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異世界における武力衝突  作者: キロール
第一章、ルーグ城砦の攻防
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第20話「侵入」(改定)

 周囲を薄闇が包む頃、征四郎が一人佇む空き家は既に包囲されている。

 十重二十重に黒一色の制服に身を包んだ少年、少女等が武器と灯りを手に空き家を取り囲んでいた。

 威圧的な振る舞いが板についてきた彼等も、未だに外敵と戦った事は無い。

 空き家に外敵が潜伏していると齎された情報は、正に青天の霹靂であった。

 如何に操られていようとも、広範囲に、不特定多数を操るような術であれば、恐怖や驚きを完全に押さえ込めたものでは無い。

 僅かながらに素の感情を晒しながら、少年、少女は武器を手に集まってきたのだ。


「まだ、突入してこないのか。」


 悠長な事だと征四郎は椅子に腰掛けて足など組んで悠然と待ち構えていた。

 その間に考える事は、この街の一般知識。

 人口や軍隊の割合などだ。


 ブラウニング領は3万人のエルフやケンタウロス、それに少数の他種族が暮らす地域だ。

 バルアド大陸の北に位置するシャーラン王国の最南端の街、大陸中央のルーグ城砦に程近い温暖な地域。

 人口の約二割が軍属であり、軍官僚や下支えの者を除けば総兵力5000の兵力を持つ。

 特定の宗教が力を持つと言うこともない、強いて言えば勇者信仰のような物が盛んであるが、民間信仰に近いため特別な力は持っていない。

 領主のジャスパーは、老いたエルフであり穏当で人当たりが良く、差別主義や強権的な行いに批判的な人物として知られている。


 凡そ、今回の事件の首謀者とは思えない経歴の持ち主であるが、実は勇者を崇拝する組織の一員であったらしい。

 今回の襲撃も、不名誉の誹りを覚悟しての行動であった……筈である。

 だが、途中から明らかに組織の思惑を超えて、暴走を始めているというのが今得ている情報を纏めた物だ。

 途中までは当人の意志で動き、ある段階から操られているのだろう。

 今の街の状態も領主が操られてから、変質した様に思えた。


 空き家に潜伏するまで街の一部を見てきた訳だが、ジャスパーを賛美するような立て札、張り紙、或いは言動はそこにはなかった。

 聞こえてきたのは、城砦を攻めるのは古いくびきからの解放であると言う言い訳がましい言葉ぐらいだ。

 これも、子供等…と言っても人間で言う所の14、5位の少年少女が黒い服装を身につけて、治安維持を行いだしてから囁かれはじめた物らしい。

 少なくとも、投降した兵士達はそう言っていたし、そこはきっと嘘は無いのだろう。


 等と、ゆっくり考えを纏める時間が経過してから、漸く扉が激しく叩かれて開け放たれた。

 義務感と怒りと、そして怯えを含んだ複数の視線に向けて征四郎は軽く肩を竦めて、ゆっくりと立ち上がって。


「投降するので、逮捕してくれ。」


 等と、ぬけぬけと言い放った。


 征四郎は幾重にも厳重に腕を縛り上げられて、小突かれながら街並みを歩かされ、領主の館と思しき場所まで連行されていく。

 投降した際に、殴られたのか口元から血を流しており、頬にはあざが浮かんでいるが、当人的には大した事では無い。

 これで、敵の首魁でも尋問に出てくれば良いがと思いながら、連行されていく征四郎を、志願兵達は影に隠れて見守っていた。


「副長、あれで良いのかい?」


「…少佐が決めた事ですから、仕方ないでしょう。少佐に子供等の目が集まっている間に、行動を開始しましょう。」


 ゴブリンのマウロの問い掛けに、アルマは僅かに逡巡したが直ぐに返答を返した。

 以前に較べれば、意思表示ははっきりとしており、尚且つ的確さに磨きがかかっている。

 僅か二ヶ月でも、変われば変わる物だとマウロなどは思うが、それはアルマのみの話ではなかった。


 例えば、オークのアゾンなどでかい図体の割には臆病で、何事にも決断を下せなかったが、今では喧嘩の仲裁やら進んで行える程度には度胸があり、尚且つ彼我の戦力を見誤る事は無い。

