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異世界における武力衝突  作者: キロール
第一章、ルーグ城砦の攻防
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第27話「決戦」(改定)

 クレヴィが向かう、その先には居るのは今回の騒乱の元凶であるジャスパー・ブラウニング。

 アルマが投降を呼びかけ、それに応じるようにブラウニング領に残されていた駐屯軍が同胞の説得を行っている。

 人質は既に無く、戦いを強要されなくなた三千未満の兵士達は、ある者は早々に投降し、ある者はただ立ち竦んでいた。

 そして、元より悪事に喜んで加担していた者達は、生き残る為に足掻き始めたのである。

 ジャスパーに巣食う者は、最早兵を指揮する気は無かった、クレヴィさえ殺せれば彼等は満足なのだ。

 それに、二日前に鐘が破壊された事に気づいていたので遅かれ早かれこうなる事は分かっていた。

 その前に、クレヴィが姿を現してくれた事は僥倖以外の何者でもない。


 ラスムファ、そしてホフアト、狂王と人形遣いの亡霊は思い出す、己を呼び出した死霊術師を。

 名をイライジャ・キングスレイ、魔法名をインフラマラエ。

 ルベール・ドラコが率いた(そして、今も率いる)結社のテルハ支部長《ロッジマスター》にして、レオナルトこと魔法名アウァールスの師。

 彼の言葉を思い出す。


『白の導き手グレイウォールが用いた魔術は眠りの魔術ではなく、高度な防護の魔術である。何故なら人間が眠りについたまま衰弱死せずに、300年も生きている筈がないからだ。』


 ……その言葉の意味は簡潔だ、加齢からも肉体の損傷からも勇者は守られている事を示した。

 それはつまり魔術的な眠りについている間は、誰も害する事が出来ないと言うことになる。

 勇者を殺すには、眠りから醒めた状態でなくてはならず、眠りから醒めた直後が最も容易いだろうとも言い添えていた。

 最も容易いという時は逃してしまったが、勇者は永遠の防護より目覚めた。

 そして、今から打ち倒すのがこの亡霊と言うわけだ。

 徐々に近づく勇者を見据えながら、ジャスパーの肉体で彼等は薄く笑みを浮かべた。

 万が一、彼らが破れたとてインフラマラエがその名の通り彼等の魂を燃やして勇者を道連れにする手筈である。

 必ず勇者に死を与えんとする強固な怨念を視界に映る一人の男に叩き付けていた。


 だが、ここは戦場である。

 如何に自軍の兵が役に立たなくなったからと言って、相手もそうだという訳ではない。

 たった一人に固執するなど人形遣いならばともかく、嘗ての狂王ならばしなかっただろう。

 狂王と呼ばれては居たが、戦の才能は当時のどの諸将よりもあった男だったのだから。

 これも過去形で告げねばなら無い事こそが、或いは勇者クレヴィにとって最も僥倖な一因かも知れない。



 さて、アルマやアルデア、ラルスと言った自動人形《オートマータ》達が戦場に入ったのは、残されていた駐屯軍を伴っての事。

 では、その指揮官である征四郎や志願兵達は何をしているのかと言えば、アルマ達と同時に戦場にもぐりこんでいた。

 本来ならば少数である征四郎等が先に城砦に潜りこむなりすべきだったのだが、デーサイル王国の生き残りの呪印の解除をとある理由で優先した為、征四郎の魔力は失われ、回復するのに時間が掛かり戦地に戻るのが大幅に遅れた。

 そして、城砦包囲戦に戻ってみれば攻性魔術による城壁への攻撃が行われていた所だった。

 四方からの魔術攻撃に城壁は何れは崩壊すると判断すれば、征四郎は志願兵達や、傭兵やデーサイル王国の生き残りを含めた戦闘集団に魔術師への強襲を命じた。

 勿論、迅速さを旨とし全員で事に当たらなければ、百以下と見積もられるが魔術師に勝てるはずも無い。

 その為、征四郎はまずは四方の一角を崩す為、志願兵や傭兵達に南の魔術師達へ攻撃するように命じた。


「真正面から魔術師の火力と戦うなど馬鹿のやる事だ、極力気づかれぬように近づき接近戦を仕掛けろ。諸君の仕事の成否で城砦内部の民間人の命が失われると心せよ。」


 そうはっぱを掛けて送り出した。

 デーサイル王国の生き残り達は、征四郎に恩を感じて今回限りの約束で手を貸してくれることになった。

 傭兵達も志願者のみを募って、今回だけの約束で手を借りた。

 元は敵であるが元戦奴達はかなりの手練であるし、傭兵達とてサンスを始め独立して戦ってきた集団である。

 純粋に戦力が増えたが、命令系統に齟齬を生じかねないと判断し、志願兵達、デーサイルの生き残り組み、傭兵達と単純に分けて各自で決めたリーダーにより如何戦うかは委ねられた。

