。

 普段は見た目同様の少年らしい快活さを持ち合わせた彼だが、少しばかり眉根を寄せて歩いているのが六郎には見えた。


「ラルス、如何した?君ン所のボスが大仕事を果たしたってのに浮かない顔だな。」


 軽く手を振って呼びかけると、ラルスは微笑を浮かべて頷きを返して、六郎とロデリックの側にやって来る。


「少佐なら、そう言う芸当はすると考えてましたから。当人の力量もそうですが、用いる兵装が優れてますからね。」


「あの黒い鎧な。……でも、正直あれを着ている時より、軍服姿のほうがおっかなく感じるけれど。」


 その言葉にラルスは僅かに驚いたように目を瞠って。


「あれ、六郎さんでもそうですか?あの鎧凄く強いんですけど、威圧感と言うか、雰囲気は軍服着ている時より柔らかく感じますよね。」


 と、同意された。

 窺うように六郎はロデリックを見やれば、ロデリックも頷きを返す。

 皆、同じように感じているのだ。

 六郎は思う、あのパーツを組み合わせて自分専用のロボを作って戦うゲームに出てきそうなロマン武器搭載の鎧よりも、軍服姿のほうが怖いというのも可笑しな話だと。

 事実、征四郎が鎧を纏っている時のほうが体は一回り大きくなったような印象を与える。

 金属の鎧を纏うのだから当然だが、その状態より軍服姿が怖いのだ。

 ローブ姿では、フードを目深に被っていてもそこまでの圧は無い


 それが何を意味しているのかと、考え始めた矢先に、ラルスが言葉を続けた。


「少佐の件は置いておきましょう、あの人は自身で問題を片付ける人ですし。それよりも問題はフラムスティード家の娘さん達です。」

 

「ああ、あのエルフの貴族様か。姉さんの方が昨日から来てるんだっけ?

 あの姉さんは会う度に謝ってきて、困ると言うか。」


 六郎のその言葉にラルスはロデリックと視線を交し合った。

 フラムスティード家の者が、六郎に謝罪するのは当然である。

 次女のセルマが六郎を召喚したのだから。


「ロクロウ、お前ちゃんと謝罪を受け入れたか?受け入れてないと、今後も会う度に謝罪されるぞ。」


 ロデリックは六郎の呑気な物言いに呆れた風に口を開く。

 彼は異界の人間であれば知らなくとも当然だが、この地に着てから8ヶ月目に入ろうというこの時期まで誰も教えなかったのかと、今更ながらに天を仰いで。


「大丈夫ですって言ったんだけどな。」


「貴方の謝罪を受け入れますって言わないと、シャーラン王国の貴族は許されたと思わない。貴族ってのは気位は高いが、その分に過ちには厳しい。其れが自身の物であってもだ。」


 そこまで告げてロデリックはその頑迷さは庶民には疲れるんだよとある種の親しみを込めて一言ぼやいて。


「明確に許しを得ないと許されたとは考えない。その事をもっと早くに伝えておくんだったな……。有名な話だから、誰かが言ってくれていると思ってたんだが。」


「マジかよ、それを早く言ってくれよ。」


「貴族同士だともっと面倒だが、受け入れる宣言をして置けばお前は大丈夫だろう。」


 六郎とロデリックの会話を聞いていたラルスは、不意に両手を叩いて。


「そうだ、ロクロウさんに会ってもらえば良いんだ!」


 と、明るく告げた。


 不意の言葉に、六郎とロデリックは何事かとラルスを見やると、ラルスが少し慌てたように説明を始めた。

 フラムスティード家の次女セルマは、未だにルーグ城砦に居る。

 冬となり寒さが厳しくなれば、衛士達が住む階層の個室に身柄を移されて。

 彼女は自身が起こした重大さに気づいたのだが、如何罪を償うのかが分らずにいるようだった。

 クレヴィはそれ故に、裁可をまだ下さずにいた。

 フラムスティード家の長女ガートルードは、妹の裁可が下るまでは自身の領地とルーグ城砦を半月毎に往復している。

 領主である病床の父に代わって領地を治める為であり、妹の裁可に自身の進退も賭けているからだ。


 その姉の方、ガートルードの様子がおかしいとラルスは語る。

 昨日、到着したガートルードはいつもの様に、セルマに面会したまでは良かったが、その会話の遣り取りがいつもと違う。

 普段のガートルードは、厳しい事を言いながらもその裏には愛情が込められている、そう言う言葉を妹に伝えていた。

 だが、昨日のガートルードは、単純に励ましの言葉を連ねただけである。

 それだけではなかった。

 クレヴィやレーギーナとの夕食会では、ブラックドラゴンを屠った征四郎の危険性を訴えていたらしい。

 今日とて、普段の彼女ならば、周囲の邪魔にならないように与えられた客間で本を読んだり、政務に関する書を書いてすごしているはずだが、今回の彼女は周囲を出歩いて、噂話に興じているのだという。

