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異世界における武力衝突  作者: キロール
第二章、竜殺しの妖術師
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第3話「老人達の意地」(改定)

 老人二人の戦いは、三回戦目に突入していた。

 殴られても、蹴られても愚直に突進を繰り返すゾスモ。

 食らえば、ほぼ終わりと言う攻撃を避けながら、攻撃を重ねるバルトロメ。

 バルトロメが優勢なのは変わりがないが、お互いに老いている。

 バルトロメは荒い呼吸で息をして、当初よりは速さも鋭さの無い拳打をゾスモの顎に当たり頬肉を揺らす。

 ゾスモとて、顔を腫らし、痣を作り、荒い呼吸で肩を上下させていたが、それでも倒れない。


「そ、そんな生ぬるい一撃で……倒れるか、ジジイ……っ!」


「お前とて……ジジイだろうが……っ!」


 互いの罵倒も既に、息も絶え絶えだ。


 これでも、2回はインターバルをとっているのである。

 さて、これは双方の執念を賞賛するべきか、恐るべき使い手同士でも老いれば泥仕合にしかならないと言うべきか。

 どちらであるにせよ、日も大分傾いて来た。

 そろそろ止めねばなるまいが、征四郎は動こうとはしない。

 それ所か、他の者が止めようとすれば、それを咎めて情勢をただ見守っていた。


「いい加減、飽きてはこんのか?」


「感心こそすれ飽きる筈もない。が、ご老体には観戦自体もきつくなって参りましたか?」


 いつの間にか側にやってきていたバルトロメよりも小柄で、背も曲がり杖をついている老コボルトの言葉に、征四郎は慇懃に返答した。

 背後の二人から刺す様な視線を受けるも、気にする征四郎では無い。


「ゾスモ、あの老いたオークは自身の弁明もせずに戦いを選び、バルトロメもそれに応えた。二人が戦いを終えるまで、待つのが筋。違いますかな、ええと…。」


「レミヒオだ、お若いの。見かけ通りの年齢では無いらしいが。それとも、少佐と呼ぶべきか?」


「色々とご存知なご様子。聞きたい事が無いでもないですが、今は決着を待ちましょう。」


 頑なに決着を待つ様子を、妙な物でも見るかのように見上げて、レミヒオは一つ息を吐き出した。

 呆れているのだろう事は征四郎にも感じ取れるが、征四郎は待っていたいのだ。

 例え泥仕合であろうとも、己の意地と意地をぶつける二人の老人の戦いの果てを。

 征四郎には、この老いた二人が羨ましくすら感じていた。

 