 征四郎自身は指揮を執らないのかと言えば、ある要請を受けて相方とでも言うべきロズの元へと急いだ。


 征四郎自身は指揮を執り魔術師に対する強襲を成功させたかったが、ロズワグン=ナグより至急合流せよと伝達があった。

 死霊や精霊を用いた伝達は、一定以上の力量の魔術師や死霊術師、妖術師の嗜みであり、彼等が戦場でも重用される理由の一端だ。

 情報伝達の早さが、居ると居ないとでは雲泥の差である。

 何用かと問うたが、機密であり一人で来いと言う返事が返って来るばかり。

 魔術師攻撃に参加する事の確約を受けて、征四郎はロズの元に向かう事を決めたのだ。


 その様な理由から、止むを得ず征四郎はロズの指定した場所へと赴いた。

 それは包囲された城砦より少し距離が離れた岩場であった。

 焦りにも似た感情を抱えながらその場に赴いた征四郎を待っていたのは、何やら厳しげな封を施された長細い箱を持つロズの姿だった。


「…すまんな、征四郎。

 これは秘中の秘、それ故にこの場を選んだ。」


「一体如何した?」


 言葉を投げかけるロズも、征四郎も生きて再会した事に関する感想は互いに無い。

 ある種、事務的な言葉の応酬が続く。


「これを貴公に託す。

 『カテナ』を纏え。

 これは専用装備だ。」


「そんな物が在ったとは初耳だが。」


 交わされる短い言葉。

 征四郎は言われるがままに旧文明の魔術兵装カテナを纏えば、頭部を除く全身を艶のない深淵を思わせる黒い鎧に包まれた。

 ロズは小声で何かを呟くと、箱を封していた鎖が僅かに発光して解けて地に落ちて、ジャラジャラと硬質な音を鳴らした。

 箱から取り出されたソレをなんと呼ぶのか征四郎には分らなかった。

 一言で言うなれば、金属製の杭。

 それを打ち出す為の射出機構と椀部に装着する為の金具と言った形だ。

 非常に無骨な代物であり、その形状から腕に装着する武器であろうとは推定できた。

 だが、剣や槍、或いは射撃武器ではなく杭である事に征四郎には意味を見出せなかった。

 これが秘中の秘?


「それは…?」


「取り合えず、利き腕を差し出したまえよ、貴公。」


 疑問は素直に訝しげな声として反映されてしまう。

 だが、ロズは構わずに腕を差し出すように命じ、征四郎が素直に従えば右腕にその武器を装着した。

 ずっしりとした重さを感じるが、見掛けほどは重くは無いようだ。

 良く見れば、金属製の杭の部分に古びた文字が刻まれている。

 これもまた、魔術武器と言うことか。


「正式名称は不明だが、俗称はドラゴンバスター。

 見ての通り魔力を充填させた金属の杭を魔力を用いた爆発力で対象にぶち当てる近接武器だ。

 …射撃武器にはならないがその一撃だけで竜の鱗を破り肉を貫く、それだけでも相応の威力だが…。

 こいつは更にその状態で杭自体に充填させた魔力を一気に解放する、内部より一層激しい魔力爆発を引き起こして破壊する事を目的としている。

 …使い難いが威力はぴか一だ。」


 そこまで一気に告げてから、ロズは一息つくように息を吐き出す。

 それが、征四郎には何処か無理をしているようにも見えた。


「杭の長さは1Mは無いか。

 威力は折り紙つきと言う事らしいが…

 こいつには、他にどんなデメリットがある?」


「…素手が届く範囲まで近づかねば意味がないことと、再装填自身は自動で行うが再び魔力が充填しないと使え無いことか。

 そうさな…、それと余の姉妹と会わねばならん事位か。」


 ロズの口調は重々しいものであったが、その言葉はまるで似つかわしくない内容に思えた。

 そして、征四郎はロズに姉妹が居たことに驚きながら、一つの結論に達した。


「そうか…私も腹を括る時が来たか。

 君にはこの地に誘われて以降、大変世話になっている。

 ロズワグン=ナグ、君がその心算でいるのならば喜んでその話を…」


「ま、待て!

