第193話 麦で腹は満ちても、夜は明るくならない
【本文】
翌朝、北側の受取場へ行くと、昨日の男が俺の顔を見るなり言った。
「決まった」
ティムが俺より先に反応した。
「何が?」
「昨日のやつだよ」
「重い?」
「お前は荷物を重さから聞くのか」
「最近ずっとロバと坂の話してるから」
男は答えず、倉の奥へ顎を振った。
「来い」
俺たちは倉を抜け、その裏にある低い作業小屋へ入った。
中は暗かった。
入口は開いているのに、壁が厚く、奥まで光が届かない。革の匂いがする。吊られた手綱、裂けた袋、片方だけの靴。窓際で、年配の女が針を動かしていた。
足元に小さな灯りがある。
火はついていたが、頼りない。
女は俺たちを見なかった。
「そいつら?」
「海から物を持ってくる連中」
男が言うと、女の針が止まった。
「海から来るのは物だろ。連中は歩いてきた」
ティムが小さく笑った。
俺も少し笑いそうになったが、男は気にしていない。
「エルナ。油、まだ要るか」
「要らなくなったように見える?」
エルナと呼ばれた女が、足元の灯りを指した。
芯の先が黒い。火が何度か細くなって、また戻る。
「昨日、麦以外って言ってたのは」
俺が男を見ると、今度はエルナが答えた。
「灯り油。二壺。来るならね」
「食べ物じゃなくて?」
ティムが聞いた。
エルナはそこでようやく顔を上げた。
「麦は食べる。油は働く」
ティムが一度だけ瞬いた。
「油も働く?」
「私はね」
針がまた動き始めた。
「明るいうちに全部直せるなら要らないよ。でも荷が増えりゃ、切れる紐も増える。靴底も減る。荷駄の腹帯だって勝手には直らない。火が落ちたら、そこで終わり」
壁際に、昨日まで見たのと同じ荷駄用の腹帯が掛かっていた。縁が裂け、糸で仮止めされている。
麦が届けば終わりじゃない。
麦が動けば、人も荷駄も動く。
動けば、別の物が減る。
「今は何を使ってるんです?」
俺が聞くと、エルナは灯りを見た。
「ある物」
「何の油?」
「だから、ある物」
返事になっていないようで、たぶん十分だった。
受取場の男が壁にもたれた。
「南から入る灯り油は、東回りだと高い。荷が少ない時は後に回される」
「二壺で足ります?」
「足りるわけないだろ」
エルナが言った。
「でも二壺も来ない道に十壺頼むほど暇じゃない」
男が笑う。
「そういうことだ」
俺は灯りを見た。
大麦なら、袋の口を見れば濡れたかだいたい分かる。
炉晶は箱。
油は壺。
落とした時の意味が違う。
「布の方が要りそうじゃない?」
ティムが吊られた破れ袋を見て言う。
エルナはその袋を一度見た。
「布は継げる。紐も短いのを繋げる。暗いのは継げない」
「火を大きくしたら?」
「油が減る」
「そっか」
「今のは本当に分かった顔だね」
ティムが少し嬉しそうに俺を見る。
俺は何も言わなかった。
ここで褒めると、たぶん次に余計なことを言う。
「他にも欲しい物は?」
ティムが聞いた。
男は指を折った。
「粗い布。釘。細い縄。塩は店による」
「いっぱいあるじゃん」
「北が麦だけで暮らしてると思ってたのか」
ティムは口を開いて、閉じた。
エルナが針先を舐める真似だけして、やめた。
「全部一度に持ってこなくていい。持ってこられる物からでいい」
俺は男を見る。
「油にした理由は?」
「小さい」
「高い?」
「安くはない」
「壊れる?」
エルナが鼻で笑った。
「壺ならな」
ティムが俺を見る。
「三個とも嫌な条件じゃない?」
「試すにはいいです」
「その顔すると思った」
受取場の男が昨日と同じことを言った。
俺は否定しなかった。
その日のうちに麦津へ下りる便へ乗った。
麦津の市場で灯り油を扱っていたのは、穀物倉から二本裏へ入った搾り屋だった。
店先に大壺が三つ。
その横で、小さな壺を藁籠へ入れている男がいた。
「北へ?」
話をすると、男は俺ではなくティムを見た。
ティムが抱えていた空の麦袋のせいだと思う。
「麦じゃないよ」
ティムが先に言った。
「見れば分かる」
「じゃあ何で俺見たの」
「暇そうだから」
ティムが俺へ顔を向けた。
「今日、言われ方ひどくない?」
俺は壺を見ていた。
二壺。
腹の丸い焼き物で、口は木栓と蝋で閉じてある。外側を細い藁縄で編んだ籠が包んでいる。
俺が一つ持ち上げると、思ったより軽い。
その中で、ちゃぷん、と音がした。
