第4話「取り込み」(改定)
結局、征四郎等は今はゾスモの館に逗留している。
征四郎はギルギ帝国に巣食う犯罪組織を潰す事に加担を決めたからだ。
犯罪組織とどう戦うのか、現状種族連合内に味方はどの程度居るのかを確かめるには、この場所は都合が良い。
征四郎が態々、犯罪組織壊滅に乗り出したのには、今後の為に種族連合の裏社会ともコネクションを作りたいと言うのもあるが、犯罪組織の金銭を巻き上げ今後の活動資金にしたいという思惑もあった。
悪党相手からならば、何の憂いも無く金を徴収する事が出来る。
何より、子供を捕らえ売り捌く非道な行いをしていると聞けば、征四郎としては尚更に潰しておきたい。
態々その思いを言葉にすることはなったが、征四郎は己の胸中で誓った。
その様な輩は必ず滅ぼさねばならないと。
誰に対する約束でもなかったが、約定は守らねばならない。
しかし、征四郎には疑問も残っていた。
何故レミヒオは征四郎に白羽の矢を立てたのか。
例えば、勇者を巻き込む方が一気にことは進んだのでは無いか?
そう問いかけてみると、レミヒオは口元を歪めて告げたのだ。
「300年前に異大陸よりわたってきた移民のコミュニティを探り当て、幾つかの情報を流したと聞く。その中に一つだけ嘘を混ぜ込んで。つまり、あんたは移民の中に外の大陸のスパイが居ると考えた。そんなことを考え、尚且つ戦場で戦う奴は稀じゃて。」
どうもその辺りが、要請の基準らしい。
なるほど、彼は裏社会と繋がりがあり、ゾスモとも繋がりがある。
であれば、ルーグ城砦で勇者復活を望む組織が放っていたスパイの元締めと言うことかと、一つ頷く。
ジャスパーを裏切ったスパイ達に、戦後処理の合間に300年前に渡って来た移民達の存在の有無を調べさせ、そのコミュニティに情報を流させたことも筒抜けだったかと苦笑いを浮かべて、了解したと征四郎は頷いて見せるしかなかった
独自の情報員が欲しい所だと内心嘆息しつつも、漏れた相手がレミヒオで良かったのかも知れぬとも安堵もしていた。
さて、犯罪組織と戦うにしても相手の事を知らねば戦えない。
だが、犯罪組織についてわかっている事は少ないのが現実だ。
拠点はギルギ帝国だと推測されていること、大陸内の組織として有数の力を有していること。
その魔の手は、各国の上層部にまで食い込んでいるらしいと推測されること。
何とも雲を掴む様な、ふわっとした噂レベルの話ばかりだが、敵組織の在り方を思えばそれも致し方ない。
それに、はっきりとした話が分っているならば、これほど潰すに容易い相手は居ないのである。
彼等は、法に反し、国益に反し、倫理にも反している。
人心を煽る必要も無く、人々は犯罪組織の撲滅を訴えるだろう。
だから、これほど叩き易い敵はそうは居ない。
故に連中は、ひっそりと隠密裏に活動するのだ。
例え個々が伝説的な力を持っていようと、神と呼ばれるような大災害を引き起こせる存在でもなければ数には圧倒される。
ましてや、社会の闇に潜み勢力を拡大するような組織は、隠れていなければ意味が無い。
だから、部外者が集める彼等に関する情報には確固たる物は無く、憶測と噂と言う不透明なものにならざる得ないのだ。
そして、示威の為に公表しているのか、犯罪組織の名前だけは分っていた。
その名を手掛かりに、情報を集めていくより他には道がない。
犯罪組織の名前は古い言葉で家族を表す『ファミリー』。
それこそが征四郎が標的の一つにと定めていた組織の名前でもある。
何をするにも情報が物を言うのは当然の事だ。
だが、主敵を定め、その敵について情報を集めようにも、集められないと言う敵もいると言う事を、征四郎はまざまざと実感していた。
レミヒオの裏社会網を使っても、『ファミリー』については征四郎が知る以上の事はつかめない。
いや、より具体的な手口や陰惨な復讐方法などは分るのだが、肝心の構成員や行動目的、めぼしい拠点情報などは何も分らない。
各国の上層部にも食い込んでいるのならば少なからず痕跡が残る筈だが、奴等は全くその跡を残さない。
これでは、作戦など立てようはない。
完全に手詰まりと言う碌でもない状況に陥ってしまった。
そして、ゾスモの館に逗留して、5日が過ぎた。
主だった親展は特に無い。
精々、ゾスモよりも先にバルトロメが回復し、自身の方が若いと豪語していたくらいにしか、情勢は動いていない。
『ファミリー』に関する情報は全く無く、無為に時間を費やしていく。
そもそも、短期間で情報が集まるような相手であれば、既に滅んでいるだろう。
そう気持ちを切り替えて、長期戦になる事を覚悟した征四郎は、仕方なく種族連合に散ばった部下達の動向を調べさせていた。