 何の話をしている!?

 余と姉妹が共通で管理している武装ゆえ、後に形式的に会って欲しいだけだ!」


「………ああ。」


 非常に大きな勘違いをしてしまったかと、征四郎は気恥ずかしげに頭をかいた。

 指先も金属鎧で覆われているので少しばかり痛かったが、それ所ではなかった。

 一方のロズは、翡翠色の蛇眼を驚きで見開いていたが、不意に俯いて何やら小声でぶつぶつと言い出す。

 互いに気まずさを感じ、暫し沈黙していたが不意に征四郎は踵を返した。


「不快な思いをさせたらすまなかった。

 だが、そう言う勘違いをする程度には君を気に入っている…。

 まあ、この話は、戦が終わったら…な。」


「何やらフラッグとやらが立ちそうな物言いだな。

 安心せよ、余も貴公を愛しているぞ、征四郎。

 …戦が終わったら、そんな話に興じよう。

 では、手筈どおり北の魔術師達は余が始末する。」


 去ろうとする征四郎の背にロズはそんな言葉を投げかけて、彼女もまた動き出す。

 さしもの二人も知人やらが戦をしている最中に愛を語り合うほどズレては居なかった。

 その言葉に一つ笑えば、征四郎は動き出す。

 脚部装甲の推進機構から魔力光を放ち、深淵色の鎧を纏った男が大地を滑る。

 向かう先は魔術師達が陣取る西方、最も数が多く観測されたその場所へ単身乗り込んでいった。



 南の陣にたどり着いた志願兵や傭兵達、それにデーサイル王国の生き残り達は、あくまで隠密裏に動いた。

 攻性魔術を練り上げて、タイミングを合わせて放った瞬間に一斉に攻撃を行った。

 もし、彼等が操られていなければこの襲撃の結果は変わっていたかもしれないが、人形遣いの命令が自身の命よりも城壁破壊を優先させていた為、殆ど反撃無く殲滅されてしまった。

 この状況は、ある意味無抵抗な魔術師を殺さねばならないと言うストレスを、志願兵たちに与える結果になった。


「こんなのが、正しいことなのか?」


 歳若いゴブリンのマウロが小さく口にすると、取り回しの効く手斧から戦斧に持ち替えたドワーフのオーレクが叱咤した。


「当たり前だ!こいつ等を殺らなきゃ、お前の婆さんも弟も危ないんだ!