手が止まった。
搾り屋の男がそれを見て言う。
「今ので嫌な顔したな」
「中、動きますね」
「油だからな」
ティムも持つ。
ちゃぷ。
「麦は音しなかった」
「麦に音してほしいのか」
「ちょっと怖いでしょ。持ってる物の中が勝手に動くの」
その言い方で、少し分かった。
重さだけなら問題ない。
二壺なら、大麦一袋よりずっと軽い。
でも、荷駄の上で中身が動く。
壺は袋みたいに壁へ逃げない。
「一回、二壺だけで」
俺が言うと、搾り屋の男は頷いた。
「壺代は別だ」
「中身と別?」
「返せば戻す」
ティムが壺を見た。
「壺、帰るの?」
「割らなけりゃな」
まだ北へ行ってもいないのに、帰りの話が増えた。
俺は少し笑った。
「何がおかしい」
搾り屋が聞く。
「いえ。道がまた一個増えたなって」
「二壺しか買ってないぞ」
「そういう意味じゃないです」
説明はしなかった。
たぶん、説明しても増えない。
二つの藁籠が、小舟へ載った。
麦袋より小さい。
炉晶箱より軽い。
見た目だけなら、今までで一番簡単そうだった。
そう見える物ほど、最近は信用しないことにしている。
第194話 軽い壺の方が、坂でよく動いた
【本文】
鴎泊へ着いた時、ネドは壺を見て最初に重さを聞かなかった。
「何入ってる」
「灯り油です」
ティムが答える。
ネドは壺へ顔を近づけた。
「漏れてる?」
「たぶん大丈夫です」
「たぶんは誰の?」
止まった。
搾り屋の男は漏れていないと言った。
船でも漏れていない。
でも、俺たちはまだ触っただけだ。
ネドが藁籠の底へ指を入れる。
乾いている。
木栓の周りも乾いている。
「今は大丈夫」
「今は」
ティムが嫌そうに繰り返した。
最近、俺たちの会話には“今は”と“今日は”が増えた。
壺は二つ。
荷駄は一頭だけ先に下ろしてきた。
二壺を左右へ一つずつ。
重さは揃っている。
見た目も揃っている。
「簡単じゃん」
ティムが言った。
ネドは返事をしなかった。
鞍の横へ壺籠を掛け、革紐を締める。
一度。
荷駄を三歩歩かせる。
止める。
また締める。
「まだ?」
ティムが聞く。
「まだ」
今度は俺が言った。
ネドが少しだけこっちを見る。
「覚えたな」
「それ、褒めてます?」
「知らん」
荷駄が歩き出す。
平らな浜では問題なかった。
壺も揺れない。
いや、外からは揺れて見えない。
赤崖へ入る手前で、俺の横にいたティムが首を傾げた。
「今、鳴った?」
「何が」
「ちゃぷって」
俺も聞いた。
一歩。
ちゃぷ。
次の一歩では、聞こえない。
荷駄の胴が左右へ動くたび、中の油だけが少し遅れてついてくる。
ネドが手を上げた。
止まる。
荷駄も止まった。
「重い?」
ティムが聞く。
「重さじゃない」
ネドは右側の壺籠を手で押した。
「遅れて動く」
「油が?」
「中が」
俺も壺へ手を置く。
荷駄の身体は止まっているのに、手の中で一度だけ小さく揺れが返ってきた。
今までの荷にはなかった。
麦袋は荷駄と一緒に動く。
炉晶箱も、動けば箱ごとだ。
油は、外側が止まっても中で一拍残る。
「これ、坂だと?」
俺が聞く。
ネドは答えず、赤崖を見た。
その顔が答えだった。
いきなり通さなかった。
浜の脇の短い坂で試した。
上がる。
止まる。
下がる。
また上がる。
三回目で、右の壺籠が指二本分だけ後ろへずれた。
「ほら」
ネドが言う。
ティムがしゃがむ。
「二本分で分かるの?」
「今は二本」
「その言葉嫌いになってきた」
俺も少し分かる。
締めればいい、ではなかった。
硬い壺を強く締めすぎれば、籠越しでも一点へ力が掛かる。
緩ければ動く。
ネドは藁を増やした。
壺の腹と籠の隙間へ押し込み、丸い胴が籠の中で遊ばないようにする。
それから紐を一方向ではなく、前後にも渡した。
ティムが覗き込む。
「最初からそうしなかったの?」
ネドが手を止めた。
「最初から知ってたら試さない」
ティムは俺を見る。
「それ、レンが言いそう」
「俺も今思いました」
ネドはもう作業へ戻っていた。
二回目の坂。
今度はずれない。
中の音はする。
でも籠は動かない。
そこで初めて赤崖へ入った。
曲がりの手前で、俺たちは一度止まった。
地面に炭粉がある。
新しい。
足跡は下向きが多い。
空籠を置いた丸い跡も残っている。
ネドがしゃがんだ。
「一回下りたな」
「終わった?」