 そして、征四郎の感傷など無視して、二人の老人の戦いに漸く決着が付く。

 最早、技を出せるような状況に無いバルトロメは、殴ると見せかけてゾスモの鼻面に頭突きをかました。

 ぐらりと、ゾスモの大柄な体が揺れ動くも、ゾスモはたたらを踏んで持ち堪えた。

 そして、拳を握り締めてバルトロメを殴ろうと一歩踏み出して、そのまま倒れこんだ。

 どう、と言う音が周囲に響き、消えていった。

 決着となった瞬間、気が抜けたのかバルトロメも膝から崩れ落ちて、両手を地に着けて荒い呼吸を繰り返す。


「介抱してやれ。」


 その段に至り、漸く征四郎はサンスにそう告げた。

 サンスがバルトロメの方へと向かうのを見届けてから、うつ伏せに倒れたゾスモの脈をはかり。


「さすがオークだ、しぶとい。」


 そう一つ笑ってその身を担ぎ上げた。

 そして、レミヒオやその護衛たちに視線を向けて。


「待ち構えていたんだ、何かお話でも?」


 と、可笑しげに笑いながら問うた。

 その様子に、レミヒオは深く嘆息し、邸内に入るように促した。


 ゾスモは寝台に寝かされ、バルトロメは長椅子に座らされ、それぞれ体力の回復に努めている。

 一方、征四郎等とレミヒオ等は応接間を勝手に借りて、話し合いを始めていた。

 ゾスモの狙いは何であったのか、レミヒオ達は何者なのか、そしてこの大陸で今何が起きているのか、を。


 ゾスモがバルトロメとクラーラやサンスを引き合わせなかった理由は、簡単と言えば簡単であった。

 引き合わせれば、仇について言及せねばならず、その仇は尋常では無いので、必ず死に至るだろうと考えた為だ。

 バルトロメやサンス等を掴まえて、死ぬから止めろなどと言った所で逆効果なのは目に見えていた。

 いつか引き合わせねばと思いつつ、仇について言及し、友を失う結果になることも恐れて、中々言い出せなかったらしい。

 ゾスモは見かけよりはずっと繊細なようだ。


 レミヒオは、裏社会の情報通である。

 嘗ては盗賊ギルドを牛耳っていた事もあると言う。

 当人がそう語るだけで、何の確証もないが征四郎は信じることにした。

 騙るにしても危険が多いだけの肩書きに思えたからだ。


 何故、ゾスモとレミヒオが征四郎等を待ち構えていたのか。

 どの辺りで情報が漏れたかと訝しむ征四郎にレミヒオは軽く笑い。


「バルトロメとそこの小僧、サンスとか言ったか。その二人が出会った事は報告されている。そのサンスから連絡があれば、如何にゾスモでも気付かぬはずは無い。」


 なるほど、如何に謀ろうとも前提条件が分っていれば騙される筈もない。

 あれほど多くの者に見られていたのだから、その辺りを謀るのは無理があったかと、今度は征四郎が嘆息する番となった。


「あんた等の事を話す輩は多かった。おかげで情報は嫌でも集まった。……そこで、一つあんた等に賭けて見ようと思った。」


 レミヒオが征四郎を見やり、それからその部下達を順々に見やって告げる。

 そして、語りだした内容は征四郎が地底世界の住人達から聞いていた噂の補強であった。


 この大陸には、恐るべき犯罪組織がある。

 勿論、レミヒオの所属していた盗賊ギルドも、裏社会に属する物であるし、それを否定する気は無いとレミヒオは言った。

 だが、盗賊ギルドに加盟するような盗賊は、ある種の職人であると彼は力説する。

 盗む相手を殺し、全てを奪うような真似だけはしないしさせないのだと、老いたコボルトは長い眉毛を揺らして、杖で床を激しく叩き憤りを露にした。

 それは、彼がギルドとは別物であると断じている犯罪組織は、殺して全てを奪う輩であると告げているようなものだ。

 利益になれば何をしても良いという考えは、確かに唾棄すべきものであると征四郎も思う。


 さて、件の犯罪組織が何時頃から生まれたのかは定かでは無い。

 気づいた時には、ギルギ帝国を根城にして活動をしていたようである。

 帝国の敵たるシャーラン王国や種族連合ユニオンで悪事を働く、ある種の対外組織と当初は考えられていた。

 だが、彼等の悪意は根城にしている帝国にすら及び、蝕んでいるのだとレミヒオは語る。


 犯罪組織の所業とは如何なるものか。

 人身売買や殺しの請負からカジノの運営と裏社会に属するものを全て一手に引き受けている感がある。

 そして、帝国のみならず王国や連合においても彼等と取引をしている上層部が少なからずいるらしい。

 そこまで話を聞けば、凡その見当がついてきた。


「コウベクの一族を襲ったのが、その犯罪組織であると?」


「そうだ。」


 レミヒオの言葉に、サンスは奥歯を噛み締め、クラーラはただ瞳を閉じた。

 そして、征四郎が不思議に思ったのは、ヴァーツラフやイルメリの表情だ。

 彼等は、当事者であるかのように犯罪組織の話題に怒りを覚えているかのようだった。


「なるほど、確かに無謀に挑めば死ぬのは避けられんな。」


 サンスや長椅子に座るバルトロメを見やってから、征四郎はそう判断した。


 これが、復讐以外に興味が無く、誰が死のうと関係がないという域まで達した復讐者であるならば、可能性はゼロでもなかっただろう。

 だが、クラーラを始めとして、サンスもバルトロメも情を捨てる事など出来ない事は明白。

 それが仇となり、組織にダメージを然程与える前に消されるだろう。


「その手の連中を倒すには、一気呵成に攻め込むしかないが。」


「各国の軍でもなければ対応は出来まいよ。ただ、上層部に取引相手がいる組織には情報は筒抜けだ。」


「そこで我々に潰して欲しいと?」


「そう言うことだ。奴等は遣り過ぎた、報いを受けねばならん。」


 レミヒオの言葉には、やはり深い憤りがある。

 当初は盗賊の矜持からくる義憤であるかと思っていたが、征四郎は語り合ううちに気付いたのだ、義憤等より尚昏い怒りがそこにあると。

 復讐、この老人もまた復讐者であるのだろう。

 だが、すべてを捨て去れない復讐者だ。


「……家族は堅気だったのか?」


「息子はただの革職人の道を選んだ。職人技だと言った所で、盗賊など人様の糧を盗むだけだと言ってな。わしゃぁ、縁を切られた所で、仕方が無い親父だ。……他人となった息子は、縁を切った親父の所為で死んだ。家族諸共な。」


 征四郎はその言葉に、一度だけ双眸を閉じた。

 そして、見開けば周囲の表情を一瞥して。

 最後にレミヒオへと視線を向けたまま、静かに問うた。


「お前達は何を代価として払う?」

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