 何で逃げないのか、抵抗しないのかは知らんが、やるべき仕事をやらんで如何する!」


 そう口にするオーレクとて、こんな事は楽しいことでは無い。

 汚れ仕事と呼んでも差し支えは無い不名誉な仕事だが、それでも遣り通さねば弱い者が死ぬのだ。

 その点、志願兵以外は既に割りきった考えを持っていた。

 サンス等傭兵にしても、テクラやシーグリッド等デーサイル王国の生き残りにしても楽に片付き、己等が生き残れたことの方が十分に重要だった。


「…連中の若さ、と言うか、経験の無さがここで出てきたな。」


 マウロとオーレクの遣り取りを聞いてしまった傭兵のリーダー格であるサンスは一抹の不安を覚えた。

 能力は折り紙つきだが、その精神はまだまだ精鋭には程遠い。

 いや、強敵相手であれば話は別なのだろうがと息を吐き出すも、それを如何にか出来るのは彼等自身だ。


「次に行こうぜ。」


 一つ息を吐き出して、デーサイルの生き残り達や志願兵達にサンスは声を掛けた。

 そう、もう一つ東方面の魔術師達を狩らねばならない。

 サンスの言葉にそれぞれが頷き行動を開始した。


 抵抗の無さから精神的に揺らいでいる志願兵達が北の魔術師達を見たらなんと言っただろうか。

 そして、彼等の命を刈り取っていく死霊術師を見たら。

 ロズワグン=ナグは浮かれていた。

 目深に被ったフードの奥から垣間見れる口元には笑みが浮かび、時折見えるその蛇眼は愉悦に歪んでいた。

 楽しげに揺れ動く尻尾が、乾いた大地を軽く叩くたびに、魔術詠唱を続ける魔術師達の首が飛んでいく。

 彼女の喜びを祝福する花火のようだと、浮かれた死霊術師は思う。


 そして、その生首と言う花火を打ち上げているのは一体の死の騎士。

 小型の竜を無理やり二足歩行させて甲冑を着せた様な独特なフォルムは、地底世界に住まう神の眷属。

 恐るべき死の竜騎士と魔術書『眠れる神』に記されたグ=ガである。

 ロズワグン=ナグは必勝を期すために、己のもつ手札の中から最強格を呼び出したのだ。

 グ=ガ、死した竜騎士、滅びを運ぶ者、死の尖兵、破壊者などの異名を持つこの存在は、ロズに絶対の忠誠を誓っている。

 正確には、ナグ家の三姉妹にである。

 何故なら、彼女等こそが主の正当な血族であるからだ。

 故にグ=ガはその剣を振るう。

 ましてや、死の先触れ、死兵を束ねる者、原初の混沌を食らうもの、妖術師…そう囁かれている彼が伴侶となるというのであれば、実に目出度いとグ=ガは喜んで死を振りまいた。

 気づいて見れば、物の数分で魔術師達…操られて自我を失った哀れな連中は、哀れなまま死に絶えた。

 その光景をロズは夢見心地で、グ=ガは祝福の念を捧げながら眺めていた。


 北の惨劇の…と言ってもグ=ガにさっくり殺されるか、骸骨兵にじっくり殺されるかの違いしかなかったが、その惨劇の遠因となった男は西の陣へと真っ直ぐに向かっていた。

 真正面から突っ込んでいくその姿は、男自身が馬鹿と称した行いをしているようにしか見えなかった。

 だが、命令した兵士達と自分では意味合いが違う事を彼は知っている。

 この魔術兵装の機動力を用いれば、魔術師達の攻撃をかわせると踏んでの行いだった。

 姿を見せることで攻撃を誘発して、城壁への攻撃を停止させようとした試みは失敗した。

 大地を滑空し、砂埃を巻き上げながら左右に揺れ動き接近する征四郎の姿を見つけても、魔術師達は城壁への攻撃を止めなかった。


「異様だな。」


 自身の事は棚に上げて、征四郎は呟けば先程通った戦場で投げ出されていたのを拾い上げていた槍を構えた。

 そして、槍を振るいながら魔術師達の陣に飛び込んだのである。


 ケンタウロスの突撃速度に勝るとも劣らない速度で、一層小回りが利く征四郎が長物を持って駆け巡れば、やはり彼等の命は風前の灯だ。

 蝋燭でも吹き消すかのごとく、120の命が掻き消えていく。

 征四郎はそれに喜びを見出すことは無いが、それに引け目を感じることも無い。

 この魔術師達の様子から、一人でも残しておけば城壁を攻撃し続ける事は目に見えているし、万が一防護の術が解かれていた場合、民間人が犠牲になると分っているからだ。

 より弱き者の為に弱きを駆逐する、それは矛盾だが立場が違えばそうなるのは致し方ない。

 せめて、今少し正気だったらやりようもあったがと顔に掛かった返り血を頭を振って吹き飛ばして、征四郎は死者の数を増やしていった。


 程なくして、城壁に加えられていた攻性魔術による攻撃は止んだ。

 そうなれば、レーギーナを始めとした自動人形《オートマータ》や戦える者達は防衛に集中できた。

 クレヴィがジャスパーと戦っている最中、ジャスパーの喜んで仕えていた連中が破れかぶれに攻めてきたのだ。

 何とか勇者の手助けをとレーギーナが算段していると、大きな地響きが響き渡り、眩い光が戦場を包んだ。

 その中心はジャスパーやクレヴィの傍に居たセルマ。

 彼女が遂に呼び寄せたのだ。

 クレヴィを打ち砕く為に、300年前にテルハ大陸で造られた兵器ストーンゴーレム。

 全長20Mの巨大な質量がクレヴィに立ちはだかった。

 その数は3体。

 その光景が戦場の至る所で垣間見えた。

 城壁の優に三倍近い高さの石の巨人、これこそがクレヴィを殺す為の算段だった。


 戦いは戦争から個人的な、そして伝説的な死闘へと移り変わった、かの様に見えた。

 だが、後にB・B(ブラックブラッド)と呼ばれる特殊部隊員とその指揮官は既に戦場に存在していたのだ。

 彼等の戦いは、ここから始まったといっても過言では無い。

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