ティムが聞く。
「知らん」
「そこは分からないんだ」
「見てないからな」
誰にも知らせてもらわない代わりに、こっちで見られるところまで見る。
でも跡は“さっき通った”しか教えない。
“もう来ない”までは教えてくれない。
荷駄を一頭だけ曲がりへ入れた。
麦の時より、壁との距離を取る。
壺は箱ほど角がない。
でも当てたくない。
俺が前。
ネドが荷駄の肩横。
ティムは少し後ろ。
「俺、今日は蹴られない場所分かる」
「言わなくていいです」
「成長報告」
「今いらない」
荷駄が大きな石を避けた。
右前脚が内へ入る。
身体が少し傾く。
ちゃぷ。
今度は音だけじゃなかった。
荷駄の腹が一度、外へ膨らむように揺れた。
俺の手に、手綱の張りが来る。
ネドがすぐ首の横へ手を置いた。
「止めろ」
止まる。
壺は落ちていない。
紐も外れていない。
けれど荷駄の耳が後ろへ倒れている。
ティムが声を小さくした。
「嫌がってる?」
ネドは荷駄の腹へ手を当てた。
「揺れが嫌なんだろ」
「軽いのに」
「軽いから何だ」
またそれだった。
人間が数えやすい条件と、荷駄が嫌がる条件は同じじゃない。
俺は壺籠の位置を見る。
少し高い。
麦袋より硬く、腹から離れている。
「下げられます?」
ネドが俺を見る。
「少し」
「下げたら壁は?」
俺が曲がりを見る。
「近くなる」
「じゃあ半分」
正解ではない。
今よりましな位置を探すだけだ。
一度戻し、壺籠を少しだけ低くした。
壁側には古い毛布を畳んで当てる。
三回目。
ちゃぷん、という音は残った。
でも荷駄の身体は前より静かだった。
曲がりを抜ける。
その直後、上から鈴が聞こえた。
ティムが目を閉じた。
「やっぱ来た」
モーグが空籠を背負って戻ってきた。
俺たちの荷を見て、足を止める。
「何だそれ」
「油です」
「丸いな」
「壺ですから」
「落とすなよ」
「落としません」
モーグは鼻で笑った。
「落とすやつは先にそう言う」
何も返せなかった。
麦の時なら、空籠のモーグは崖側へ寄って通れた。
今日は通さなかった。
壺を載せた荷駄を、一度曲がりの広い側まで戻す。
モーグを先に通す。
一分も掛からない。
でも、その一分を惜しんで割る理由はなかった。
「麦より面倒だな」
通り過ぎながらモーグが言う。
ティムが壺を見る。
「軽いのにね」
「まだ言うのか」
モーグはそのまま下りていった。
北側へ抜けた時、二つの壺は無事だった。
油も漏れていない。
ただ、積むのに麦より時間が掛かった。
曲がりも、一緒には抜けられなかった。
荷駄も、いつもより神経を使った。
“軽い荷”。
記録板へそう書こうとして、俺はやめた。
ティムが覗く。
「書かないの?」
「軽い、だけだと間違えそうなので」
「じゃあ何て?」
少し考える。
《二壺。重さは軽い。中身は動く。硬い。》
ティムが読む。
「悪口みたい」
「荷物に嫌われても困りません」
「油、結構働いてるね」
昨日のエルナの言葉を思い出したらしい。
今度は俺が少し笑った。
二壺は、その日のうちに北側の受取場へ着いた。
第195話 一壺使ったら、空き壺が帰りの荷になった
【本文】
受取場の男は、二つの壺を見て最初に中身ではなく籠を見た。
「増えた?」
「何がです?」
「藁」
ティムがすぐ言う。
「途中で増えた」
「何で」
「油が中で動いた」
男は俺を見る。
俺が頷くと、壺を一つ持ち上げた。
ちゃぷん。
「ああ」
それで分かったらしい。
最近、“説明しなくても一回持てば分かる”ことが増えてきた。
エルナの作業小屋へ二壺を持っていく。
昨日と同じ場所に、小さな灯りがあった。
火はもっと細い。
エルナは靴底へ針を通していた。
「来ました」
俺が言うと、針を止めずに返す。
「何が」
「油」
そこで手が止まった。
一瞬だけ。
ティムが俺を見る。
たぶん同じことに気づいた。
エルナは立ち上がると、壺の栓を見た。
蝋。
籠。
底。
最後に俺たち。
「割らなかった?」
「はい」
「漏らさなかった?」
「はい」
ネドが後ろから言う。
「揺れた」
エルナはそっちを見る。
「油なんだから揺れるだろ」
ネドは何も言わなかった。
ティムが小声で言う。
「今日みんなそれ言う」
誰も拾わない。
エルナは小さな器へ油を移した。
灯りの火を落とし、芯を整え、新しい油を入れる。
火がつく。