 臆病故に慎重に行動し、見極めて、動くとなれば一気に動く一流の戦士となった。

 勿論、まだまだ足りない部分は多いがアゾンやマウロには何事にも屈しないと言う自信があった、これほどの訓練を受けてきた者は今この大陸に他には居ないと言う事実が与える自信だ。

 自信は、的確に体を動かす源になっていた。


「それでは、皆、半日後に会いましょう。ああ、ラルスとアルデアは何処かに身を隠しておいた方が良いでしょうね。」


 アルマの言葉に、ラルスとアルデアは頷きを返すのみだった。


 この二人は、基礎的な訓練以外は他の者と同じような訓練は受けていない。

 そもそも、自動人形オートマータを鍛えた所で、筋力が付く訳でもない。

 アルマが皆と同じ訓練を受けていたのは、元から戦闘用に造られているであろう事と、経験を積ませ自信を持たせる事が主目的である。

 経験がなければ、如何にポテンシャルが優れていても十分に生かせるはずも無い。

 そして、自信がない為に彼女は常に日和見を繰り返していた。

 一番若い固体であったので、周囲が全てを片付けてしまい彼女自身が学ぶ機会がなかったのだ。

 言わば、レーギーナを始めとした城砦の自動人形オートマータ達は過保護でありすぎた。


 一方で、ラルスやアルデアは最初から戦闘を考えて造られては居ない。

 精々仕える主の盾になれる位の反射神経しか持たされていない。

 故に、その頭脳を用いて皆に貢献するしかないのだ。

 ラルスは主に志願兵の体調を管理する立場から、征四郎に助言する役割を与えられていた。

 無論、作戦立案にかかわりはするが、そちらの主はアルデアだ。

 アルデアは作戦立案を担当しているが、少しばかり攻撃的な策が多く志願兵の体調に頓着しない時がある。

 それをラルスが嗜めるブレーキ役を担っていた。


 アルデアの攻撃精神は戦いと言う行為には大事だ。

 戦争において守ってばかりで勝てた例はほぼないに等しい。

 必ず何処かで反転攻勢に出る。

 例え篭城戦であっても、攻められるだけでは落城を待つより他にない。

 援軍が来るなり、政治工作を行うなりの攻撃は必要なのだ。

 勝利とは、最初に守り最後に攻撃する者が勝者となるがその逆は無いと述べたのは誰であったか。

 ともあれ、征四郎がアルデアを参謀にと考えたのは、数少ない好機を見出し攻撃を敢行する策を立てられると判断したためだ。


 この凸凹コンビは、まだまだ新米も良いところであり、身体的には他の志願兵に劣る。

 それでも、前線に引っ張り出したのは、生き残ればそれが糧になるからだ。

 それが何よりも得がたい知識を与えてくれる事を、征四郎は肌身で感じていたから、この二人も連れてきたのだ。


 征四郎は軍大学を出ては居たが、野戦指揮官でしかなかった。

 参謀府に知己はなく、大学の席次も下から数えた方が早いと言う体たらく。

 士官学校自体は好成績であったし、少尉時代には武功も立てた。

 そのおかげで軍大学に入れたのだが、軍の上層部に食い込むには伝手がなかった。

 それでも、武闘派と呼ばれた第二師団の伊田少将に拾われて、その下で実戦を経験し大隊を任される様になった。


 皇国においては、第二師団に赴く事は非常に嫌がられていた。

 それと言うのも、東西陣営に分かれて戦うあの大戦争に赴くのは、第二師団、第六師団、第九師団と相場が決まっていたのだ。

 年間に1万強程度の将兵が遠い異国に戦いに向かう限定戦争に、喜び勇んで向かう者はそれほど多くは無い。

 上記の三つの師団に配属されるのは、ある意味外れとされていた。