万が一の時は動いてもらう必要があるからだ。
彼等の現状は、概ね予想の範囲内ではあったが、一部は征四郎の思惑を超えた展開を見せていることをここで初めて知った。
種族連合に散ばった部下達。
コボルトのキケは、軍属にはならず種族連合内を旅している。
無論、これは内偵を兼ねているのだが、好奇心旺盛な当人は楽しげに行っているようだ。
ドワーフのオーレクは、元々兵士であったことから原隊に復帰している。
元々ドワーフの戦士であったオーレクは、更に研鑽を積んだという事で部隊内では厚遇を受けているらしいことも伝わっていた。
ゴブリンのマウロは、少し問題が生じていた。
軽装歩兵部隊の新兵訓練に参加したが、軽々とクリアしたのは良いが、如何にも言動の所為で生意気な小僧と思われているようだ。
マウロの場合は凡そ見当は付いていたが、それよりも尚問題なのはオークのアゾンである。
彼は勇士アギムの弟であり、今まで臆病だと軽蔑されていたにも拘らず、ルーグ城砦での戦いでも活躍して見せた。
その所為で、一躍勇士の仲間入りを果たしてしまったのだ。
己の怯懦を乗り越えて、兄の代わりに立派に勤めを果たしたという訳だ。
アゾンの村では、村長からその地方の代官までが彼を迎え、褒め称えたのだという。
流石に、株を上げ過ぎだろうと思うのだが、アゾンの住む地方は強さに対する信仰とでも言うべきものが最も強く、またアゾンの兄が所属していた戦士団は恐るべきブラックドラゴンを退けて街を守った英雄達である。
この扱いも致し方ないのかもしれない。
そして、そのアゾンが新たに結成される重戦士の一団を任されるという話が出ている、と言うのだ。
流石に征四郎もこれには驚き、目を瞠ってしまった。
が、驚いてばかりではなく、戦力を種族連合から貰い受けるチャンスでもあるとほくそ笑みもした。
犯罪組織『ファミリー』との抗争には、純粋な力も必要だ。
誰が見ても、力だと認識できる純粋な力が。
それには、大柄な身体のオークの重戦士の一団はうってつけだ。
幸先が良いかと一瞬浮かれた征四郎だが、幾つかの可能性に思い至り、不意に真顔になった。
幾ら考えてもアゾンの出世が何を意味するのか思案が纏まらず、頭を掻いて息を吐き出す。
が、今は近くに種族連合の政争に詳しい男が側に居ると思い出した。
そして、オークの頑強さからか、特別に回復力が強いのか、既に動き回っていたゾスモを掴まえ、問いかけることにした。
現時点でアゾンが重戦士団を任される可能性は如何程あるのか。
それを推し進めるメリットを評議会ではどう感じているのかを知る為に。
単なる英雄に対する信仰とばかりも言えないと、征四郎は読んでいた。
この大抜擢が意味するところは何か、慎重に見定めなくてはならない。
戦力が増えると素直に喜んでいられる立場では、征四郎は無いのだと言うことをまざまざと示されたようで、内心辟易しながら。
ゾスモの答えは簡単明瞭であった。
何かしらの駆け引きの道具であるとしか思えない、と言うものだ。
評議会も幾つかのグループに分かれている。
主戦派、非戦派といった分りやすいものから、種族の地位向上を目指すものや、特定のコミュニティの強化に力を注ぐものなどと言う小さなものまで多数にある。
その中の一つが、何かを得る為にアゾンと言う新しい勇士を餌にしたのだろうと。
それが、重戦士団を強化したい一派の行いなのか、或いは無理難題を吹っかけ、何かしらの譲歩を引き出したいのか。
その話を聞けば、征四郎は肩を竦めながらも思考を続ける。
征四郎には後者の、つまり何かしらの譲歩を引き出す駆け引きのように思える。
如何にアゾンがルーグ城砦で活躍したとは言え、いきなり指揮官とするのは早計だ。
だが、ゾスモによれば、あながち拙い判断でもないらしい。
重戦士たちは一人の名高い勇士に率いられた時に、初めて大きな戦果を上げられるというのだ。
まるで、古代の戦士達のような戦い方に征四郎は呆れるのと同時に、憧憬にも似た感情を覚えた。
そして、自分は所詮は兵士かとしみじみと思うのである。
戦の高揚を感じはするが、それに飲まれずに対応を続ける己は戦士では在るまいと。
ともあれ、『ファミリー』については何も分らないのだから、此方の戦力を整える必要がある。
上手くことを進めれば、資金は種族連合持ちで戦力の増強を図れるかもしれない。
情報戦を行うにも信頼できる手駒が少ない征四郎は、ここで無為に時間を潰さずに戦力の増強にまずは方向性を定めて動くことにした。
その判断が征四郎を思いがけない立場へと導くとは気付かずに。