昨日より少しだけ明るい。
俺は、何か言うのを待った。
エルナは座った。
針を持った。
また靴底を縫い始めた。
ティムも待っていたらしい。
少ししてから聞く。
「感想ないの?」
「見える」
「それだけ?」
「お前、灯りに何を期待してるんだ」
受取場の男が笑った。
エルナは縫い目から顔を上げない。
「今夜、これ二足終わる」
それで十分だった。
壁に掛かった裂けた腹帯を見た。
昨日、途中まで縫ってあったやつだ。
今夜、この灯りの下でもう少し進む。
それだけだった。
ティムが壺を覗き込んだ。
「これ、全部ここに入れないの?」
「一つずつ使う」
エルナが言う。
「何で?」
「開けたら置いとく方が面倒だろ」
「なるほど」
「分かってない顔だな」
「今日はよく言われる」
受取場の男が荷札を確認していた。
途中で眉を寄せる。
「壺代、預かり?」
俺も見る。
麦津の搾り屋が付けた札だ。
《壺二 返却時に預かり銭返し》
ティムがゆっくり壺を見る。
「帰るんだ」
「昨日も言われました」
「聞いたけど、本当に帰るんだ」
エルナが針を止めた。
「返すの?」
「返さないと、次は壺ごと買うことになります」
受取場の男が指で計算する。
「それは高いな」
「次も買うの?」
ティムが聞く。
エルナはすぐ答えなかった。
靴底へ針を通し、糸を引き切ってから言う。
「届くなら」
「何壺?」
「まだ知らない」
「毎回?」
「知らないって言っただろ」
ティムが口を閉じる。
昨日までの俺なら、ここで月何壺、誰が払う、どの便へ載せる、と聞きたくなったと思う。
今も聞きたい。
でも二壺届いただけだ。
定期便ではない。
需要も、今日二壺使う人がいると分かっただけ。
「空いた壺は、いつ返せます?」
俺が聞く。
エルナが今度はすぐ答えた。
「一つは三日くらい。もう一つは、その後」
「同時じゃない?」
「同時に空にするために油捨てるのかい」
ティムが吹き出した。
「それはそう」
受取場の男が壁へ頭をつける。
「帰り便に二つまとめて載せるつもりだった」
「まだ一つしか空かないですね」
「一つのために船出すなよ」
「出しません」
「出しそうな顔してる」
「してません」
ティムが横から俺を見る。
「ちょっとしてる」
していない。
たぶん。
壺を返すためだけの便は作らない。
南へ下る炉晶がある時。
空き壺がその時まで安全に残っているなら、一緒に戻す。
それくらいでいい。
問題は、空き壺だった。
中身がないから軽い。
でも割れやすさは変わらない。
むしろ中身がない分、荷駄の横で跳ねやすいかもしれない。
「空き壺って、油入りより簡単ですか?」
ティムがネドへ聞いた。
ネドは壺を持ち上げた。
軽く振る。
音はしない。
「軽い」
「じゃあ簡単?」
ネドは壺をティムへ渡した。
ティムが受け取る。
思ったより軽かったらしく、少し上へ持ち上がった。
「うわ」
ネドが言う。
「今ので岩に当てる」
ティムは両手で抱え直した。
「簡単じゃないね」
「軽いから雑に持つ」
「それ、俺の問題?」
「今は」
俺は笑ってしまった。
エルナがこちらを見た。
「何」
「いえ」
「うるさいなら外でやれ」
追い出された。
受取場の前で、男が壺の預かり札を俺へ返す。
「これ、誰が持つ」
「そっちで持っててください。空いた時に一緒に」
「なくしたら?」
「壺代が戻らない」
「俺のせい?」
「持つなら」
男が嫌な顔をした。
すぐにエルナの小屋へ戻り、札を戸口から投げる。
「お前持っとけ!」
中から声が返る。
「油買ったのはあんたの倉だろ!」
札が戻ってきた。
ティムが声を出して笑った。
俺も止められなかった。
最後は、札を受取場の記録板へ紐で結んだ。
誰の制度でもない。
今日なくさないための置き場所だ。
二壺の油は届いた。
それだけなら成功だった。
でも、荷物は届いたところで消えない。
容器が残る。
札が残る。
次に買うかどうかも残る。
帰りの荷が一つ増える。
夕方、俺は空いていない壺を見ながら記録板へ書いた。
《灯り油 二壺 到着》
《破損なし》
《積載は麦より時間必要》
《空壺返却あり》
《次回数量 未定》
ティムが最後の一行を見て言う。
「未定、多くない?」
「決まってないので」
「前より未定を怖がらなくなったね」
俺は返事をしなかった。
少し離れた小屋で、灯りがついた。