 だが、征四郎は第二師団で指揮官としての才能を開花させ、銀鴞勲章ぎんきょうくんしょうを得るまでになった。

 そして、全将兵七十万ほどの大葦原皇国おおあしはらすめらぎのくに軍の中でも、指折りの実戦経験豊富な若手指揮官の一人になったのだ。

 行く行くは武闘派の将官になるであろうと言う評価すら得る程の。


 この実体験が、実戦で生き残れば必ず糧になると言う、ある意味とんでもない帰結を生み出してしまったのだ。

 人は経験で得た事は、中々覆す事はできない。

 生き残れれば、自動人形オートマータの凸凹コンビも必ず才能を開花させると、征四郎は信じていた。

 場合によっては、それはとんでもない重荷になるが、この場合はそれが正解であった事が後に証明される。

 しかし、それにはまだ時間を有するのは致し方ないことであった。

 今は敵地にて身を潜めるしか、ラルスとアルデアには手が無かった。



 さて、敵に敢えて捉えられた征四郎は領主の館へと連行された。

 領主の館、と言えどもそこまで華美な印象は受けない。

 ただ、本来の主がいない所為か、黒尽くめの少年等が出入りしている所為か、ある種の異様さがそこにはあった。

 本来は手入れされていた筈の庭園は既に雑草が生い茂りだしており、その生命力を誇示していた。

 館の内部は灯りで照らされているが、重々しく暗い雰囲気が充満している。

 征四郎は赤土色の瞳を眇めて、その状況を観察していた。


 程なくして、小さな部屋に連れて行かれた征四郎は椅子に座らされ、尋問を受ける。

 訓練されているわけでは無い、心を折るような嫌らしさは無いが、単純な暴力に晒されながら征四郎は情報を漏らした。

 勿論その情報には何も意味が無い、前言を平然と翻し、記憶が定まらない物言いを繰り返すたびに、殴られ、蹴られ、棒のような物で殴打もされた。

 だが、征四郎は拳打を極めつつあるバルトロメですら驚くほどの耐性を誇っているある種の化け物だ。

 力自慢の少年が力任せに殴ったところで然程ダメージは受けない。

 全く受けない訳でもないが、真に危険が訪れれば艶のない黒い鎧こと、旧文明の魔術兵装カテナを纏えば済む事だ。

 あの兵装は、妖術師でもある征四郎ならば瞬時に身に付ける事ができる。


 こんな状況の征四郎を訓練を受けていない者が尋問した所で情報など吐く訳もなかった。

 そして、尋問とはする方も体力を使う者だ。

 ましてや、征四郎は余人には何を考えているか分からぬ感情を然程表さない赤土色の瞳を相手に向ける。

 それだけでも、尋問者の精神を疲弊させるのに、尋問する者達はそれ以上の得体の知れない恐怖を征四郎から感じていた。

 操られているとは言え、胸中に湧き起こる未知の恐怖を長時間抑え付けていられるほどの精神力を持つ者は、黒尽くめの少年、少女等の中にはいなかった。

 故に尋問は短い時間を途切れ途切れに、別人が担当するのだ。

 尋問がない時間は、征四郎は椅子に縛られたまま眠り、体力の温存を図り続ける。

 本来尋問は、寝る間すら与えず責め続けるのが基本であるが征四郎を尋問する者達は、そんなことすら知らないようだ。

 何度目かの小休止時に、征四郎は思わず失笑しながら体を休める為目を瞑った。


「…さて、どうなる事やら。」


 小さく呟いて、肩を竦めると程なくして睡魔がやってくる。

 次に目覚める時には、状況が動けば良いがと淡い期待を抱きながらあくびを殺す。

 期待に沿わなければ、此方から動くかと微かに思案し堂々と眠りに付いた。

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