 姿形は、確かにガートルードであるが、普段の彼女との差に違和感を感じている、それがラルスの悩みの種であった。


「杞憂ならばそれで良いんです。別に深く関わる相手でもないので、僕等のボスについて何を言っていようとも無視するだけですから。ただ、ちょっと、今までの彼女とのギャップが……。クレヴィ様もレーギーナ様も何かおかしいと仰ってましたし。」


「シャーランの軍師だっけ?性格悪そうな男居たけど、あいつが何かやったかな?」


「クレヴィ殿と少佐が手を組んだら、三国は何処も困るだろうが…。いや、種族連合(ユニオン)は諸手を挙げて万歳しそうだが。まあ、その辺の上層部が離間の策でも用いたか?」


 六郎とロデリックはそれぞれ意見を口にした。

 そして、先ほどのラルスの言葉に納得したのである。

 ガートルードが入れ替わっているのならば、六郎に対する反応を見れば良い。

 いい加減謝罪を受け入れているはずと、大抵は考えるのでは無いかと。


 仮にガートルードが捕らえられ、現状を全て伝えている、或いは当人が馬脚を現しただけと仮定するとセルマに対する応対がまずおかしい事になる。

 故に、ガートルードが入れ替わってしまったのでは無いかとラルスは考えた。

 そうであれば、今城砦にいるガートルードが偽者で、六郎に対しても普段と違う反応を返す可能性は高いと。


 六郎とて、離間の策なんて用いられると色々と面倒なのは簡単に予測できるし、何より本物のガートルードが心配だ。

 視線が合えばすぐに謝罪して来た、プライド高そうなエルフの美しい顔立ちを思い浮かべれば、何とも言えぬ焦燥感を覚える。

 入れ替わりが杞憂であれば、彼女に抱いていた印象がただの幻想だったと分るだけ。

 それは少し物悲しいが、人の印象なんてそんなものだと内心嘯きながら、六郎は噂話に興じるガートルードの姿を探し出して側を横切った。


 ラルスとロデリックが遠目で見守る中、六郎に気づいたガートルードは足早に近づいて頭を軽く下げたようだった。

 その様子は謝罪している様にも見えて、杞憂だったかなとラルスが一息つきながら、その場を離れて六郎の報告を待った。

 暫くして六郎が眉間に皺を寄せながら戻ってきて、開口一番に告げた。


「おかしいわ、あいつ。フラムスティードの姉さんじゃない。」


「謝っているように見えましたけど?」


「いつも妹がお世話になっていますって。俺はあの姉さんにそんな事を言われたためしは無いぞ、今まで。」


 六郎ははっきりと口にした。


 それでも、まだ疑惑の段階でしかない。

 下手に動く訳にはと三人で頭を悩ませていると、女性型自動人形(オートマータ)のスクートゥムとミールウスが通りかかり。


「何だ、珍しい三人だな。何を悩んでいるんだ?」


 そう声を掛けてきた。

 ラルスが手早く疑念を伝えると、スクートゥムはそいつは問題だと困ったように眉尻を下げたが、ミールウスは、そんな事かと結い上げた茶色の髪を馬の尻尾のように揺らしながらケラケラと笑い。

 呆気にとられる4人に向かって、にまりと笑みを浮かべたままに告げた。


「ここで雁首そろえて悩んでないで、捕まえて確かめれば良いんだよ。レーギーナ様なら『嘘破り(ライブレイク)』」が使えるんだから。」


 それじゃ捕まえますかと一つ笑って、ミールウスは悠然とガートルードが居た場所に向かっていった。


 そして、その日の内にドゥクスを指揮官とした自動人形オートマータ20名からなる部隊が作られ、シャーラン王国国境付近の洞窟に強襲を掛けて、人質を解放する。

 やはり、ガートルードは入れ替わっていたのだ。

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