まだ明るい時間なのに。
たぶん中が暗いからだ。
その灯りの下で、エルナはもう次の靴を縫っている。
海路ができたとは、まだ言えない。
二壺運んだだけだ。
でも麦袋以外の物が、初めてこの道を生活の中へ入っていった。
次は油かもしれない。
布かもしれない。
全然別の物かもしれない。
そこはまだ決めなくていい。
空き壺一つでさえ、まだ赤崖を戻していない。
第196話 空っぽの壺は、重い箱より跳ねた
【本文】
三日目の昼、エルナの小屋へ行くと、入口に壺が一つ置いてあった。
中身はない。
たぶん。
ティムが持ち上げる。
「軽っ」
勢いが余って、壺の口が戸枠へ近づいた。
エルナの針が止まる。
「今、当てた?」
「当ててない」
「今の間は何」
「近かっただけ」
「近いのも嫌なんだよ」
ティムは両手で抱え直した。
ネドが後ろから壺を受け取る。
一度、持ち上げる。
少し振る。
音はしない。
「空だな」
「分かるんです?」
「入ってたら鳴る」
「前は鳴るの嫌がってたのに」
「今は鳴らんのが嫌だ」
ティムは壺を抱えたまま首を傾げた。
「荷物って面倒だね」
「人も似たようなものじゃないですか」
「急に俺の話にした?」
していない。
たぶん。
受取場へ戻ると、男が記録板から預かり札を外していた。
「一個目」
「はい」
「二個目は」
「まだ使ってる」
エルナが後ろから答えた。
男は振り返らない。
「聞いてない」
「顔が聞いてた」
札には《壺二》とある。
その横へ、男が炭で小さく一本線を引いた。
「これも持ってけ」
俺へ差し出す。
ティムが手を出した。
男が引っ込めた。
「お前は壺持て」
「信用ないなあ」
「さっき戸にぶつけかけた」
見ていたらしい。
ティムが壺を抱えたままエルナを見る。
「言った?」
エルナはもう小屋へ戻っている。
返事はなかった。
ちょうど、その日の午後に南へ下る炉晶箱が一つあった。
東浜の買い手が、前に試した物と同じ程度ならもう一箱だけ見たいと言ってきたらしい。
定期ではない。
次もあるとは限らない。
だから、空き壺一つを試すにはちょうどよかった。
「一緒に載せればいいじゃん」
ティムが言った。
ネドは炉晶箱と空壺を見比べた。
「やってみろ」
「俺?」
「簡単なんだろ」
ティムが黙った。
俺も少し笑った。
荷駄の横には、炉晶箱を固定する枠がある。
空壺の藁籠は、その脇へ入るくらい小さい。
見た目だけなら、隙間にちょうど収まった。
ティムが縄を回す。
「ほら」
ネドは何も言わない。
荷駄を歩かせた。
一歩。
二歩。
三歩目で、こつ、と音がした。
全員止まる。
荷駄まで止まった。
ティムが炉晶箱と壺の間へ指を入れる。
「当たった?」
ネドが先に言う。
「当たった」
「でも軽いよ」
「軽いから跳ねた」
空壺は、油入りみたいに中身の重さで落ち着かない。
歩くたび、藁籠ごと少し浮く。
その一回が、硬い炉晶箱へ触れた。
割れてはいない。
でも、このまま赤崖へ入る理由もない。
一度外す。
ネドが空の麦袋を二枚持ってきた。
丸めて、炉晶箱と壺の間へ挟む。
それから壺籠の上を別の縄で押さえた。
壺の首ではなく、籠の縁を押さえる。
「首締めると?」
ティムが聞く。
「知らん」
「知らないんだ」
「割って知りたいか」
「今ので十分です」
返事が早かった。
短い坂で試す。
その前に、俺も荷を持たず同じ斜面を一度だけ往復した。
前なら平らな石を選んで踏んでいた。今は、平らでも砂の乗った石を避ける。右足を置く前に左肩が先へ出ないようにする。赤崖を何度も通って、ようやく身体が覚え始めたことだ。
Lv3になったから急に上手くなったわけじゃない。転ばなかった回数と、危なかった場所を覚えているだけだった。
ネドが荷駄の手綱を持ったまま言う。
「終わった?」
「はい」
「じゃあ荷の方見るぞ」
説明はそれだけだった。
下り。
止まる。
また下りる。
今度は音がしない。
壺籠を触ると、少しだけ上下へ動こうとする力はある。
でも箱までは届かない。
俺が縄を一本触る。
「これ、強くした方が」
「やるな」
ネドがすぐ止めた。
手を離す。
「締めれば安心、じゃなかったですね」
「覚えてるならいい」
荷駄の耳が一度こっちを向いた。
たぶん俺たちの会話には興味がない。
赤崖へ入る。
今日は炭粉が古い。
足跡も乾いている。
それでも曲がりの手前で止まり、音を聞いた。
上から鈴は来ない。
下からも来ない。
一頭だけ通す。
炉晶箱より、空壺の方を何度も見た。
それが少しおかしかった。
重い物より、軽い物の方が気になる。
曲がりを抜ける直前、荷駄が小石を踏んだ。
身体が一度跳ねる。
俺の肩も揺れた。
ティムが息を止める音がした。
壺は動いた。
でも麦袋の緩衝材に当たり、炉晶箱までは届かなかった。
「今の、効いた?」
ティムが聞く。
ネドは歩きながら荷を触る。
「今は」
ティムが顔をしかめた。
「その言葉、まだ使う?」
「便利だからな」
北側から鴎泊へ下りきった時、壺は無事だった。
炉晶箱も無事。
一緒に運べた。
ここまでは。
浜でダグが荷札を見た。
炉晶箱。
それから壺。
「箱は東浜」
「はい」
「壺は」
「麦津です」
ダグは綱を握ったまま、俺の返事を待った。
その間が少し長かった。
「同じ船に載せる気か」
ティムが先に答えた。
「南だから」
ダグは綱を引く手を止めた。
「南は町の名前じゃない」
その横で、ハナが網から顔を上げた。
「今さら?」
誰も答えなかった。
東浜へ行く小舟は、麦津へは寄らない。
空き壺は赤崖を越えた。
でも、まだ油屋へは帰れない。
俺は記録板へ一行足した。
《空壺一 赤崖南下》
その下に、少し迷って書く。
《行先 麦津》
“南向き”。
便利な言葉だった。
便利すぎて、今まで雑に使っていた。
第197話 南向きでも、行き先は同じじゃなかった
【本文】
東浜行きの炉晶箱だけが先に舟へ載った。
空き壺は浜に残った。
ティムが壺を抱えたまま、遠ざかる舟を見る。
「同じ南なのに」
「まだ言うの」
ハナが網糸を歯で切った。
「地図で下なら全部一緒だと思ってる?」
「思ってないよ。ちょっとだけ思ってた」
「それを思ってるって言うんだよ」
ティムが口をへの字にした。
助けを求められても困る。
俺も、炉晶箱に同乗できると思っていた。
一歩横へ退いたら、踵が細い網糸へ触れた。
ハナの手が止まる。
何も言わない。
俺は足を上げて、糸から離した。
「すみません」
「まだ切れてない」
「まだ、ですね」
「その言葉、あんたら好きだね」
ティムが笑いかけて、ハナが糸を確かめているのを見てやめた。
浜は荷物を置く場所でもあるけれど、誰かの仕事場でもある。空いて見える板一枚まで、こっちの物じゃない。
ハナは網を膝から下ろし、壺を一度見た。
「麦津なら、昼過ぎ」
「船あります?」
俺が聞くと、ハナは網の目を数え始めた。
一つ。
二つ。
三つ。
返事が来ない。
ティムが待てずに聞く。
「あるの?」
「私が行く」
四つ目で指が止まった。
「糸を買いに。細いの、もうない」
「乗せてもらえます?」
「人?」
「壺」
「人なら嫌」
ティムが笑う。
「壺ならいいんだ」
「喋らないからね」
ハナはまた網へ目を落とした。
「一個なら。銅貨一枚」
ティムの笑いが止まる。
「取るんだ」
「私の船で、私の仕事のついで。何で無料だと思ったの」
「思ってないよ」
「今、顔が言った」
最近、顔がよく喋る。
俺は壺籠を持ち上げた。
「積み下ろしはこっちでやります。銅貨一枚」
「割れたら?」
「置き方が悪ければ俺たち。船をぶつけたら?」
ハナが初めてこっちを見た。
「その時は壺より先に船を心配する」
それで話は終わった。
完璧な責任分けではない。
壺一つに必要な分だけだ。
出るまで少し時間がある。
ティムが壺を浜の板へ置き、その上へ腰を下ろそうとした。
「やめて」
俺とハナが同時に言った。
ティムが止まる。
「座ってない」
「今から座る動きだった」
「膝曲げただけ」
ハナはもう見ていない。
俺も壺を別の場所へ移した。
軽い荷は、人間の扱いまで軽くする。
ネドの言葉が少し分かってきた。
昼を少し過ぎて、ハナの小舟へ乗せる。
船底には、買い付け用の空籠が二つと、網の束。
硬い板へ壺を直接置こうとすると、ハナが櫂で床を叩いた。
「そこ、跳ねる」
「どこなら?」
「自分で考えるんじゃなかったの」
言いながら、網束を足で少し寄せた。
答えはそこにあった。
網束の横へ藁籠を置く。
空の麦袋を下へ一枚。
左右を空籠で挟む。
固い物と直接触れない。
ティムが壺を押す。
「動かない」
ハナが櫂を取る。
「船もまだ動いてない」
「今日ずっと厳しくない?」
「糸が切れたから機嫌悪い」
「俺、関係ないじゃん」
「だから八つ当たり」
ティムが口をへの字にした。
「正直だね」
「聞こえてるよ」
小舟が離れた。
鴎泊の入り江を出ると、波は小さい。
それでも陸の揺れとは違う。
空壺が一度、網束へ沈み、戻る。
音はしない。
ティムがじっと見ている。
「中身ないのに、まだ見ちゃう」
「割れるのは外側ですから」
「それ、何か深いこと言った?」
「言ってません」
ハナが笑った。
珍しかった。
ティムも少し嬉しそうにしたが、そこで波が一つ船腹へ当たった。
壺籠が上へ跳ねる。
空籠の縁に近づいた。
俺が手を伸ばすより先に、ハナが足で網束を押し込む。
壺がまた柔らかい方へ落ちた。
「手、出すな」
「でも」
「船揺れてる時に立つ方が邪魔」
座り直す。
俺は壺を見た。
網束が緩衝材になっている。
でも、ハナの仕事道具でもある。
「毎回これ使えませんね」
「当たり前。これ売り物じゃないし、貸し布でもない」
「今日は?」
「糸買うから機嫌悪い分」
意味が分からない。
ティムも分からなかったらしい。
聞き返さなかった。
しばらくして、ハナが俺の胸元を指した。
「札は」
一瞬、意味が分からなかった。
預かり札。
内側の袋へ入れてある。
手を当てる。
ある。
「ここです」
「濡らすなよ」
ティムが壺を見る。
「壺だけ返せば分かるんじゃない?」
ハナが鼻で笑った。
「誰に銭返すかも壺に書いてあるの?」
ティムが黙る。
俺も少し黙った。
壺を返す。
預かり札を返す。
預かり銭を受け取る。
それで終わりではない。
その銭を、北へ戻す必要がある。
壺より小さい荷が、もう一つ増えた。
麦津へ着くと、ハナは俺たちが降りるのを待たなかった。
「それ、そっち」
糸屋の方を顎で示す。
「私はこっち」
「ありがとうございました」
「銅貨一枚」
「あ」
ティムが忘れていた。
俺が払う。
ハナは受け取り、数えもしないで腰袋へ入れた。
「帰りは?」
ティムが聞く。
「糸の量見てから」
「乗せてもらえる?」
「人?」
「今度は人」
「高いよ」
そう言って行ってしまった。
油屋へ着く頃には、空壺を運んでいるのが少し変に感じなくなっていた。
搾り屋の男は俺たちを見る。
壺を見る。
もう一度俺たちを見る。
「一個だけ?」
「一個だけです」
「もう一個割った?」
ティムがすぐ言う。
「使ってる!」
男は笑った。
俺は内側から預かり札を出す。
「まず一個、返しに来ました」
男は札より先に壺の底を見た。
第198話 壺を返したら、今度は銭が帰りの荷になった
【本文】
搾り屋の男は、壺の底を親指で擦った。
焼き印。
縁。
口。
最後に藁籠を外して、腹を一周見る。
ティムが待ちきれずに聞く。
「合格?」
男は答えない。
壺を軽く叩く。
こん、と乾いた音がした。
「ひびなし」
「合格?」
「学校じゃない」
ティムが両手を少し広げた。
「今日も言われ方が」
「静かにしてた方がいいですよ」
「レンまで」
男は預かり札を受け取った。
《壺二》の横に、北側の受取場で付けた一本線がある。
「向こうで書いた?」
「はい。一個空いた印です」
「勝手に増やすなよ」
「だめでした?」
「分かるからいい」
いいらしい。
男はその一本線の横へ、今度は小さな丸を付けた。
「一個戻り」
札を返す。
二個目はまだ北にある。
だから札も終わらない。
男が店の奥から小銭を出した。
机へ置く。
ちゃり、と鳴る。
ティムが壺より先にそっちを見る。
「返ってきた」
「預かりだからな」
俺も見る。
壺一個分の預かり銭。
それで初めて、次の問題が目の前の形になった。
「これ、誰に返す」
搾り屋の男が聞いた。
ティムの手が宙で止まった。
俺も黙った。
男が眉を上げた。
「お前ら、そこ決めずに来たのか」
「北の受取場です」
俺が答えた。
前回、油代と壺の預かり分は北側から預かった銭で払っている。
返るなら、北へ戻る。
「じゃあ持ってけ」
男が机の銭を俺の方へ押した。
ティムが小さく笑う。
「壺返したら終わりじゃなかった」
「銭は勝手に歩かん」
搾り屋はもう次の壺へ油を移している。
話は終わったらしい。
俺は銭を取った。
軽い。
空壺よりずっと軽い。
なのに急に持ち方が変わった。
掌で数える。
袋へ入れる。
紐を締める。
もう一度触る。
ティムが見ていた。
「壺の時より慎重じゃない?」
「壺は落としたら音がします」
「銭もするよ」
「なくした後はしないでしょう」
ティムが一度口を開き、閉じた。
「それ、嫌な言い方だね」
店を出る。
麦津の通りは、来た時より人が多い。
魚籠。
粉袋。
釘を量る音。
昼飯の匂い。
ティムが串焼きを見た。
俺の腰袋を見る。
また串焼きを見る。
「その銭では買いませんよ」
「何も言ってない」
「顔が」
「最近みんな顔読むのやめてほしい」
買わなかった。
自分の銭で別の物を買っていた。
ハナは糸束を三つ抱えて戻ってきた。
思ったより多い。
「増えましたね」
俺が言うと、ハナは嫌そうに見る。
「安かったから」
「帰り、人乗れます?」
ティムが聞く。
「一人減らせば」
「誰を」
ハナはティムを見た。
「冗談」
「間が長いよ」
帰りの小舟には、壺がない。
代わりに糸束がある。
俺の腰には預かり銭がある。
海から見れば、行きより荷は少ない。
俺には、行きより気になる物が増えていた。
鴎泊へ戻るまで、三回くらい腰袋へ手を当てた。
二回目でティムに見つかった。
「ある?」
「あります」
「さっきもあったよ」
「確認です」
「壺の時もそれ言ってた」
ハナが櫂を動かしながら言う。
「海に落としたら拾わないよ」
俺の手が腰袋から離れた。
ティムが笑う。
「効いた」
鴎泊へ着く。
その日は赤崖の上へ炭運びの鈴が聞こえていた。
急がなかった。
糸束を抱えたハナは、俺たちより先に浜を離れる。
「銭、届けるんでしょ」
「はい」
「じゃあ落とすなよ」
「それしか言わないですね」
「落としたら増える話がないから」
ハナは行ってしまった。
俺とティムは炭の下りが終わるのを待った。
待っている間、ネドが来た。
「壺は」
「返しました」
「割れた?」
「割れてません」
「じゃあ何持ってる」
俺の腰袋を見た。
「預かり銭です」
ネドの顔が少し嫌そうになった。
「そっちの方が面倒だな」
ティムがすぐ反応する。
「ネドさんも?」
「割れ物は割れたら見える」
俺も同じことを考えていた。
炭の最後の一頭が下りたあと、赤崖を上がる。
今度は荷駄を使わない。
俺たち二人だけだ。
だから簡単――とは思わなかった。
石で滑れば、銭も一緒に落ちる。
俺が転べば、誰かの預かり銭を持ったまま転ぶ。
軽い荷ほど、人間側の責任が重いことがある。
そんなことを考えながら歩いていたら、ティムが前で止まった。
「何?」
「いや、今レン、すごい真面目な顔してるから」
「崖ですよ」
「壺の時もしてた」
「歩いてください」
「はいはい」
返事は軽い。
足は前より慎重だった。
北側の受取場へ着くと、男は記録板を見ていた。
俺たちを見る。
空壺がないことを見る。
「返した?」
「一個」
「銭は」
腰袋から出す。
机へ置く。
男は数えた。
一度。
もう一度。
それから預かり札を見る。
一本線の横に、搾り屋の丸が増えている。
「向こうの印?」
「一個返った印だそうです」
男は銭をしまった。
記録板へ書く。
《空壺 一 返却》
《預かり銭 一 戻り》
ティムが横から読む。
「これで一周?」
男は炭を置いた。
俺を見る。
「次もお前が銭持って帰るのか」
すぐには答えなかった。
今回は壺一つだった。
預かり銭も少ない。
俺たち自身が麦津まで行った。
帰りも戻ってきた。
だから成立した。
「毎回は、困ります」
俺が言うと、男は頷いた。
「だろうな」
ティムが記録板を見る。
「でも一個は回った」
「はい」
「壺も」
「はい」
「銭も」
「はい」
「レンも」
「俺は荷物じゃないです」
男が笑った。
俺も少し笑った。
二個目の壺は、まだエルナの小屋にある。
次の灯り油を頼むかも決まっていない。
炉晶も、麦も、毎回同じ量ではない。
空壺一個が帰っただけで、海路が完成したわけでもない。
それでも、行くだけだった荷が、一度だけ帰ってきた。
物が戻った。
銭も戻った。
記録も残った。
一周した。
ただし、俺が最初から最後まで付いていた。
俺は記録板の下へ、小さく付け足した。
《専用便なし》
少し考えて、もう一つ。
《人付き》
ティムが読んだ。
「それ、誰のこと?」
「俺たちです」
「次は人なし?」
「まだ決めません」
ティムが笑った。
「出た。未定」
否定しなかった。
前より、その言葉は嫌いじゃなかった。




